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【記者発表】世界初、コンクリートを100%リサイクル~がれきを砕いて圧縮成形し、高温・高圧で蒸す新手法~

○発表者:
イブラヒム モスタジィット(研究当時:東京大学 大学院工学系研究科 修士課程2年)
酒井 雄也(東京大学 生産技術研究所 准教授)

○発表のポイント:
◆コンクリートがれきを粉砕して圧縮成形し、高圧水蒸気で処理することで、一般的なコンクリートを超える強度を示す材料にリサイクルする技術を開発した。
◆他の材料の投入を必要とせず、廃棄物を発生せずに、十分な強度を示す材料としてコンクリートがれきを100%リサイクルする手法の報告は、世界初である。
◆大量に発生するコンクリートがれきのリサイクルが期待できる。さらに、生産の際に大量のCOを発生するセメントを使用する必要がなくなり、温室効果ガスの排出が抑制される。

○発表概要:
 東京大学 大学院工学系研究科 修士課程2年のイブラヒム モスタジィット 大学院生(研究当時)と同 生産技術研究所の酒井 雄也 准教授は、コンクリートがれきを粉砕して圧縮成形し、高圧水蒸気で処理することで、コンクリートがれきを100%リサイクルした硬化体(以下、リサイクルコンクリート)を製造する技術を開発しました。

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図1 圧縮成形によるコンクリートがれきの再生の例
左からコンクリートがれき、コンクリートがれきを粉砕して得られる粉末、リサイクルコンクリート。

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図2 コンクリートがれきの例

 コンクリートがれきのリサイクルにおいて、他の材料の投入を必要とせず、廃棄物を発生せずに、十分な強度を示す材料にリサイクルする手法はこれまでに無く、コンクリートのリサイクルは達成されていませんでした。本研究では、コンクリートがれきから、一般的なコンクリート以上の強度を示すリサイクルコンクリートの製造に成功しました。研究では、コンクリートがれきを粉砕して得られる粉末を圧縮成形した後に、高圧水蒸気での処理を施すことで、リサイクルコンクリートの強度が大幅に向上することを確認しました。今回の成果により、大量に発生するコンクリートがれきのリサイクルが期待できます。さらに、生産の際に大量のCOを発生するセメントを使用しないため、温室効果ガスの排出が抑制されます。

○発表内容:
<研究の背景・先行研究における問題点>
 一般的なコンクリートはセメント、砂、砂利に水を加えて製造されます。しかし、コンクリートの製造においては、セメントの製造では多くのCOが発生し、その量は全世界のCO排出の8%を占めること、砂や砂利が世界的に不足しているなどの課題があります。また、毎年約3500万トンと大量に発生するコンクリートがれきの処理も問題となっており、これまで様々な再生技術の開発が進められてきました。現状でも、コンクリートがれきの再利用率は約99%と非常に高いですが、そのうちの9割強は路盤材料として、道路建設の際に舗装の下に埋めたり、埋め立てなどに用いられているだけであり、十分な強度を示す材料としてリサイクルを達成できてはいません。加えて、近年の建設需要の低迷により、今後もコンクリートがれきを道路建設や埋め立てなどに用いて吸収し続けることは困難と見られています。残りの1割弱のコンクリートがれきからは、砂や砂利が取り出され、新しいコンクリートの製造に再利用されています。しかし、取り出した砂や砂利の表面にセメント分が付着していると、これを用いて製造したコンクリートの性能が低下するため、付着物の除去が必要となりますが、その工程には多くのエネルギーと手間がかかります。さらに、取り除かれた大量の付着物の処理も問題となっています。
 以上のような背景からコンクリートがれきについて、用途の拡大と、新たにセメントを用いることなく、十分な強度を示す材料として再生できる技術開発が求められていました。本研究チームでは過去に、コンクリートがれきを粉砕して得られる粉に高い圧力をかけて、成形体として再生する技術を開発[参考文献1]していましたが、実用上必要な強度が得られていませんでした。

<研究内容>
 本研究では、コンクリートがれきを粉砕して圧縮成形して作製した硬化体(以下、リサイクルコンクリート)に対して、高圧水蒸気による処理を行いました。その結果、180℃の高圧水蒸気で処理することで、リサイクルコンクリートの圧縮強度が約5倍に増進し、一般的なコンクリートの約2倍の強度が得られることを確認しました。分析の結果、高圧水蒸気処理により、リサイクルコンクリートの組成にはほとんど影響を与えず、粗大な間隙が減少していることが確認され、これにより強度が増進しているものと考えられます。また、一般的な砂・砂利を用いたコンクリートのみでなく、製鉄の副産物である鉄鋼スラグを砂・砂利の代わりに用いたコンクリートにおいても、本手法は効果的であることを確認しました。

<社会的意義・今後の予定>
 今回の成果により、新たな材料を投入せず、副産物も全く発生しない形で、大量に発生するコンクリートがれきのリサイクルが期待できます。さらに、生産の際に大量のCOを発生するセメントを使用しないため、温室効果ガスの排出が抑制されます。また、新たな材料を投入しないため、原料採取に伴う森林伐採や河床、海底掘削などが回避されます。
 今後は、リサイクルコンクリートの大型化や鉄筋などによる補強効果の検証、長期の耐久性評価などを行う予定です。

参考文献
[1]Yuya Sakai, Biruktawit Taye Tarekegne and Toshiharu Kishi: Recycling of hardened cementitious material by pressure and control of volumetric change, Journal of Advanced Concrete Technology, Vol. 14, No. 2 pp. 47-54, 2016

○発表雑誌:
雑誌名:「Construction and Building Materials」(オンライン版:8月2日)
論文タイトル:Effect of thermal treatment on strengthening recycled compacted concreteincorporating iron, steel, and blast furnace slag
著者:Md. Ibrahim Mostazid*, Satya Medepalli, and Yuya Sakai
DOI番号:https://doi.org/10.1016/j.conbuildmat.2022.128623

○問い合わせ先:
東京大学 生産技術研究所 
准教授 酒井 雄也(さかい ゆうや)
Tel:03-5452-6098(ex.58086) Fax:03-5452-6410
E-mail:ysakai(末尾に"@iis.u-tokyo.ac.jp"をつけてください)
研究室URL:https://r.goope.jp/ysakai

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