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沖 大幹 教授が2021年国際水文学賞Doogeメダルを受賞

 この3月まで本所を兼務され、現在は大学院工学系研究科教授及び国際連合大学上級副学長の沖大幹 先生の、「数値モデリングと科学的分析を通じた、水文学・気候・持続可能性の架け橋となる学際的な研究とリーダーシップ」に対して国際水文科学協会(IAHS)の2021年国際水文学賞Doogeメダルが授与されることになりました。

 国際水文学賞は、水文学の科学的発展に大きく寄与した科学者を表彰するものとして1979年に創設され、毎年IAHSの会長・副会長、UNESCO(国連教育科学文化機関)およびWMO(世界気象機関)の代表者によって選考されます。水文学の最高峰の栄誉として、過去の受賞者にはいわゆる「教科書レベル」の有名人がずらりと並んでいることが特徴的です。

 沖先生は、1989年に本所助手になられてから現在まで、一貫して「グローバル水文学」分野の第一人者として、全球規模での水の動態を次々と明らかとしていきました。いくつかのハイライトとしては、
・1990年代初頭、NASAでの学振海外特別研究員としての滞在中に開発した全球河川モデルTRIPを用いた世界中の流域水収支の解明。TRIPのコンセプトは、今でも日本を含む多数の国の地球システムモデルに用いられています。
・2000年代、第2次GSWP-2;全球土壌水分プロジェクトの主導、そして人間活動を考慮した新しい全球水循環図の作成。
・同時期、「Hydrology 2020 Working Group」の主導及び「Hydrology 2020」出版。この出版を通して、当時の世界の水文学の現状を報告し、それからの水文学の進展の方向性を描きだしました。
・IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第4次〜第6次評価報告書への貢献。特に第5次評価報告書では統括執筆責任者(CLA)を務められました。
などが挙げられます。これらは国際的なものが主ですが、国内においても、CREST・科研費「基盤S」・SATREPSをそれぞれ2期ずつに加えて科研費「特別推進研究」など、大型研究プロジェクトを精力的に主導してきました。総合地球環境学研究所設立の折には、京都-駒場の往復を重ねつつも本所での研究生産性を高く維持されていたり、近年では国連大の副学長に加えて本学の総長特別参与及び未来ビジョン研究センターを兼務されていたりと、一言でいうと超人的なご活躍を長きに渡ってされてきました。後進の育成にもご尽力され、沖先生の指導を受けた元学生は文字通り世界中で活躍しています。

 沖先生は本所からは離れることとなりましたが、沖先生が育てられた「グローバル水文学」は様々な人に様々な形で引き継がれています。その一つとして2020年11月に本所に発足した「グローバル水文予測センター」は、まさにグローバル水文学を予測研究に応用するものです。所内センターという体裁を取りつつも、既存の組織の枠にとらわれず、グローバル水文学に関わる個々の研究者が共同してもり立てていくためのハブになるという発展的な構想を持っています。

 沖先生、この度は受賞まことにおめでとうございます。

(人間・社会系部門 教授 芳村 圭、准教授 山崎 大)

沖 大幹 教授のコメント
 水文学は人間や生物との相互作用も含めて地球上の水循環を扱う科学です。水災害の被害軽減や水資源の安定供給の実現には水循環の地球物理学的基礎から研究する必要があると思って取り組んできた成果が認められたようで大変喜んでいます。グローバルな研究が工学的にどう実社会の役に立つのか、というご批判を当初から受けていましたが、地球温暖化に伴う気候変動など地球環境問題が国際的な重要課題となり、今回の受賞につながったと受け止めています。3年前に本務が生研から異動し、この3月で生研兼務も終わりとなりました。修士課程以来34 年にわたってお世話になり育んでいただいた皆様と離れるのを非常にさびしく感じていますが、まだ学内におりますので、引き続きどうぞよろしくお願い申し上げます。

図_沖先生.png
沖 大幹 教授

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