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【記者発表】痛みなく皮膚に文字や数字を表示させ、簡便に個体を識別 ――自由自在な文字パターンを生成できるマイクロニードルパッチを開発――

○発表のポイント:
◆文字や数字のパターンを施した「マイクロニードルパッチ」の作製方法を開発した。
◆パッチ上の針構造体が皮膚内に溶けだすと同時に、内部の不溶性インクがパターンの形で溶け出し、残存するようにした。パッチを貼付するだけで、動物の皮膚上に標識付けが可能なバイオタギングを実現した。
◆別途の標識用タグや施術用道具、獣医師による麻酔や施術を必要とせず、簡便かつ痛みを伴わない標識付け方法として今後、動物管理を要する分野にて幅広く活用できると期待される。

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今回開発した文字パターンを有するマイクロニードルパッチを用いた動物識別方法の概要図

○概要:
 東京大学 生産技術研究所の朴 鍾淏 助教と金 範埈 教授は、特定の文字及び数字パターンを有するマイクロニードルパッチ(Microneedle Array Patch, MAP)(注1)の新しい作製方法を開発し、それを用いる動物の個体識別用の新しい標識付け方法を提案し、検証した。
 従来のマイクロニードルパッチは、針構造体の単純な配列を有するマスターモールド(注2)を原型として用いて作製されてきた。そこで、異なるパターンや模様のためにはそれに対応した別のマスターモールドとそれからできた雌型モールド(注3)の追加作製が必要であるため、それに伴うコストと時間が必要とされる。
 そこで、本研究では、3Dプリンターで作製したプラグを用いる新しい雌型モールドの作製方法を開発し、1つのマスターモールドから複数の文字を含む様々なパターンを有するマイクロニードルパッチの作製を実現した。
 また、上記の方法で作製したパターン入りのマイクロニードルパッチを用いて動物の個体識別のために皮膚に直接文字や数字のパターンを入れ込む、バイオタギング(Biotagging)(注4)という新しい標識付け方法を開発した。
 産業用動物と伴侶動物(ペット)に識別用標識付けに関連法律が義務つけられている中、別途の標識用タグや施術用道具を必要としない、簡便でかつ、痛みを伴わない標識付け方法として今後、動物管理を要する分野にて幅広く活用できると期待される。

○発表内容:
 マイクロニードルパッチの作製には、その原型となるマスターモールドを作製し、それの雌型モールドの追加作製と混合液の充填と離型というプロセスが使われる。そのため、異なるパターンの作製にはパターンごとのマスターモールドと雌型のモールドの作製が必須であった。
 そこで、本研究チームは、3Dプリンターで作製したプラグを用いることより、手軽に特定のパターンを有するマイクロニードルパッチ用の雌型モールドの作製が可能な方法を新規開発し、同一のマスターモールドから複数の文字を含む様々なパターンを有するマイクロニードルパッチの作製を実現した。
 具体的には、マスターモールドから作製したベースモールド上に予め設計されたパターンの形を持つプラグを固定し、不要な空洞を埋め込むことにより特定のパターンを有するマイクロニードルパッチが作製できる雌型モールドを準備した。この際、プラグのデザインを変更するだけで、マスターモールドの新規作製をせずに様々なパターン入りの雌型モールドの作製が可能になり、その雌型モールドを用いて最終的にはプラグと同様なパターンを有するマイクロニードルパッチが作製できる(図1)。
 この成果から、今まで試されていなかった、文字や数字などのパターン入りのマイクロニードルパッチの作製がより簡便かつ迅速で可能となるため、今後、マイクロニードルパッチを用いた応用研究の発展に寄与することが期待される。

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図1:文字パターン(C3文字列)入りの雌型モールドとそれによるマイクロニードルパッチの作製プロセス

 また、本研究ではパターン入りのマイクロニードルパッチの新しい作製方法の開発に続き、更なる応用研究として、そのパッチを用いた動物の個体識別を目的とした標識付け方法も提案し、検証に成功した。
 従来の動物の標識付けには、別途の識別用タグ(注5)を準備し、それを体外または、体内に着けたり、埋め込ませたりする方法が用いられている。しかし、それには標識用タグ、施術用道具を必要とし、時には獣医師による麻酔や施術を要するという課題が残っていた。
 上記の課題を解決するために本研究チームは、特定の文字と数字のパターンを有する溶解性マイクロニードルパッチ(注6)の作製の際、針構造体となる材料に不溶性インクを混合した。それにより構造体が皮膚の真皮内に溶けだした際、インクがパターンの形で同時に溶け出して永久に残存するようにした。その結果、パッチの貼付という作業のみで動物の皮膚上に標識付けが行われるバイオタギングを実現した(図2)。

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図2:作製したパターン入りのマイクロニードルパッチを用いたラットの皮膚上のバイオタギングの結果(10日後)

 本研究の成果から、認識用パターンを有する溶解性マイクロニードルパッチの利用により低侵襲で医療従事者を要しない、一般の人でも標識付けの施術ができる、また廃棄物の低減が可能な新しい標識付け方法の提案と実証が行われた。今後、動物関連の学界及び産業界において様々な応用分野への波及効果が期待される。尚、本成果をもとに将来、美容タトゥーのような人向けの応用も期待できる。

○発表者・研究者等情報:
東京大学 生産技術研究所
 金 範埈 教授
 朴 鍾淏 助教

○論文情報:
〈雑誌名〉Scientific Reports
〈題名〉Biotagging method for animal identification using dissolvable microneedle arrays prepared by customisable moulds
〈著者名〉Jongho Park and Beomjoon Kim*
〈DOI〉10.1038/s41598-023-50343-6

○研究助成:
 本研究は、東京大学 生産技術研究所の特別研究申請の助教研究支援(生研弥生賞)と日本学術振興会の研究拠点形成事業(Core-to-Core Program A、代表者:金 範埈 東京大学 生産技術研究所 教授 課題番号:JPJSCCA20190006)の支援により実施されました。

○用語解説:
(注1)マイクロニードルパッチ(Microneedle Array Patch, MAP)
 マイクロニードルアレイパッチとも言う。長さ約1ミリメートル以下の針形状の微細構造体が一定の配列で並んでいる(アレイ化)パッチのこと。マイクロニードルの寸法は応用先によって様々であり、現在薬物送達、体液抽出による診断、化粧品等で用いられている。

(注2)マスターモールド
 最終作製物と同一な寸法と形を持つように設計・作製された高精度の微細構造が形成されている鋳型のこと。

(注3)雌型モールド
 マスターモールドと同一寸法を持ちながら、凹凸形状が逆になっている形状のモールドのこと。原型と同じ形の作製物を成形するために用いるモールドで、マスターモールドを用いて作製する。

(注4)バイオタギング(Biotagging)
 本研究で開発した認識用パターンを有する溶解性マイクロニードルパッチを用いる標識付け方法または、その行為を指す。

(注5)識別用タグ
 動物の管理において個体を識別するために動物の体内または体外に付着させる視覚的な表札のこと。例えば、牛の耳につける耳標があり、最近ではチップを内蔵したカプセル型もある。

(注6)溶解性マイクロニードルパッチ
 マイクロニードルパッチの形態の中の1つ。針の構造体が体内の水分と反応して溶解する材料でできていて、体内に入ると構造体が溶け出しながら含有されている物質が皮膚内に拡散する仕組みを持つ。

○問い合わせ先:
東京大学 生産技術研究所
助教 朴 鍾淏(パク チョンホ)
Tel:03-5452-6226
E-mail:johopark(末尾に"@iis.u-tokyo.ac.jp"をつけてください)

教授 金 範埈(キム ボムジュン)
Tel:03-5452-6224
E-mail:bjoonkim(末尾に"@iis.u-tokyo.ac.jp"をつけてください)

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