「分子集積体工学」がめざすもの

化学はおもに原子・分子を扱う学問ですが,孤立した単独の原子・分子を扱うことはあまり多くありません。現実に目にする化合物材料というのは,多数の分子が集まり,ひしめいて互いに相互作用を及ぼしあっている世界です。北條研究室では,分野名として「分子集積体工学」を掲げています。これはまだ一般的に認知されたことばではありませんが,集積状態にある分子を扱うことによって「分子化学を超える何か」をめざそうという思いが込められています。

分子の「並び」を科学する

ひとつの分子でも,分子間の相互作用のしかたによって性質が大きく異なることがあります(水と氷などもその例です)。分子間相互作用の違いはおもに分子の並び方で決まります。私たちは分子の並び方と材料の性質の関係を調べるとともに,ある分子に望む機能が最大限発揮されるような並びについて考え,新しい材料開発につなげていきたいと考えています。

超分子化学の恩恵

しかし人が望んだように分子を並べるのは容易ではありません。私たちはこの課題のために超分子化学,超分子錯体化学のアイデアとストラテジーを駆使して,テーマを設定し,研究に取り組んでいます。

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上の図では,超分子化学,超分子錯体化学の中で中心的な役割を果たす静電力水素結合van der Waals力配位結合疎水性相互作用を取り上げて示しました。これらの相互作用は溶液中で結合/解離,集合/離散の平衡状態にあります。このような条件下では,分子が自発的に秩序性の高い構造をもった集合体をつくりあげます。このような現象を組織化ともいいます。

分子から材料へ

こうしてできた集合体は可逆的にもとのばらばらの分子に戻ってしまいますが,条件をいろいろ工夫して不可逆な過程を取り入れると,分子の秩序的な並びを保ったまま安定な材料をつくることができるのです。

機能性メタロポリマーの開発

上記「分子集積体工学」に基づく材料設計を具現化するため,私たちはメタロポリマーに着目しました。メタロポリマーとは広く金属原子を含む高分子を指し,配位高分子(coordination polymer)や高分子金属錯体(macromolecular metal complex)などが含まれます。

メタロポリマーの特徴

メタロポリマーにおける金属原子の役割は主に以下の三つです。

  1. 分子をつなぐ配位結合 金属イオンとO, Nなどのヘテロ原子は配位結合という一種の共有結合をつくります。複数の金属イオンに配位するように有機分子を設計すれば,配位結合によって分子がつながったメタロポリマーをつくることができます。
  2. 機能を担う金属錯体 メタロポリマーの中では金属原子と有機分子が共有結合(配位結合を含む)によって連結しており,その部位は金属錯体としての性質を持っています。金属錯体の中には電子的,光学的,光化学的な機能をもつものが多く,金属の種類と有機配位子の組み合わせにより性質をチューニングすることができます。
  3. 高次構造を制御する配位結合 配位結合の特徴は,金属イオンの種類に特有の方向性をもつことです。この性質により金属イオンに配位するヘテロ原子は規則的に並び,配位子のコンホメーションが制御されます。例えば柔軟な構造をもつ分子でも,金属配位によって平面に固定することができます。

メタロポリマーの電子機能

このような特徴をもつメタロポリマーは分子集積の効果を評価するのにうってつけです。金属錯体の機能のうち,私たちは電子的機能に注目しました。金属イオンの多くは電子を可逆的に出し入れできるレドックス活性という性質を持ちます。そこで配位子となる有機分子にもレドックス活性を持つものをもちいれば金属−配位子間で電子のやり取りが可能になると考えました。ポリマー状にすることで電子の行動範囲は広がり,コンホメーション制御によって集積状態が変わるので,分子間相互作用によって機能をチューニングできると考えられます。例えば,ある特定の電圧をかけると誘電率が変わったり,磁性が変わったり,色が変わったりするプラスティックができる可能性があります。

研究テーマ

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