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【記者発表】金属フォイル上にフレキシブルLEDディスプレーを作製する技術を開発

○発表者
藤岡 洋(東京大学生産技術研究所 教授)

○発表のポイント
◆安価な金属フォイル上に低コストでLED(*1)ディスプレーの作製を可能とする技術を開発しました。
◆フレキシブルな金属フォイル上に窒化ガリウムを成長し、RGBのフルカラーのLEDを実現しました。
◆LEDの製造コストが劇的に安くなり、液晶ディスプレーや有機EL(*2)にとって代わる、高性能で信頼性の高いフレキシブルディスプレーや通信機能を備えた面発光照明などに応用されることが期待されます。

○発表概要
これまで無機半導体を用いた発光ダイオード(LED)は、高価なサファイア等の単結晶基板(*3)の上に、MOCVD法(*4)と呼ばれる生産性の低い手法で形成されていたため価格が高く、主に細かく切ってパッケージに入れた小さなLED素子として利用されてきました。また、従来、窒化物半導体のLEDでは紫外域から青色、緑色までの光は発光しますが、赤色で発光するものの作製は困難とされていました。
東京大学生産技術研究所の藤岡洋教授らは、科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業「ACCEL」の支援を受けて、スパッタリング法(*5)と呼ばれる生産性の高い製造方法で窒化物半導体(*6)のLEDを作製する技術を開発してきました。今回、藤岡教授らは、半導体形成時の温度を下げることにより、安価で自由に曲げることが可能な金属フォイルの基板上に、青、緑、赤の3原色のLEDを作製することに成功しました。本成果により、安価な金属フォイル上に信頼性の高いフルカラーのディスプレーを実現できるようになり、また表示部分を曲げることができるディスプレー(フレキシブルディスプレー)も作製可能となります。さらに、窒化物半導体のLEDは応答速度が速いため、通信機能を備えたディスプレーなどへの展開も期待されます。

○発表内容
これまで無機半導体を用いた発光ダイオード(LED)は、高価なサファイア等の単結晶基板(*3)の上に、MOCVD法(*4)と呼ばれる生産性の低い手法で形成されていました。このため、価格が高く、主に細かく切ってパッケージに入れた小さなLED素子として利用されてきました。また従来、窒化物半導体のLEDでは紫外域から青色、緑色までの光は発光しますが、赤色で発光するものの作製は困難とされていました。これまで東京大学生産技術研究所の藤岡洋教授らは、科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業「ACCEL」の支援を受けて、スパッタリング法(*5)と呼ばれる生産性の高い製造方法で窒化物半導体(*6)のLEDを作製する技術を開発してきました。
本研究において藤岡教授らは、半導体形成時の温度を下げることにより、安価で自由に曲げることが可能な金属フォイルの基板上に、青、緑、赤の3原色のLEDを作製することに成功しました。金属フォイルは化学的な反応性が高く、この上に結晶質の窒化物半導体を積むことは困難でしたが、低い温度でも結晶成長が可能なスパッタリングと呼ばれる手法を用いることで、良質な結晶の窒化物半導体を形成することが可能となりました。この高品質な窒化物半導体を用いて、今回RGBフルカラーのLEDの試作に成功しました。
本成果により、安価な金属フォイル上に信頼性の高いフルカラーのディスプレーを実現できるようになり、表示部分を曲げることができるディスプレー(フレキシブルディスプレー)が作製可能となります。また、窒化物半導体のLEDは応答速度が速いため、通信機能を備えたディスプレーなどへの展開も期待されます。この他にも、LEDは高価なため点光源としてのみ利用されてきましたが、安価な本技術を用いると柔らかな光源としての面発光照明へ応用される可能性も高まり、単に現在広く使われている液晶(*7)や有機ELを代替する技術としてだけではなく、広い用途への応用が可能となります。
 本技術は、究極の性能を持つ次世代ディスプレーと呼ばれるマイクロディスプレー(*8)を低コストでフレキシブルフォイル上に実現する技術であり、その出現の社会的インパクトは大きいと考えられます。

■従来技術との比較1:(液晶との比較)■
独立に設けた光源からの光の量を制御する従来の液晶ディスプレーに比べ、自発的に発光する素子のため、①高いコントラストを持つ、②光源が不要で素子を薄くできる、③高速の応答が可能である、④光による高速通信が可能である、⑤広い視野角を持つなどの特徴を持ちます。

■従来技術との比較2:(有機ELとの比較)■
 同様な特徴を持つ発光素子としては、有機ELがあげられます。しかし有機化合物を発光部に用いる有機ELは、素子の寿命や信頼性、発光効率で問題を抱えています。本提案の素子は、無機物を用いているため、①有機ELより寿命が長く安定性が高い、②酸素や水分の侵入を防ぐ特殊なパッケージが不要、③応答速度が速く無線通信機能も加えられるといった利点があります。また、生産性の高いスパッタリング法を用いて製造できるため、④大面積化が容易という特徴もあります。

■従来技術との比較3:(従来型マイクロLEDディスプレーとの比較)■
 有機ELの後の次世代ディスプレー(究極のディスプレー)として、全画素数に相当する多数の微小なLEDを基板に並べたマイクロLEDディスプレーが知られています。しかしながら、膨大な数のRGBのLEDを個別に作製し1枚の板に並べるのはコストが高く、一般用途に広く利用されるのは困難と考えられてきました。また、通常窒化物半導体では赤色のLEDが実現できないので、異なる複数の材料でできたLEDを組み合わせる必要もありました。本提案の素子はまさに膨大な数の3原色のLEDを窒化物半導体のみで一枚の大面積金属フォイル上に低コストで作製することを可能とする技術であり、このマイクロLEDディスプレーの実用化を一気に押し進める起爆剤となる技術であると考えられます。


○発表雑誌
雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Fabrication of full-color GaN-based light-emitting diodes on nearly lattice-matched flexible metal foils
著者: Hyeryun Kim, Jitsuo Ohta, Kohei Ueno, Atsushi Kobayashi, Mari Morita, Yuki Tokumoto, and Hiroshi Fujioka
 (金 惠蓮 、太田実雄、上野耕平、小林篤、森田真理、徳本有紀、*藤岡洋)
DOI番号:10.1038/s41598-017-02431-7
アブストラクトURL:http://www.nature.com/articles/s41598-017-02431-7

○問い合わせ先
東京大学生産技術研究所
教授 藤岡 洋(ふじおか ひろし)
Tel: 03-5452-6342  Fax: 03-5452-6343
研究室URL:http://www.iis.u-tokyo.ac.jp/~hfujioka/

資料

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図1 (a)金属フォイル上に試作したフレキシブル窒化物LEDと(b)発光の様子

 
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図2 金属フォイル上に試作したフレキシブル青色LEDの発光スペクトル


 
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図3 金属フォイル上に成長したGaNの断面電子顕微鏡写真

用語解説

(*1)LED
発光ダイオード(Light Emitting Diode)の略。半導体に電圧を加えることによって電気エネルギーを光エネルギーに変換する。

(*2)有機EL
有機物を発光層とする発光素子。一部のスマートフォンの表示素子等として用いられている。

(*3)単結晶基板
原子が周期的に配列した材料。価格が極めて高い。ガラスなどの非晶質は原子の配列に規則性はないが、価格が安く、液晶ディスプレーなどの基板として用いられる。

(*4)MOCVD
有機金属気相成長法(Metalorganic Chemical Vapor Deposition)の略。窒化物半導体の素子に一般的に利用されているが、生産性が低く、コストが高い。

(*5)スパッタリング
薄膜を生産性良く製造する手法の名称。集積回路や液晶テレビ等の製造に広く使われている。

(*6)窒化物半導体
窒化ガリウムを代表とする半導体。LEDやレーザー、パワーデバイス用の材料として広く用いられている。

(*7)液晶
LEDなどの光源から出た光をシャッター機能によって画像を作り出す素子。現在、テレビとして最も一般的に用いられている技術。応答速度が遅く、視野角が狭い、コントラストが低いなどの問題がある。また、液晶には光源としての機能はないため、液晶ディスプレーにはLEDや冷陰極管などの光源が別に取り付けられている。

(*8)マイクロディスプレー
最も優れた性能を持つ究極のディスプレーとして、全画素数に相当する多数の微小なLEDを基板に並べたマイクロLEDディスプレーが知られている。しかしながら、膨大な数のLEDを個別に作製し1枚の板に並べるのはコストが高く、一般用途に広く利用されるのは困難と考えられてきた。また、通常窒化物半導体では赤色のLEDが実現できないので、異なる材料でできたLEDを組み合わせる必要があった。

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