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【共同発表】円偏光と電位制御で、右または左にねじれたナノ構造を 1段階で選択的に作り分ける技術を開発(発表主体:富山大学)

○ポイント:
◆右または左にねじれた、キラル※1なスパイラルナノ構造※2を、電位制御した電極に円偏光を照射するという1段階の工程だけで作る方法を開発しました。
◆ナノ構造の約90%が右または左の方向にねじれ、そのすべてが狙った方向にねじれており、非常に高い鏡像体選択性を達成しました。

○概要:
富山大学学術研究部理学系の 西 弘泰 講師 と、東京大学 生産技術研究所の 立間 徹 教授 らの研究グループは、鉛(II)イオンを含む水溶液中で、電位を制御した電極に右円偏光または左円偏光※3を照射するだけで、右または左にねじれた酸化鉛(IV)(PbO2)のキラルナノ構造を、従来より非常に高い割合で作り分けられることを見出しました(図1)。作られたナノ構造のうち、右または左の方向にねじれた割合は約90%であり、それらはすべて狙った方向にねじれていました(この分類に基づく鏡像体過剰率は100%)。
 これまでにも、類似の手法でキラルナノ構造を作製した例はありましたが、ほとんどの場合、成長の足がかりとなるナノ粒子(前駆体粒子)の作製や、それを基板上に固定する操作など、複数の工程が必要でした。それに対して本手法は、前駆体粒子をあらかじめ作製・固定しておく必要がなく、鉛(II)イオンを含む水溶液中で、電位を制御した電極に円偏光を照射するだけという非常に簡便な方法にも関わらず、右または左にねじれたナノ構造を高い選択性で作り分けられる特徴があります。
 ねじれたナノ構造は、以下のように形成されると考えられます。まず、酸化鉛の小さな粒子が成長し始め(図2a)、その表面に細かな突起がランダムに生じます。この突起によって幾何学的な対称性が破れると、突起を起点に、円偏光の電場の回転方向に応じて「ねじれた分布の近接場光※4」が生じます(図2b)。これに沿って酸化鉛が成長することで、ねじれた構造が形成されます(図2c)。本手法は他の半導体ナノ構造などにも適用できる可能性があり、電子線リソグラフィー法や化学合成法に次ぐ、新しいキラルナノ構造の作製方法として期待されます。
 本研究成果は、「Nano Letters」に2026年10月20日(火)(日本時間)に掲載されました。

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図1.キラルな酸化鉛のスパイラルナノ構造。(左)左円偏光で作製した左手型構造と、(右)右円偏光で作製した右手型構造。

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図2.キラルな酸化鉛のスパイラルナノ構造の形成過程の模式図。

○研究の背景:
 生物を構成したり、生物が利用したりするアミノ酸や糖には、キラリティを持つものが多く、生体内では鏡像関係にある右手型または左手型構造のうち、主に一方が用いられます。キラルな分子の中には、右手型と左手型とで、生体への作用が大きく異なるものもあります。こうしたキラル分子の左右の型を見分け得る材料として、キラルナノ構造が注目されています。キラルナノ構造はまた、左右の円偏光のいずれかを優先的に発生させたり、検出したりする光学素子や、光の振る舞いを制御する光学メタマテリアル※5につながり得る材料としても期待されています。
 キラルナノ構造は従来、電子線を走査して描いた孔を鋳型にしてナノ構造を作る電子線リソグラフィー法や、キラル分子との相互作用を利用した化学合成法により、主に作製されてきました。しかしながら、電子線リソグラフィー法は設計通りの構造を精密に作製できる反面、高価な装置が必要で、広い面積の加工には時間がかかり、ねじれ構造などの立体造形にも制約があります。化学合成法は、キラルナノ構造を大量に作製できますが、基板上のデバイスとして使用するためには固定化の必要があり、その際にナノ構造を配列させることが難しく、また表面に付着したキラル分子などの除去が必要な場合もあります。そのため、基板上の広い範囲でキラルナノ構造を直接、簡便に作製できる手法が望まれていました。
 本研究グループの立間教授は、成長の足がかりとなる前駆体粒子に円偏光を照射することで、その周囲にねじれた分布の近接場光を生じさせ、その部位で物質を析出または溶解させてキラルナノ構造を作製する手法を、2018年に開発しました。この手法は、キラルナノ構造を簡便に一括して作製できることから、各国のナノ科学研究者によって利用されています。しかしながら、狙った方向とは逆向きの構造が混在したり、ねじれの有無や向きを判別できない粒子が多く生じたりする傾向があり、選択性を高めることが非常に重要な課題でした。加えて、前駆体粒子を化学合成法などで別途作製しておく必要があったため、これを省略できれば、さらに利便性が高まると期待されていました。

○研究の内容・成果:
 本研究では、前駆体粒子を別途用意することなく、水溶液中で、電位を制御した電極に円偏光を照射するという1段階の工程だけで、キラルな酸化鉛のスパイラルナノ構造を簡便に作製する手法を開発しました。具体的には、硝酸鉛を含む水溶液中で、一定の電位を印加した酸化インジウムスズ(ITO、透明導電膜)被覆ガラス基板の裏側(ガラス側)から、右または左円偏光を照射するだけです。ITO表面には、数百ナノメートルの大きさの酸化鉛ナノ構造が多量に生成します。右円偏光を使った場合には、ナノ構造を上方から見たとき、上部から下部に向かって時計回りにねじれた構造(以下、右手型と呼びます)が得られ、左円偏光を使った場合には反時計回りにねじれた構造(左手型)が得られました(図1)。右手型と左手型は、互いに重ね合わせることができない鏡像関係にあり、両者は正負の反転した円偏光二色性※6スペクトルを示しました。また、観察したナノ構造のうち約90%が右手型または左手型に分類され、右円偏光で作製したときは右手型のみが、左円偏光で作製したときは左手型のみが確認されました。これは、右手型と左手型のどちらにも分類できない約10%のナノ構造を除くと、観察・分類した構造の数から求めた鏡像体過剰率が100%であることを意味しており、本手法が非常に高い鏡像体選択性を示すことがわかります。
 スパイラルナノ構造の成長には、ミー(Mie)共鳴※7と呼ばれる光学共鳴現象が密接に関わっています。半導体ナノ構造に光をあてることによってミー共鳴が起こると、ナノ構造の内部や周辺に強い近接場光が生じ、その部位で半導体が光励起され、いわゆる半導体光触媒反応※8が局所的に起こる場合があります。酸化鉛は、反応初期は半球状のナノ構造として成長し、ある程度の大きさに成長するとミー共鳴が起こるようになりますが、この段階ではまだ、円偏光下においても、近接場光の分布に偏りはありません(図2a)。しかし、成長の過程でナノ構造上に生じた突起によって幾何学的な対称性が破れると、突起を起点として、円偏光の電場の回転方向に対応した、ねじれた分布の近接場光が生じます(図2b)。この近接場光によって酸化鉛の成長が進むため、ねじれた「ひだ」のような構造が発達し、スパイラル構造を形成します(図2c)。

○今後の展開:
 本手法は、電位を制御した電極に円偏光を照射するだけという非常に簡便な方法であるため、酸化鉛以外のさまざまな材料や反応に適用できる可能性があります。電子線リソグラフィー法や化学合成法と相補的な方法であり、これらと組み合わせることで、より優れたナノ構造の作製も期待できます。今後は、メタマテリアルを含む光学材料などへの応用が期待されます。

○用語解説:
※1)キラル
 ある物体がキラルな物体(キラリティを持つ物体)である場合、それを鏡に映した形を持つ物体(鏡像体)と、どう動かしても重ね合わせることができません。たとえば、左手と右手は互いに鏡像体の関係(鏡像関係)にありますが、それらをどう動かしても、重ね合わせて一致させることはできません。アミノ酸分子のL体とD体も、鏡像関係にあります。

※2)スパイラルナノ構造
 ナノメートルから数百ナノメートルの大きさのねじれたナノ構造のことを、本研究ではスパイラルナノ構造と呼びます。スパイラルナノ構造は、キラリティを持ちます。

※3)円偏光
 光は、電場と磁場が振動しながら伝わる電磁波です。それらの振動の向きが、回転しながら進む光を円偏光と呼びます。光を受ける側から光源に向かって見て、電場が時計回りに回転する光を右円偏光、反時計回りに回転する光を左円偏光と呼びます(分野などによっては、逆に定義される場合もあります)。

※4)近接場光
 物質の表面やナノ構造のごく近くに局在する光の電磁場を、近接場光と呼びます。表面から離れると急激に弱くなり、光の波長よりも小さな領域に局在することがあります。これを使うことで、可視光をレンズで集めただけではできないような微細なナノ加工が可能です。本研究では、ミー共鳴(※7参照)により局在化させた近接場光を利用しています。

※5)光学メタマテリアル
 光の波長よりも小さな人工構造を配列することで、天然の物質では得られない、または得にくい光学特性を持たせた材料を、光学メタマテリアルと呼びます。光の進行方向や偏光特性、吸収・反射挙動などを制御できます。

※6)円偏光二色性
 キラリティを持つ物質が光を吸収・散乱する場合、一般に、右円偏光と左円偏光に対する吸収・散乱の強さが異なります。この性質を円偏光二色性(CD、または円二色性)と呼びます。ある波長で、右手型の構造が右円偏光をより強く吸収するとすれば、それと鏡像関係にある左手型の構造は、左円偏光をより強く吸収します。

※7)ミー共鳴
 ミー共鳴という用語が指す範囲は、分野や文脈によって多少異なります。一般的には、主に半導体や絶縁体などの微粒子で起こる光の共鳴現象を指します。共鳴する光の波長は、粒子の大きさや形、屈折率などによって決まり、その波長の光を照射すると、粒子の内部や周辺において、電場や磁場が局所的に強まり、強い近接場光が生じます。Gustav Mie(グスタフ・ミー)が確立したミー理論にちなむ呼称です。ミー理論は金属の自由電子振動に基づく局在表面プラズモン共鳴(LSPR)にも適用されますが、ミー共鳴にはLSPRを含めないのが、近年の材料分野などでは一般的です。

※8)半導体光触媒反応
 半導体が光を吸収し、そのエネルギーによって価電子帯の電子が伝導帯へと励起されると、価電子帯には正孔が生じます。この正孔によって酸化反応、伝導帯の電子によって還元反応が起きます。これらを一括して半導体光触媒反応と呼びます。本多-藤嶋効果の発見が、本分野の発展の契機となりました。半導体を載せた電極の電位を制御することで、上記の酸化または還元反応の一方を、より起こりやすくすることもできます。

○論文詳細:
〈論文名〉Precursor-Free Photoelectrochemical Fabrication of Spiral Lead Oxide Nanostructures under Circularly Polarized Light
〈著者〉早川 亜美、西 弘泰、立間 徹
〈掲載誌〉Nano Letters
〈DOI〉10.1021/acs.nanolett.6c03830

○問い合わせ先:
富山大学学術研究部理学系
講師 西 弘泰
Tel:076-445-6611  
E-mail:nishi(末尾に"@sci.u-toyama.ac.jp"をつけてください)

東京大学 生産技術研究所
教授 立間 徹
Tel:03-5452-6336  
E-mail:tatsuma(末尾に"@iis.u-tokyo.ac.jp"をつけてください)

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