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サイバー考古学時代の幕開け[UTokyo-IIS Bulletin Vol.7]

三次元計測と画像処理技術でツタンカーメンの遺物に新たな息吹を吹き込む

「過去」をデジタル技術で再現するサイバー考古学は、古代の遺物の保存や修復のあり方を大きく変えています。東京大学 生産技術研究所(以下、生研)の大石 岳史 准教授は、三次元計測や画像処理の専門家。現在、大エジプト博物館と協働して、古代エジプト王ツタンカーメンが使用したと考えられる馬車を、最新技術を使って展示する方法を考案中です。

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生研の情報・エレクトロニクス系部門に所属する大石 岳史 准教授は、ツタンカーメンの王墓から出土した6台のチャリオット(競技や戦闘に使われた2輪馬車)のうち、1台に天蓋(てんがい)が取り付けられていたとする仮説を最新鋭の技術を使って立証しました。この馬車は、現存する天蓋付き馬車としては世界最古になると言います。

天蓋と馬車は当初は無関係のものと考えられ、別々に展示されてきました。今回、大エジプト博物館の展示用に、大石准教授らが馬車と木製の天蓋の三次元データを取集して組み合わせたところ、天蓋を馬車に取り付けられることが判明しました。大石准教授は、「天蓋に付属する4つのポールを戦車の形状に合わせて『ハ』の形になるように、下部を変形させると馬車に残るくぼみとぴったりと合いました」と、その過程を説明します。

紀元前1330年まで遡る遺物は脆く、実物を使用して研究することは非常に困難です。しかし、デジタル技術を使えば、遺物を損傷することなく考古学の研究を進めることができます。1922年に黄金のマスクなどが出土し、「20世紀最大の考古学的発見」と言われたツタンカーメン王墓ですが、埋葬物をめぐる多くの謎の一つを三次元デジタル再現で解明したことになります。「我々の3D計測および解析技術は世界でも類がないと考えていますが、それを使って新しい考古学的発見に貢献できたことは嬉しい」と、大石准教授は語ります。

大エジプト博物館は、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)の技術を使い、復原された馬車を来館者がスマートフォンなどで閲覧可能にすることを検討しています。

このプロジェクトは国際協力機構(JICA)が実施する「大エジプト博物館合同保存修復プロジェクト」の一環で、新たに建造された博物館に遺物を移送することを目的にしています。考古学者を含む専門家チームが、遺物の保存修復を担う現地スタッフを育成することも大きな柱としています。大石准教授らは、現地スタッフに3Dスキャナーを使った計測方法を伝授しています。2020年11月、プロジェクトの成果が評価され、第27回読売国際協力賞が専門家チームに授与されています。

大石准教授は大学院生だった20年前から、遺跡や遺物を保存修復する技術を研究してきました。奈良・東大寺の大仏や、古代ローマの神殿、カンボジアのアンコール遺跡など、様々な考古学プロジェクトに参加しました。1つの地域や時代に興味を持って深く考察を進める考古学の専門家とは異なり、欧州、アジア、中東など、幅広い研究で力を発揮できることも強みの1つです。大石准教授は、「様々な発見がありました。コンピューターに計算させ、今まで分からなかったことが分かるのがとても面白い」と、考古学研究に参加する醍醐味を語ってくれました。

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Nara Great Buddha Mar. 2001

今後の目標は、ロボット技術を使った3D自動計測技術を開発することです。「我々は人類の宝を計測しています。高性能な分析ツールやロボットを開発し、遺物を安全に計測する自動化システムを構築するのが、今後さらに重要になってくると思います」。

(記事執筆:(株)J-Proze 森 由美子)

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