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【記者発表】VOCの気体分子は固体にどう取り込まれるのか――分子性結晶の大きさによって相転移・再結晶・潮解という異なる挙動を示すことを実証――

○発表のポイント:
◆分子性結晶が、VOC(揮発性有機化合物)の一種であるクロロホルムの蒸気を取り込んだ後に生じる、分子性結晶の多様な構造変化を観測することに成功した。
◆クロロホルム分子を取り込むと、大きな結晶では結晶の相転移が生じ、小さな結晶では再結晶や有機潮解現象が起こることを実証した。
◆「気体分子が固体にどのように取り込まれていくのか」という根本的な問いに重要な知見を与えるだけでなく、VOCのセンシング材料の開発に貢献すると考えられる。

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分子性結晶(注1)が蒸気のクロロホルム分子を取り込みながら相転移(注2)・再結晶・潮解が起こる

○概要:
 水蒸気がシリカゲル表面に吸着する現象や塩化カルシウムに取り込まれて水溶液となる潮解現象は、乾燥剤として利用されている。このように気体分子が固体に吸着し取り込まれる現象は、基礎科学から材料応用までの幅広い分野で重要である。一方、固体が気体分子を取り込んだ後に、相転移、再結晶、潮解へと至る多様な変化を系統的に捉えた例は限られていた。
 東京大学 生産技術研究所の石井 和之 教授、兵庫県立大学大学院理学研究科の阿部 正明 教授らによる研究グループは、共焦点レーザー顕微鏡(注3)と単結晶X線構造解析(注4)を併用して、発光性レニウム(I)錯体(注5、図1左)の結晶が、VOCの一種であるクロロホルムの蒸気を取り込む様子を微小領域で系統的に追跡した。

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図1:発光性レニウム錯体の分子構造(左)、1万個以上のレニウム錯体分子がa軸に沿って協同しながら、c軸に沿ってクロロホルム分子を取り込んでいく様子(右上:観測された共焦点レーザー顕微鏡発光写真、右下:単結晶X線構造解析で得られた分子構造)。この動画は次のURLで見ることができます。
https://www.youtube.com/shorts/scZJPAy2BVQ

 50マイクロメートル(1マイクロメートルは1/1000ミリメートル)以上のレニウム錯体の結晶においては、1万個以上のレニウム錯体分子が協同しながら、固有の軸に沿ってクロロホルム分子を取り込んでいく様子を観測することに成功した(図1右上)。また、クロロホルム分子を取り込む前後の境界領域に中間状態が存在することも明らかとした。さらに、2~10マイクロメートルの結晶の場合、クロロホルム分子を取り込みながら再結晶を起こすこと(図2上段、中段)、2マイクロメートル以下の結晶の場合、クロロホルム分子を取り込んで液体へと変化する有機潮解現象(注6、図2下段)が起こることを実証した。このような結晶の大きさに依存した現象は、結晶の体積に対する表面積の比率で説明された。

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図2:レニウム錯体の小さな結晶において、クロロホルム分子を取り込みながら再結晶していく様子(上段、中段:共焦点レーザー顕微鏡透過光写真)と有機潮解していく様子(下段:共焦点レーザー顕微鏡透過光写真)。この動画は次のURLで見ることができます。
https://www.youtube.com/shorts/EnGi5hgWUv8

 これらの研究成果は、「気体分子が固体にどのように取り込まれていくのか」という根本的な問いに重要な知見を与えるだけでなく、VOCのセンシング材料の開発に貢献すると考えられる。

○発表者コメント:石井 和之 教授の「もしかする未来」
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原子レベルで設計・制御可能である分子を積極的に機能・技術へ具現化することは、今後の科学技術において最重要課題の一つです。蒸気にさらす、こするなどの「マクロで弱い刺激」によって、室温付近でミクロな構造が容易に変化する「ソフトクリスタル」(注7)は、分子を活用する有効なアプローチの一つです。今回、「ソフトクリスタル」のVOC応答性を微視的に観察し、その本質に迫ることができました。今後は、「ソフトクリスタル」の概念に基づいた機能性材料を開発していきたいと思います。                     
石井 和之 教授 研究者プロフィール

○発表内容:
 水蒸気がシリカゲル表面に吸着する現象や塩化カルシウムに取り込まれて水溶液となる潮解現象は、乾燥剤に利用されている。さらには金属・合金による水素吸蔵などに例を見るように、気体由来の成分が固体に取り込まれる現象は、基礎科学から材料応用までの幅広い分野で重要である。一方、固体が気体分子を取り込んだ後に、相転移、再結晶、潮解へと至る多様な変化を系統的に捉えた例は限られていた。
 本研究グループは、共焦点レーザー顕微鏡と単結晶X線構造解析を併用して、発光性レニウム錯体(fac-[Re(CO)3Br(ppt)]、ppt = 2-ピリジル-4-フェニルチアゾール)の結晶が、VOCの一種であるクロロホルム(CHCl3)の蒸気を取り込む様子を微小領域で系統的に追跡した。
 レニウム錯体の結晶(1-Nil)をクロロホルムの蒸気にさらすと、結晶中においてレニウム錯体分子の間にクロロホルム分子を取り込んだ結晶(1-CHCl3)を形成することが単結晶X線構造解析により明らかとなった。1-Nil結晶から1-CHCl3結晶へ相転移するとレニウム錯体結晶の発光スペクトルが変化することを利用し、共焦点レーザー顕微鏡により相転移の様子を追跡した。
 50マイクロメートル以上のレニウム錯体の結晶1-Nilにおいては、1万個以上のレニウム錯体分子(約1ナノメートルの大きさ)がa軸に沿って協同しながら、c軸に沿ってクロロホルム分子を取り込んでいく様子を観測することに成功した(図1右上)。さらに、1-Nil結晶と1-CHCl3結晶の境界領域に、幅1マイクロメートル程度の中間状態が存在することも発光スペクトルから明らかとした。
 さまざまな大きさの結晶について観察を行い統計的に整理した結果、2~10マイクロメートルのレニウム錯体結晶の場合、クロロホルム分子を取り込む過程で再結晶に伴って結晶形状が変化することが明らかとなった(図2上段、中段)。さらに、2マイクロメートル以下のレニウム錯体結晶の場合、クロロホルム分子を取り込んで液体へと変化する有機潮解現象を起こすことを実証した(図2下段)。
 この結晶の大きさに依存した現象は、結晶の体積に対する表面積の比率で説明された。表面積の比率が高い2マイクロメートル以下の結晶では有機潮解が誘起される。一方、この比率が低い50マイクロメートル以上の結晶では、結晶表面で1-Nil結晶から1-CHCl3結晶への相転移が起こる。2~10マイクロメートルの結晶の場合、有機潮解は誘起されないが、結晶全体で相転移が起こることで再結晶が進行する。
 これらの研究成果は、「気体分子が固体にどのように取り込まれていくのか」という根本的な問いに重要な知見を与えるだけでなく、VOCのセンシング材料の開発に貢献すると考えられる。

〇関連情報:
プレスリリース:「世界初、「有機潮解」現象を実証――VOC(揮発性有機化合物)回収技術への発展に期待――」(2022/06/29)
https://www.iis.u-tokyo.ac.jp/ja/news/3905/

動画:「分子性結晶がクロロホルムの蒸気を取り込んで相転移」
https://www.youtube.com/shorts/scZJPAy2BVQ

動画:「分子性結晶がクロロホルムの蒸気を取り込んで再結晶・有機潮解」
https://www.youtube.com/shorts/EnGi5hgWUv8

 本研究は、新学術領域研究「ソフトクリスタル:高秩序で柔軟な応答系の学理と光機能」(領域代表:加藤 昌子 教授、関西学院大学)の一環として開始されたものである。
ソフトクリスタルHP:https://www.softcrystals.iis.u-tokyo.ac.jp/
ソフトクリスタルビデオ:https://www.youtube.com/watch?v=1eOmNQyCzPY

○発表者・研究者等情報:
東京大学
 生産技術研究所
  石井 和之 教授
  マ ギョウ 特任研究員
  榎本 恭子 技術専門職員

兵庫県立大学
 大学院理学研究科
  阿部 正明 教授
  松田 雄貴 研究当時:博士課程

○論文情報:
〈雑誌名〉Small
〈題名〉Organic Vapor-Induced Microscopic Behaviors in Molecular Crystals
〈著者名〉Xiao Ma, Kyoko Enomoto, Yuki Matsuda, Masaaki Abe*, Kazuyuki Ishii*
〈DOI〉10.1002/smll.75743

○研究助成:
科研費「17H06375」、「23K26664」、「26K21864」、「16H06514」の支援により実施されました。

○用語解説:
(注1)分子性結晶
 分子が、ファンデルワールス力、双極子相互作用、水素結合などの分子間相互作用によって規則的に配列して形成された結晶。

(注2)相転移
 温度、圧力、組成などの変化に伴って、物質が異なる状態(相)へ変化する現象。本研究では、クロロホルム分子の取り込みに伴って、レニウム錯体結晶の結晶構造が別の結晶構造へ変化する現象を指す。

(注3)共焦点レーザー顕微鏡
 レーザー光を試料上に集光し、試料から生じる蛍光などを検出する光学顕微鏡の一種。焦点面以外から生じた光をピンホールによって除去することで、通常の光学顕微鏡よりコントラストの高い像を得ることができる。また、焦点位置を変えながら画像を取得することで、試料内部の三次元像を構築することができる。

(注4)単結晶X線構造解析
 単結晶にX線を照射して生じる回折X線の方向と強度を測定し、その情報から結晶中の原子の三次元的な配列を明らかにする手法。分子の構造だけでなく、結晶中での分子の配列や分子間の位置関係も調べることができる。

(注5)錯体
 金属原子または金属イオンを中心として、その周囲に原子や分子、イオン(配位子)が結合して形成される化合物。本研究では、レニウム(I)イオンを中心金属とする錯体を用いている。

(注6)有機潮解現象
 固体がVOCなどの有機化合物の蒸気を取り込むことによって液体へと変化する現象。水蒸気を取り込んで液体化する通常の潮解に対して、有機蒸気によって起こることから「有機潮解」と呼ばれる。

(注7)ソフトクリスタル
 規則正しい結晶構造・周期構造を持つ高秩序な構造体でありながら、蒸気にさらす、こするなどの弱い刺激に応答して、構造変換や相転移を起こす物質群。高い構造秩序と柔軟な刺激応答性を併せ持つ、日本から提案された新しい物質概念である。

○問い合わせ先:
〈研究内容について〉
東京大学 生産技術研究所 
教授 石井 和之(いしい かずゆき)
E-mail:k-ishii(末尾に"@iis.u-tokyo.ac.jp"をつけてください)
石井 和之 研究室

〈機関窓口〉
東京大学 生産技術研究所 広報室
Tel:03-5452-6738 
E-mail:pro(末尾に"@iis.u-tokyo.ac.jp"をつけてください)

兵庫県立大学 播磨理学キャンパス経営部総務課
TEL: 0791-58-0101 
E-mail:soumu_harima(末尾に"@ofc.u-hyogo.ac.jp"をつけてください)

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