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【記者発表】混雑や渋滞に効くのは、センサー増設か、ダイヤ改正か、予測の高度化か――鉄道や道路の混雑パターンを数えて、投資先を見分ける診断法を提案――

○発表のポイント:
◆鉄道や道路で毎日繰り返し起きる混雑や渋滞に対し、センサーの増設、ダイヤや信号などの施策の拡充、予測モデルの高度化のどこに投資すれば効くかを見分ける診断法を提案。診断では、混雑パターンの数、センサーで判別できるパターンの数、施策で調整できるパターンの数、という「3つの数」を比較。
◆対策で手を打てる混雑パターンの数は「3つの数」のうち最も小さい数が上限となり、ほかの数を増やす投資ではこの上限が上がらないため、どの数が最も小さいかで投資先の目安が決まることを提示。米国の鉄道(BART)と高速道路(I-880)の例では、どちらも計測は十分だが、BARTでは全路線一律の増便より路線ごとの本数調整など施策の手段を増やすことが、I-880では予測モデルの複雑化より少数の混雑パターンに絞った対策が、それぞれ先決であることを例示。
◆BARTでは、増便の予算を最も大きい混雑パターンに関わる路線に集中させる試算例で、シミュレーション上、路線網全体の総遅延が2割以上減ることを確認。運転士不足などで増便が難しくなる中、この診断法は、限られた予算や人員で混雑対策を進める交通事業者や自治体が、投資の優先順位を検討する際の判断材料になると期待される。

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手を打てるのは、センサーで判別でき、しかも施策で調整できる混雑パターンだけ

○概要:
 東京大学 生産技術研究所の本間 裕大 准教授と、米国アリゾナ州立大学のXuesong Zhou 教授の研究チームは、鉄道や道路で毎日繰り返し起きる混雑や渋滞に対し、どこに手を打てば効くかを見分ける診断法を提案しました。繰り返し起きる混雑は、「朝は都心へ向かう列車が混み、逆方向は空く」のような、どこがいつ混み、どこがいつ空くかの決まった組み合わせ(混雑パターン)が、いくつか重なってできています。本研究は、混雑パターンが何通りあるか、センサーで何通りのパターンを判別できるか、施策で何通りのパターンを調整できるか、という「3つの数」(注1)を数えます。対策で手を打てるのは、センサーで判別でき、しかも施策で調整できる混雑パターンだけなので、手を打てるパターンの数は「3つの数」のうち最も小さい数を超えません。この診断は、予測モデルを学習させる前にできる、混雑対策の「健康診断」にあたります。米国の鉄道(BART)と高速道路(I-880)の例では、どちらも計測は十分ですが、BARTでは全路線一律の増便より施策の手段を増やすことが、I-880では予測モデルを複雑にするより少数の混雑パターンに絞って手を考えることが先決でした。論文は、阪急・阪神のダイヤ改正や東急線・副都心線の直通運転も、この考え方に当てはまる日本の例として挙げています。AIによる交通の予測が精緻になった今、この診断法は、その力を混雑の緩和に結びつけるための、交通事業者や自治体と予測の専門家の共通の言葉になると期待されます。

○発表者コメント:本間 裕大 准教授の「もしかする未来」
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私の専門は、社会の「流れ」が滞らない仕組みを数理で設計することです。本研究は、その視点を鉄道や道路の混雑に広げたものです。在外研究以来の縁が続く米国のZhou教授とともに、「どこに投じれば効くか」を見分ける方法を考えました。毎日の満員電車や渋滞に向けた限られた予算が、効く場所を確かめてから使われる。そんな当たり前を、交通の現場に根づかせたいと考えています。
本間 裕大 准教授 研究者プロフィール

○発表内容:
〈研究の背景〉
 鉄道や道路では、朝夕の混雑や渋滞が毎日繰り返される一方、朝の上りが満員でも下りは空いているといったように、使われない容量も生まれます。こうした需要と供給の「ずれ」を減らそうと、センサーの整備や予測モデルの開発、ダイヤ・信号・料金といった施策の拡充に、多くの投資が行われていますが、予測が精緻になっても混雑の緩和に結びつかない例は少なくありません。限られた予算をどこに向ければ効くのかを、投資の前に判断する手立てが求められていました。本間准教授らは、走行中ワイヤレス給電の研究(関連情報①)で、給電する場所を数理で選べば、道路の2%未満の設備で電気自動車が走り続けられることを示しています。本研究は、同じ「どこに投じれば効くか」という問いを、鉄道や道路の混雑に向けたものです。

〈研究の成果〉
 研究チームは、需要と供給のずれを特異値分解(注2)で混雑パターンに分け、「3つの数」を比べる診断法を提案しました。混雑パターンの数を、センサーで判別できるパターンの数、施策で調整できるパターンの数と比べると、いちばん小さい数が、手を打てる混雑パターンの数の上限になり、ほかの数を増やしても上限は上がりません。本成果は、国際誌「h」(Elsevier)に2026年9月19日付でオンライン掲載されました。
 論文で分析した例ではありませんが、交差点で例えます。この交差点の混雑には、朝は東西、夕方は南北の道に車が偏る「偏り」と、朝夕の通勤時間帯には交差点全体の処理能力を超えて車が押し寄せ、昼は全体が空く「全体の波」の、2つのパターンがあるとします。感知器は両方の道にあり、センサーで判別できるパターンは2つです。ところが信号にできるのは、交差点を通せる量を各方向に配り直すことなので、青の配分を時間帯で変えれば偏りには手を打てても、全体の波にはほとんど手が届きません。施策で調整できるパターンは1つで、これが「3つの数」のうち最も小さい数です。感知器を増やしても、渋滞をどれだけ精密に予測しても、手を打てるパターンは1つのままで、時差通勤の呼びかけや迂回の誘導など、全体の波に効く施策を加えて初めて2つになります。交差点ひとつなら技術者が目で判断できますが、路線網や都市全体ではそうはいきません。数えて判断できるようにするのが、本研究の診断法です。
 どの数がいちばん小さいかで、投資先の第一の目安が決まります(図1)。センサーで判別できるパターンが最も少なければセンサーの増設や推定・予測モデルの高度化に、施策で調整できるパターンが最も少なければダイヤ改正など施策の手段に、混雑パターンそのものが最も少なければ少数のパターンに絞った対策に、力を注ぐべきです。

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図1 「3つの数」と投資先の早見表

 米国の2つの事例で、この診断を例示しました。サンフランシスコ湾岸の鉄道BART(48駅・5路線)では、混雑パターンが約12通り、改札データで判別できるパターンが最大48(駅の数)あるのに対し、路線網全体の運行本数と運賃という粗い単位では、施策で調整できるパターンは約2しかありません。全体の本数を増やしても、どの路線にも一律に効いてしまうからです。交差点の例えと同じく、施策が足りない状態です。この単位では、施策で調整できるパターンの数が、手を打てる混雑パターンの数の上限を決めている第一の候補で、予測を精緻にしても上限は上がりません。そこで、路線ごとに本数を変えられる設定で、増便の予算をいちばん大きい混雑パターン(朝のピークに湾の東側からサンフランシスコへ向かう偏り)に関わる路線に集中させる配分を試算したところ、待ち行列に基づく交通シミュレーション上、路線網全体の総遅延が20%以上減りました。
 一方、同じ湾岸の高速道路I-880(南行き)は、本線の検知器66か所、流入制御65か所と、計測や制御の設備が充実しています。しかし、2022年1月の1日分のデータで例示すると、主な混雑パターンは3つしかなく、この3つでずれの大きさ(注3)の9割以上(92.1%)を説明できます。少なくともこの日の混雑は、3つのパターンでほぼ表せるほど単純でした。「3つの数」のうち最も小さいのは混雑パターンの数とみられますが、これは手段が足りないという意味ではなく、対策で狙うべきパターンが3つに絞られているという意味です。センサーを増やしたり、予測モデルを複雑にして予測の精度を上げたりしても、新たに捉えられるのは混雑のずれとは関係の薄い動きで、対策に生かせる情報は増えません。BARTでは施策の手段を増やすことが先決だったのに対し、I-880では、設備を増やしたり予測モデルを複雑にしたりする前に、今ある流入制御をこの3つのパターンに向けてどう組み立てるかを考えることが先決になります(図2)。

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図2 米国の鉄道(BART)と高速道路(I-880)の診断結果

 論文は、設備を増やさずに少数の運行パターンの調整で所要時間を短縮した2025年2月の阪急・阪神のダイヤ改正や、直通の経路を設けて供給側のパターンそのものを増やした東急線と東京メトロ副都心線の直通運転を、日本の例として挙げています。

〈将来の展望〉
 今回の診断で分かるのは、手を打てる混雑パターンの数の上限と、それを決めている数であり、混雑がどれだけ減るかではありません。それでも、予測モデルを学習させる前に投資先の目安が得られることは、混雑対策に「構造を見てから、手を打つ」という順番を持ち込みます。本研究チームは、運転士の不足などで増便そのものが難しくなる中、この診断法が交通事業者や自治体の判断材料になると考えています。
 今後は、論文で方向性を示したとおり、センサーで判別でき、しかも施策で調整できる混雑パターンに予算を振り向ける最適化に取り組み、この診断法を、社会を滞りなく流すための数学・工学として磨いていきます。

〇関連情報:
プレスリリース①:「EV充電から解放、走り続けられるモビリティ社会像を提示――市街地で「無限走行」を実現させる走行中ワイヤレス給電の最適配置――」(2025/1/7)
https://www.iis.u-tokyo.ac.jp/ja/news/4669/

プレスリリース②:「充電の心配なく電気自動車で日本中を旅行できるモビリティ社会像を提示――高速道路上における走行中ワイヤレス給電の最適配置と経済性を検証――」(2024/2/8)
https://www.iis.u-tokyo.ac.jp/ja/news/4432/

○発表者・研究者等情報:
東京大学
 生産技術研究所 人間・社会系部門
  本間 裕大 准教授(責任著者)

Arizona State University(アリゾナ州立大学)
 School of Sustainable Engineering and the Built Environment
  Xuesong (Simon) Zhou 教授(第一著者)

○論文情報:
〈雑誌名〉Transportation Research Today
〈題名〉Structure before intelligence: A demand-supply mismatch framework for scalable AI transportation applications
〈著者名〉Xuesong (Simon) Zhou, Yudai Honma*
〈DOI〉doi.org/10.1016/j.trt.2026.100024

○研究助成:
本研究は、科研費「基盤研究(B)(課題番号:24K01109)」、米国国立科学財団(NSF)のPOSEプログラム、および米国運輸省のUniversity Transportation Centersプログラム(テキサス大学オースティン校TBDセンター、課題番号:69A3552344815、69A3552348320)の支援により実施されました。

○用語解説:
(注1)「3つの数」(ランク)
 データを表にしたとき、その中に含まれる独立なパターンの数を、数学ではランクと呼びます。「3つの数」は、論文のミスマッチ、観測、制御のランクにあたります。混雑パターンの数には、ずれの大きさ(注3)の90%を説明するのに必要なパターンの数(有効ランク)を用います。センサーで判別できるパターンの数と施策で調整できるパターンの数は、センサーの配置図や施策の一覧から数えます。同じ場所のセンサーや同じ効き方の施策は、いくつあってもこれらの数を増やさないので、センサーや施策の個数はその上限にすぎません。手を打てるパターンの数は、パターンとセンサーや施策の向きの揃い方によって、「3つの数」のうち最も小さい数より小さくなることもあります。

(注2)特異値分解
 行列を、重要度の高い順に並んだパターンの重ね合わせに分解する数学の手法です。上位の少数のパターンで全体の大部分を説明できるかを調べるのに使います。

(注3)ずれの大きさ
 需要と供給のずれを二乗して合計した量で、論文ではエネルギーと呼んでいます。ずれ全体のうち、それぞれの混雑パターンがどれだけを占めるかを測るために用います。

○問い合わせ先:
東京大学 生産技術研究所
准教授 本間 裕大(ほんま ゆうだい)
Tel:03-5452-6379 
E-mail:yudai(末尾に"@iis.u-tokyo.ac.jp"をつけてください)
本間 裕大 研究室

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