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【記者発表】次世代パワーエレクトロニクス材料AlGaNの安価・高品質な製造手法を開発

〇発表者:
藤岡 洋(東京大学 生産技術研究所 教授)

〇発表のポイント:
◆スパッタリング法と呼ばれる手法を用い、次世代パワーエレクトロニクス用半導体材料として期待されている、AlGaNの高品質な半導体結晶を安価に合成する新手法を開発した。
◆縮退GaNと呼ばれる電極結晶を用いてAlGaNトランジスタを試作し、オン抵抗(トランジスタが導通したときの抵抗)の低減に成功した。
◆高性能なパワーエレクトロニクス素子を安価な手法で作製でき、電力変換素子や6Gなど次世代無線通信用素子としての利用が期待できる。

〇発表概要:
 これまでパワーエレクトロニクス(注1)のトランジスタ用半導体材料としてSiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)に関する研究開発が進み、既に実用化が始まっている。一方、GaNの次の世代のパワーエレクトロニクス材料として、GaNより絶縁破壊耐性(注2)の高いAlGaN(窒化アルミニウムガリウム)と呼ばれる材料の利用が期待されている。しかしながら、AlGaN半導体に対して低抵抗の電極を形成することが困難であることから、これまで良好な特性を持つトランジスタは作製できなかった。また、GaNやAlGaNの成長にはMOCVD法(注3)と呼ばれる高価な結晶成長手法が使われるため、素子の製造コストが高かった。東京大学 生産技術研究所の藤岡 洋 教授らのグループは、スパッタリング法(注4)と呼ばれる安価な製造手法で品質の高い窒化物半導体結晶を合成する手法を開発した。さらに、縮退GaN(注5)と呼ばれる新しい電極結晶を合成し、これをAlGaNと接触させることによって抵抗の低い高性能AlGaNトランジスタの試作に成功した。これらの手法を用いると低コストでパワーエレクトロニクス材料を作製することが可能となり、高性能電力変換素子や、6G通信(注6)など次世代無線通信用素子としての利用が期待できる。

〇発表内容:
 これまでパワーエレクトロニクスのトランジスタ用半導体材料としてSiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)に関する研究開発が進み、既に実用化が始まっている。一般に、軽元素で構成される半導体は絶縁破壊耐性が高いことが知られており、GaNの場合も、Gaの一部をより軽いAlで置き換えてAlGaN(窒化アルミニウムガリウム)とすると絶縁破壊耐性に優れた結晶となることが知られている。したがって、より絶縁破壊耐性の高いAlGaNには次世代のパワーエレクトロニクス材料として大きな期待が集まっている。しかしながら、AlGaN半導体中の電子はエネルギー状態が高く、外部からの電子の注入が困難で、電極部の抵抗が大きくなり、これまで良好な特性を持つトランジスタは作製できなかった。また、GaNやAlGaNといった窒化物半導体の成長にはMOCVD法と呼ばれる高価な結晶成長手法が使われるため、素子の製造コストが高かった。
 東京大学 生産技術研究所の藤岡 洋 教授らのグループは、スパッタリング法と呼ばれる安価な製造手法で品質の高い窒化物半導体結晶を合成する手法を開発した。スパッタリング法は低コストの材料合成手法として一般の工場で広く使われているため、新材料・新素子の社会実装が容易となると期待できる。さらに、GaN結晶にSi原子を1×1020cm-3以上の高濃度で導入することによって縮退GaNと呼ばれる新しい材料が合成できることを見出した(図1)。また、この縮退GaN結晶の中には高いエネルギー状態の電子が存在し、縮退GaNを新しい電極結晶としてAlGaNと接触させることによって、AlGaN中に低抵抗で電子を注入できるようになることを見出した。今回、この縮退GaNをトランジスタの電子注入層であるソースとドレインとして利用することにより高性能のAlN/AlGaNヘテロ接合高電子移動度トランジスタ(HEMT)(注7、図2)を試作した。その結果、抵抗の低い高性能のAlGaNトランジスタが実現できることを実証した。
 この手法を用いると低コストでパワーエレクトロニクス材料を作製することが可能となり、高性能電力変換素子や、6G通信など次世代無線通信用素子としての利用が期待できる。今後、本研究グループでは新素子の構造最適化を行い、社会実装の準備を進めていく。

〇発表雑誌:
雑誌名 :「Applied Physics Express」15, 031002 (2022)
論文タイトル:AlN/Al0.5Ga0.5N HEMTs with heavily Si-doped degenerate GaN contacts prepared via pulsed sputtering
著者 :Ryota Maeda*, Kohei Ueno*, Atsushi Kobayashi, and Hiroshi Fujioka*
DOI番号 :10.35848/1882-0786/ac4fcf

〇問い合わせ先: 
東京大学 生産技術研究所
教授 藤岡 洋
Tel:03-5452-6342  Fax:03-5452-6343
E-mail:hfujioka(末尾に"@iis.u-tokyo.ac.jp"をつけてください)
URL:http://www.iis.u-tokyo.ac.jp/~hfujioka/

〇用語解説:
(注1)パワーエレクトロニクス
 電力の輸送・変換・制御・供給に関係するエレクトロニクス技術。

(注2)絶縁破壊耐性
 半導体素子にどこまで高い電圧をかけられるかの指標。高いほどパワーエレクトロニクス材料として優れている。

(注3)MOCVD法
 有機金属気相成長法(Metalorganic Chemical Vapor Deposition)の略。窒化物半導体の素子に一般的に利用されているが、生産性が低く、コストが高い。

(注4)スパッタリング法
 薄膜を生産性良く製造する手法の名称。集積回路や液晶テレビ等の製造に広く使われている。

(注5)縮退GaN
 GaNの中にSiなどの不純物を多量(1×1020cm-3以上)に導入することによって、電子のエネルギー状態を高めたGaN結晶。

(注6)6G通信
 現在の5G通信の次の世代の高速通信規格。

(注7)AlN/AlGaNヘテロ接合高電子移動度トランジスタ(HEMT)
 AlN/AlGaNヘテロ接合界面に発生する移動度の高い電子を利用した高性能トランジスタ。

〇添付資料:

藤岡先生.図1.jpg
図1 スパッタリングで成長した縮退GaN結晶の高分解能電子顕微鏡写真

藤岡先生.図2.png
図2 試作したAlN/AlGaN HEMT素子特性評価の様子


※2022年7月6日:○添付資料の図1を修正しました。

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