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【記者発表】雨が降ってから河川に水が流出するまでのプロセスを ゲームで理解しよう! ――河川流域の水循環を効果的に学べるオンラインゲームを公開――

○発表のポイント:
◆河川流域の水循環を視覚的に学べるゲームを開発、論文公表に合わせてオンライン公開した。
◆体験型ゲームに取り組むことで、地表面状態と流出プロセスとの関係をより深く理解できる。
◆水循環や水災害といった複雑な現象についてのリテラシー向上に貢献できると期待される。


開発した降雨流出モデリングゲーム

○概要:
 東京大学 生産技術研究所の山崎 大 准教授と矢澤 大志 助教、同大学大学院 工学系研究科 岡田 実奈美修士課程生らによる研究グループは、河川流域の水循環を効果的に学べるモデリングゲームを開発し、それが水循環教育ツールとして効果的であることを明らかにしました。
 流域水循環を初等・中等教育で教えることは、水災害や流域管理といった複雑な課題へのリテラシーを高めるために重要です。河川流域の水循環は、多様な現象が相互作用する複雑なシステムであるため、短時間で理解できて記憶に残りやすい教育ツールの不在が課題となっていました。
 本研究では、教育用プログラム言語Scratch(注1)を用いて視覚的に分かりやすい降雨流出モデルを構築し、地表面状態が洪水流出に及ぼす影響をゲームとして学習できるツールを開発しました。駒場リサーチキャンパス公開にて都市化と洪水に着目したワークショップを行い(図1)、通常の講義による学習に加えてゲームに取り組むことが降雨流出プロセスの理解を深めるかを分析しました。その結果、都市化すると洪水が増えるという定性的な理解は講義形式でも理解できる一方で、都市化の度合いによって流出ピークが変わるという定量的な理解には、ゲーム体験が効果的であることが示唆されました。

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図1:キャンパス公開でのワークショップの様子

○発表内容:
 初〜中等教育の学習課程で流域水循環プロセスに触れ、理解を深める機会を設けることは、水循環・水災害に関心をもつ人材育成やリテラシー向上につながり、水災害や流域マネジメントの様な複合的かつ長期的課題の解決に資すると期待されます。初〜中等教育で流域水循環を学ぶ場合、理科・社会科・総合的な学習など既存カリキュラムの一部を用いることが想定され、グループ調査や模型実験などの体験型学習で、短時間で効率的に知識が身に付く工夫をするのが望ましいと考えられます。しかし、流域水循環は、蒸発・浸透・地中の水移動などの様々なスケールの現象が関わる複雑なプロセスであり、現地調査体験や模型実験での表現が難しいために効果的な体験型教育ツールが存在しないことが課題となっていました。
 そこで本研究では、数値シミュレーションを用いた教育ツールの構築を検討しました。教育用プログラム言語Scratchに着目し、降雨から流出までのプロセスを「水粒子の動き」として可視化することで、見た目に分かりやすい降雨流出モデル(注2)を構築しました。降雨の一部が蒸発や蒸散などで失われること、地表面に到達した雨水は、地表面を流れるものと地中に浸透するものに分かれること、地中では、水はゆっくりと動き、一部は土壌に吸収されることなどを視覚的に表現しています(図2)。また、土地利用タイプを都市・草地・森林に変更することで、地表面状態の変化が流出プロセスに及ぼす影響を考慮できるようにしました。

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図2:降雨流出モデリングゲームのソースコード(左)とシミュレーション画面(右)

 さらに、シミュレーションされる流出量の時間変化が「ターゲット」として示されたパターンに近づくように、地表面状態を推定して高スコアを目指すというゲーム性を導入しました(図3)。ゲームでは、入力となる雨量パターンと目標流出量パターンを見比べて、シミュレーション前に地表面タイプと土壌水分状態を設定し、シミュレーションを実行すると計算結果とスコアが表示されます。計算された流出量とターゲットと比べ、より高いスコアが出せる地表面状態を推測してシミュレーションを繰り返すことで、流域水循環プロセスについての理解が深まることを期待しています。

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図3:降雨流出モデリングゲームの遊び方。左:ゲーム開始前に雨量データ(水色グラフ)と目標とするターゲット流出量(青色グラフ)が示され、地表面タイプと土壌水分状態を調整する。右:シミュレーション後に計算された流出量(ピンク色グラフ)がターゲットと比較され、スコアが表示される。

 さらに、開発した降雨流出モデリングゲームで遊ぶことが流域水循環についての理解を深めるかを分析するために駒場リサーチキャンパス公開にてワークショップを実施しました。ワークショップでは、都市化が洪水に及ぼす影響に着目して、(A)通常の学校での授業を想定したスライドを用いた説明、(b)降雨流出モデルによるアニメーションでの表現、(C) 降雨流出モデルを用いたゲーム体験のどの段階で、理解が深まったかを質問しました。その結果、都市化すると洪水が増えるという定性的な理解は講義形式でも理解できる一方で、降雨流出のメカニズムについての理解や、都市化の度合いによって流出ピークが変わるという定量的な理解にはゲーム体験が効果的であることが示唆されました(図4)。

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図4:ワークショップでの降雨流出プロセスの理解度に関する質問とそれに対する回答の分布

 本研究によって、水の動きを視覚的に分かりやすく伝えるモデリングと、地表面状態と流出の関係について、ゲーム性を持たせて自分で試行錯誤して考えることが降雨流出プロセスという非常に複雑な現象を理解するのに有効であることが示唆されました。今後は、開発した降雨流出モデリングゲームを水循環教育ツールとしてさらに発展させることで、気候変動・水災害・流域マネジメントといった長期的な対応が必要な複雑な課題についての社会的リテラシー向上に貢献することが期待されます。

関連情報:
山崎研究室WebPage「降雨-流出プロセスをゲームで学ぼう!」

Scratchで公開している降雨流出モデリングゲーム

○発表者・研究者等情報:
東京大学
 生産技術研究所
  山崎 大 准教授
  矢澤 大志 助教

 大学院工学系研究科・社会基盤学専攻
  岡田 実奈美 修士課程学生

○論文情報:
〈雑誌名〉水文・水資源学会誌
〈題名〉教育用プログラム言語Scratchを用いた降雨流出モデリングゲームの開発とその水文学教育への利用可能性
〈著者名〉山崎 大,岡田 実奈美, 矢澤 大志
〈DOI〉10.3178/jjshwr.37.1826

○用語解説:
(注1)教育用プログラム言語Scratch
 マサチューセッツ工科大学のメディアラボが子供でも簡単にゲームやアニメーションが作れるように開発したプログラム言語。ソースコードをテキストではなくブロックの組み合わせで記述することで、視覚的に理解しやすいプログラミング環境を実現している。

(注2)降雨流出モデル
 流域における降雨と河川への流出の関係を記述する数値モデル。降雨パターンを入力データとして、河川への流出量の時間変化を予測する。

○問い合わせ先:
東京大学 生産技術研究所
准教授 山崎 大(やまざき だい)
Tel:03-5452-6382
E-mail:yamadai(末尾に"@iis.u-tokyo.ac.jp"をつけてください)


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