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【記者発表】分子の"集団的ふるまい"が結晶を動かす――分子の整列と結晶の変形が手を取りあう新しい状態 「協奏的超構造」を発見――

○発表のポイント:
◆量子材料として注目されているシート状の二セレン化ニオブ(NbSe2)結晶の隙間に有機分子を挟み込んだ材料において、新しい状態「協奏的超構造(CSS)」を世界で初めて発見しました。この状態では、挟まれた分子の整列と、NbSe2側の長周期な変形が同時に現れます。
◆CSSへの相転移が分子集団のゆっくりとした動きに律速されることに着目し、冷却の速さを変えるだけで整列した状態と、無秩序のまま凍りついた状態を作り分けることに成功しました。
◆有機分子のもつソフトな性質を量子材料に組み込む本アプローチは、温度操作で材料の状態と機能を切り替える新しいハイブリッド界面の設計につながると期待されます。

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分子動力学に駆動された協奏的超構造の発現

○概要:
 東京大学 生産技術研究所の金澤直也准教授、松岡秀樹特任助教、同大学 大学院工学系研究科の植田大雅大学院生、同大学 大学院新領域創成科学研究科の鬼頭俊介助教、有馬孝尚教授、高輝度光科学研究センター(JASRI)の中村唯我研究員らの研究グループは、無機層状結晶の層間に有機分子を挿入した「分子インターカレーション超格子(注1)」において、分子の整列と無機結晶の長周期な変形が、手を取りあうように同時に現れる新しい状態「協奏的超構造(CSS)(注2)」を発見しました。
 分子インターカレーション材料の研究には長い歴史がありますが、これまでは個々の分子の単体としての性質に注目した研究が大半を占めてきました。本研究はさらに踏み込み、分子が集団として整列する相転移が存在すること、そして、同時に結晶側にモアレ模様のような長周期構造が生み出されることを実証し、分子が結晶を動かす能動的な役割を担いうることを示しました。
 さらにこの相転移は、一般的な無機固体の電子的な相転移と異なり、分子がゆっくり並ぶという遅い動きに律速されます。そのため、冷却速度を変えるだけで、低温で安定な有機分子が規則的に並んだ状態と、高温で現れる有機分子が無秩序な状態を低温で凍結させた状態を選んで作り出せます(図1)。本成果は、ソフトマター(柔らかい物質)の物理と量子材料の物理を橋渡しするものであり、無機材料と有機材料を融合(ハイブリッド化)させたハイブリッド界面の新しい設計指針を与えます。

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図1:分子動力学に駆動された協奏的超構造の発現

○発表者コメント:植田 大雅 大学院生の「もしかする未来」
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この研究は、これまで静的だと思われてきた分子のダイナミクスに興味を抱いたことから始まりました。無機結晶の舞台で、ソフトな分子が協奏して構造を制御できた点に大きな価値を感じています。今後はこのメカニズムの理解を深め、新材料の開拓に挑戦していきたいと考えています。

○発表者コメント:松岡 秀樹 特任助教の「もしかする未来」
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この研究をモアレ結晶などの量子物性的なトピックにつなげ、新しくかつ意外な物理を発掘していきたいです。

○発表者コメント:金澤 直也 准教授の「もしかする未来」
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多彩な有機分子の機能と無機結晶の量子状態が協奏する、未踏のハイブリッド材料をデザインしたいと思います。
金澤 直也 准教授 研究者プロフィール

○発表内容:
 層状物質(ファンデルワールス物質)(注3)を基盤としたヘテロ構造や超格子構造(注4)は、構成材料の単純な足し合わせを超えた新たな物性を生み出す舞台として注目されています。なかでも、層と層の隙間に有機分子を挿入した「分子インターカレーション超格子(図2(a))」は、無機・有機ハイブリッド界面を構築する独自の手法として盛んに研究されています。しかし、これまでの研究の大半は、分子がもつ電荷やカイラリティ(注5)など、挿入された分子一つ一つがもつ性質に焦点を当てたものでした。一方で、分子が集団としてホスト結晶とどのように動的に相互作用していくのかは未解明なままでした。
 本研究グループは、層状物質の一種であるNbSe2の層間に有機カチオン分子((S)-1-(2-Methylbutyl)-3-methylimidazolium)を電気化学的に挿入した試料を合成し、大型放射光施設SPring-8(注6)(BL02B1)の放射光X線回折(注7)、ラマン分光(注8)、角度分解光電子分光(ARPES、注9)を用いて詳細な構造解析を行いました。その結果、試料を冷やしていくと、挿入された分子がある温度以下で規則的に整列すると同時に、NbSe2のホスト格子にも長周期の歪みが生じる「協奏的超構造(CSS)」が現れることを発見しました(図2(b),(c))。この超構造の周期解析から、分子の配列周期(aMO=6.29 Å)がNbSe2の格子定数(a=3.46 Å)の2倍よりわずか短いことに由来する、長周期(aSS=32.7 Å)のモアレ模様が形成されていることが確認されました(図2(d))。すなわち、周期の異なる二枚の網目を重ねた時に浮かび上がるうなりと同じ原理で、整列した分子と無機結晶のミスマッチがモアレ超構造を作り出していることを示しています。

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図2:分子インターカレーション超格子における協奏的超構造(CSS)の概念図
(a)分子インターカレーション超格子の概略図。(b)協奏的超構造(CSS)の概念図。高温では分子が無秩序に配置しているが、低温のCSSでは分子が等間隔に整列すると同時に、NbSe2層にも波打ちのような長周期の超格子が現れる。(c)本研究で得られた放射光X線回折パターン。MOとSSはそれぞれ分子配列(Molecular order)と長周期超格子(Superstructure)由来のスポットに対応する。(d)NbSe2結晶と分子配列の不整合によるモアレ模様。分子の配列周期(aMO = 6.29 Å)がNbSe2の格子定数(a = 3.46 Å)の2倍よりわずかに短いために、長周期(aSS = 32.7 Å)のモアレ模様が現れる。

 さらに、電気抵抗測定の急冷・徐冷時の比較により、この相転移のダイナミクスを調査しました。一般的な無機固体の磁気転移や電荷秩序転移は極めて高速で進むため、通常の冷却速度では転移を抑えこむことができません。ところが本系では、相転移の進行が有機分子の遅い動きによって律速されるため、その速度が著しく遅いという特徴が現れます。そのため、毎分20℃というごく普通の実験室で実現可能な冷却速度で急冷するだけで相転移が抑制され、平衡状態(注10)である協奏的超構造と、無秩序な状態が凍りついた準安定状態(注10)とを熱的に制御することに成功しました(図3)。

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図3:徐冷/急冷時の抵抗温度依存性
徐冷(毎分2℃、赤線)では転移温度 Tm ≈310 K(36.9℃)付近で電気抵抗に変化が現れはじめ、平衡状態であるCSSが形成される。一方、急冷(毎分20℃、青線)では分子の整列が間に合わず、無秩序な準安定相が低温まで凍結される。

 本研究が提示した協奏的超構造の概念は、これまでに個々の性質に注目されてきた有機分子を、結晶を動かす"集団的なふるまい"をもつ動的な要素として無機結晶に組み込む新しい手法です。これにより、対称性の破れや界面の電子状態をオンデマンドに変調でき、分子と格子の結合を通じて温度制御によりプログラミング可能なハイブリッド超格子の創出が期待されます。

○発表者・研究者等情報:
東京大学
 生産技術研究所
   松岡 秀樹 特任助教
   張 奕勁 助教(研究当時)
    現:同大学大学院理学系研究科 准教授
   町田 友樹 教授
   金澤 直也 准教授

 大学院工学系研究科
  物理工学専攻
   植田 大雅 博士課程
   青柳 俊吾 博士課程
   木村 文彦 修士課程(研究当時)
   岩垣 貴祐 博士課程

  附属量子相エレクトロニクス研究センター
   萩原 健太 助教
   石坂 香子 教授
    兼:理化学研究所 創発物性科学研究センター チームディレクター

 大学院新領域創成科学研究科
   鬼頭 俊介 助教
   有馬 孝尚 教授
    兼:理化学研究所 創発物性科学研究センター センター長

電気通信大学 大学院情報理工学研究科 
   坂野 昌人 准教授

高輝度光科学研究センター(JASRI)
   中村 唯我 研究員

名古屋大学 大学院理学研究科
   須田 理行 教授

○論文情報:
〈雑誌名〉Science Advances
〈題名〉Emergent Cooperative Superstructures via Order-Disorder Kinetics in Molecular Intercalation Superlattices
〈著者名〉Taiga Ueda, Hideki Matsuoka*, Shungo Aoyagi, Shunsuke Kitou, Yijin Zhang, Fumihiko Kimura, Kenta Hagiwara, Masato Sakano, Takahiro Iwagaki, Yuiga Nakamura, Kyoko Ishizaka, Tomoki Machida, Masayuki Suda, Taka-hisa Arima and Naoya Kanazawa
〈DOI〉10.1126/sciadv.aeg4785

○研究助成:
本研究は、科学技術振興機構(JST) 創発的研究支援事業「カイラルイオントロニクスによる電磁交差物性創発(課題番号:JPMJFR221V)」、「新世代コンピューティング素子のためのスキルミオン物質基盤創成(課題番号:JPMJFR2038)」、「第4世代放射光を用いた電子軌道観測の新展開(課題番号:JPMJFR2362)」、同 戦略的創造研究推進事業 CREST「Giant CISS物質: 界面陽電子・電子の全運動量制御(課題番号:JPMJCR23O3)」、同 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「非対称分子によるファンデルワールス物質の層間設計と二次元量子相の開拓(課題番号:JPMJPR25H9)」、「極性二次元物質とそのヘテロ構造におけるバルク光起電力効果(課題番号:JPMJPR20L5)」、「顕微分光による二次元物質デバイスの物性開拓(課題番号:JPMJPR24H8)」、日本学術振興会(JSPS)科研費「2.5次元構造の分析技術開発(課題番号:JP21H05235)」、「ファンデルワールス超薄膜・界面設計に基づく創発二次元物性開拓(課題番号:JP21K13888)」、「極低温高磁場下in-situ顕微分光装置の構築と電界誘起超伝導のラマン分光測定(課題番号:JP22K18317)」、「磁性伝導体における新しい創発電磁誘導(課題番号:JP23H05431)」、「スピン偏極陽電子ビームを基軸とする新しいサイエンスの展開(課題番号:JP23H05462)」、「ありふれた元素の化合物に潜んだトポロジカル表面新物質相の開拓(課題番号:JP24H00417)」、「インターカレーション技術を用いた磁性の制御と新規開拓(課題番号:JP24H01212)」、「ツイストvan der Waals積層を用いたWTe2の対称性制御と新奇物性開拓(課題番号:JP24K01293)」、「ファンデルワールス層状物質へのキラル分子挿入による対称性リプログラミング(課題番号:JP25H02030)」、「キラルファンデルワールス超格子:キメラ準粒子創出のためのプラットフォームの構築(課題番号:JP25H02141)」、「対称心のない欠損スピネル化合物における分子多極子軌道の直接観測(課題番号:JP24H01644)」、「3次元X線散漫散乱解析手法の開発とNb酸化物における短距離軌道秩序状態の解明(課題番号:JP24K17006)」、「スピン偏極したバンド構造を有する原子層物質の創製と新現象の探索(課題番号:JP24K01285)」、「接合界面電子状態制御による新規トポロジカル磁気粒子の創出(課題番号:JP23H04017)」、「トポロジカルスピン粒子系における非線形ホール効果の観測とスピントロニクス応用(課題番号:JP25H02126)」、「表面非対称電子軌道の制御による非相反伝導特性の最大化(課題番号:JP24H01652)」、旭硝子財団、村田学術振興・教育財団、三菱財団、住友財団、田中貴金属記念財団の支援により実施されました。

○用語解説:
(注1)分子インターカレーション超格子
 層状物質(ファンデルワールス物質)の層と層の隙間(ギャップ)に有機分子を挿入することで形成される、無機層と有機分子層が交互に積層したハイブリッド構造材料です。

(注2)協奏的超構造(Cooperative Superstructure;CSS)
 挿入された分子層の規則的な配列(秩序化)と、ホストである無機結晶格子の長周期の変形(超構造)が、互いに影響を及ぼし合いながら同時に現れる状態のことです。

(注3)層状物質(ファンデルワールス物質)
 原子が強固に結合した二次元シートが、ファンデルワールス力という比較的弱い引力で積み重なった構造をもつ物質です。この層と層の隙間(ファンデルワールスギャップ)を利用することで、外部から有機分子などを挿入することができます。

(注4)ヘテロ構造や超格子構造
 異なる二種類の物質を重ねた構造のことをヘテロ構造といいます。また、ヘテロ構造のような重ね合わせがさらに周期的に積み重なった構造のことを超格子構造と呼びます。通常の結晶格子よりも長い周期をもつため「超格子」と呼ばれます。

(注5)カイラリティ
 分子が右手と左手のように、鏡に映した姿と重ね合わせられない性質です。物質の電子状態や光学的性質に影響を与えます。

(注6)大型放射光施設SPring-8
 理化学研究所が所有する兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す大型放射光施設で、利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っています。SPring-8(スプリングエイト)の名前は Super Photon ring-8 GeVに由来します。SPring-8では、放射光を用いてナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われています。
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(注7)放射光X線回折
 加速器から生み出される非常に強力なX線を用いて、物質内部の原子や分子のミクロな配列を精密に調べる手法です。本研究では、大型放射光施設(SPring-8)の高輝度なX線が用いられました。

(注8)ラマン分光
 物質に光を当て、散乱された光のエネルギー変化を調べることで、結晶中の原子の振動や構造の変化を調べる手法です。本研究では、ラマン分光により、有機分子の挿入によってNbSe2の層同士の結合が弱まり、各層が互いに切り離されたような状態になっていることを確認しました。

(注9)角度分解光電子分光(ARPES)
 物質に光を当てて飛び出した電子のエネルギーと角度を測定し、物質中の電子状態やバンド構造を調べる手法です。本研究では、ARPESにより、有機分子の挿入によってNbSe2の電子状態も二次元的になり、層間の電子的な結合が弱まっていることを確認しました。

(注10)平衡状態、準安定状態
 エネルギー的に最も安定な状態を平衡状態と呼ぶのに対し、平衡状態ではないものの、何らかの障壁により平衡状態へ移行しにくく、長時間その状態を保っているような状態を準安定状態といいます。この準安定状態を実現する方法の一つに、本研究のように高温状態から急激に冷却することで本来起きるはずの相転移を抑え込むというものがあります。

○問い合わせ先:
〈研究内容について〉
東京大学 生産技術研究所
特任助教 松岡 秀樹(まつおか ひでき)
E-mail:hideki-m(末尾に"@iis.u-tokyo.ac.jp"をつけてください)

准教授 金澤 直也(かなざわ なおや)
E-mail:naoya-k(末尾に"@iis.u-tokyo.ac.jp"をつけてください)
金澤 直也 研究室

〈機関窓口〉
東京大学 生産技術研究所 広報室
Tel:03-5452-6738
E-mail:pro(末尾に"@iis.u-tokyo.ac.jp"をつけてください)

東京大学 大学院新領域創成科学研究科 広報室
Tel:04-7136-5450
E-mail:press(末尾に"@k.u-tokyo.ac.jp"をつけてください)

科学技術振興機構 広報課
Tel:03-5214-8404
E-mail:jstkoho(末尾に"@jst.go.jp"をつけてください)

〈JST事業に関する窓口〉
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
金山 晋司(かなやま しんじ)
Tel:03-3512-3526
E-mail:presto(末尾に"@jst.go.jp"をつけてください)

〈SPring-8 / SACLAに関する窓口〉
公益財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)利用推進部 普及情報課
Tel:050-3502-3763
E-mail:kouhou(末尾に"@spring8.or.jp"をつけてください)

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