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令和6年 所長年頭挨拶

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 このたびの石川県能登地方の地震により被災された皆様、ならびにご家族、ご関係の皆様に心よりお見舞いを申しあげます。また生活インフラが寸断されるなか、緊急支援や復興活動に鋭意取り組まれている方々に敬意を表します。皆様の安全と被災地の一日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。

 昨年は、コロナ禍の終息に伴い平常どおりの生活が回復して、世の中が明るく開放的になったような気がしています。
 ワールド・ベースボール・クラシックで日本が優勝するなど、明るい話題もありました。海外では、大谷翔平選手の大活躍だけでなく、スケートボードやフィギュアスケートなどの分野でも、若手の大活躍に目を見張るものがありました。国内では、藤井聡太棋士の八冠獲得が話題となり、若者にだけでなく、日本中に明るく夢のある話題を沢山提供してくれました。
 しかし、世界を見渡すと、依然として、ウクライナでの戦争は続いております。ガザ地区で続くイスラエルとイスラム組織ハマスとの戦闘、さらには、北朝鮮とロシアの軍事技術面での接近など、国際情勢の不安定さと世界の分断を予想させる出来事が勃発しています。このままでは、将来、東西分断の危機すら感じられる今日この頃です。
 今年は一転して、世界全体が少しでも良い方向に動く年となるように願っております。

 私は今、所長としての3 年の任期のほとんどを終えようとしています。所長就任当初から、重点的に取り組むべき課題は「若手の教員が大いに成長できる研究・教育環境の整備」、「皆が、幸せに、意義が大きい仕事ができる組織作り」であると述べ、これらの課題に鋭意取り組んできました。私自身も若いころには、先輩教職員の方々から多大な支援をしていただきました。かつて私が受けた御恩のお返し(恩送り)をするためにも、今は、私が皆様方を支援しなければならないと考えたからです。
 私が所長在任中には新しい組織は作らず、また、大きなイベントも新たに企画しなかったのが実情です。新たな組織の立ち上げや運営、新規イベントを多数企画すると、若手の教員がその立上げに振り回されることが多いため、若手の負担をできるだけ回避・低減すべきと考えた結果です。果たしてこのような消極的な対応が長期的にみて良かったのかどうかは、私自身もわかりません。
 研究所においては、研究に専念できる優れた環境をつくることが最も大切であることは論を俟たないところですが、大きな予算制約や人的リソースの供給制約がある日本の教育研究組織において、どのようにすればそのような理想的な環境づくりができるのかは、日々悩み続けているところです。

 東京大学は、日本の教育界・学術界を代表する組織であり、さらに、大学の附置研究所として国内最大級の規模を誇る本所は、世界をリードする研究・教育活動推進の牽引役を果たすべき責務を負っております。
 本所は、日本の中では比較優位のポジションを享受し、高い研究パフォーマンスを維持しています。しかしながら、世界的に活躍できる研究者、とくに海外からも注目されている研究者は、20 年前に比べるとかなり減っているように感じられます。世界的に競争力があり、また、インパクトがある研究に取り組んでいる研究者、とくに若手研究者が少なくなったように思えます。日本の科学研究力は、世界的にみても低下している分野が多いのが実情ではないでしょうか。
 これは、以前に比べ、研究に没頭できる時間が減ったためでしょうか。あるいは、論文数や外部研究資金獲得等の見かけの業績主義に引っ張られ、自身の思い入れで突き進むリスクの高い「尖がった研究」が出来なくなったためでしょうか。いずれにしても、本当の意味での良い研究に取り組む研究者が少しでも増えることを願って止みません。

 新年は、将来へ向けての「夢」を描き直し、仲間と語り合う絶好のチャンスです。「初夢」は新年の季語となっています。
 アップルの創始者であったスティーブ・ジョブズは、生前、「将来アップルが洗練されたデザインのEV 車を開発すること」を夢見ていたと報じられています。私の夢は、これに比べると細やかなもので「チタンをレアメタルからコモンメタルに替える」ことです。このテーマに取り組んでからすでに35 年が経過してしまいましたが、いまだに夢はかなっていません。
 過去のイノベーションの圧倒的多数は、技術革新によって齎されました。基礎的な科学研究と技術革新と一体として進められた結果として、画期的なイノベーションが実現し、世の中のパラダイムが変わります。若手の研究者の皆様方は、それぞれの研究分野において10 年、20 年、さらにその先の50 年後に実現した「夢」を新たにしてください。

 本年も引き続きご支援、ご指導いただきますよう、年頭に当たり改めてお願い申し上げます。

生産技術研究所 所長
岡部 徹

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