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【報告】万博スイス館における脳オルガノイド展示報告 (開催日:2025/6/11~8/12)

 6月11日(水)から8月12日(火)まで、本所 池内 与志穂 教授とドゥンキ― 智也 特任研究員は、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)のスイス館において、脳オルガノイドの展示を実施した。スイス館では「人間拡張」「生命」「地球」の3つのテーマを掲げ、スイスに関連する最先端技術を紹介しており、我々は、テーマ「生命」の一つとして展示した。本展示では、脳オルガノイドおよびスイスのMaxWell Biosystems社と共同で高密度マイクロ電極アレイ(HD-MEA)を用いた神経活動計測技術を紹介した。

 脳オルガノイドとは、ヒト人工多能性幹(iPS)細胞などの幹細胞から作製される、脳のような構造と機能を持つ三次元の人工組織である。近年、この技術は急速に進展しており、脳の発生や疾患メカニズムの解明や新薬開発などに応用できる強力な研究ツールとして注目されている。一方で、単一のオルガノイドはサイズや組織構造の複雑性に限界があり、脳に見られる多様な領域間の相互作用や高次的なネットワーク機能を十分に再現できないという課題がある。そのため、複数の脳オルガノイドを接続することで、領域間の情報伝達やネットワークダイナミクスを再構築し、より高度な神経回路の機能や可塑性の理解が期待されている。

 本展示では、18個の脳オルガノイドをHD-MEA上で接続した「ネットワーク・コネクトイド」を紹介した。これは、脳オルガノイド技術の最先端および将来像を来場者と共有することを目的としたものであり、今後の技術発展により、人間の脳機能を模倣するモデルや次世代AIの実現も、決して遠い未来の話ではないことを示唆している。

 本展示を主導した本所 池内 与志穂 研究室のドゥンキ―特任研究員はスイス生まれであり、学生時代にMaxWell社でのインターンシップを通じて研究に携わって以来、同社との長年にわたるパートナーシップを築いてきた。本展示は、アカデミアと産業界の継続的な連携、そして日本とスイスの国際協力の成果の一端を示すものである。

 さらに、8月4日(月)にはスイス館にてパネルディスカッション「From Petri Dish to Processor: Exploring the Future of Computing」を開催した。展示技術の紹介に続き、新しい種類のコンピューターの未来や日本・スイス間の共同研究の展望について議論が交わされた。本所、MaxWell Biosystems社、一般財団法人 生産技術研究奨励会の後援により実施され、会場が満席となる約60名が参加した。第1部はVisions in Neuroscience and Computingというタイトルで、IBM Research - ZurichのHeike Riel IBMフェロー兼科学技術部長、MaxWell社のMarie Obien最高商務責任者(CCO)、池内教授、ドゥンキ―特任研究員がパネリストとして登壇し、スイス大使館の鈴木 恭子 科学技術部長がモデレーターを務めた。第2部はInterdisciplinary Swiss-Japan Collaborationsというタイトルで、MaxWell社のUrs Frey最高経営責任者(CEO)、InSphero社のJan Lichenberg最高経営責任者(CEO)、スイス大使館の鈴木科学技術部長、本所 杉原 加織 准教授、ドゥンキ―特任研究員がパネリスト、Obien氏がモデレーターを務めた。

 大阪・関西万博全体の来場者数は2,800万人を超え、スイス館にも100万人以上が訪れた。我々の研究を含む多くの科学的成果が一般市民の目に触れ、未来社会における科学技術の可能性を感じ、思索する契機となったのであれば、研究者としてこの上ない喜びである。とりわけ、来場した子どもたちを含む次世代の研究者たちが科学への関心を深め、未来の研究を担う人材へと成長していくことを期待したい。

 (物質・環境系部門 教授 池内 与志穂 、特任研究員 ドゥンキ― 智也、
国際・産学連携室 高度学術員 有馬 みき)

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左から、ドゥンキ―特任研究員と展示物、オルガノイドの模型、万博スイス館外観

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左から、パネルディスカッション第1部と第2部の様子

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