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【共同発表】世界初、ミュー粒子による地下ナビゲーションに成功(発表主体:国際ミュオグラフィ連携研究機構)

○発表のポイント:
◆GPSを使えない地下空間等におけるナビゲーション技術の開発に成功。
◆GPSに変わる新たなグローバルナビゲーション技術の創出。
◆将来、屋内、地下、海中等における自律移動ロボットへの活用が期待。

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宇宙線ミュー粒子によるナビゲーション
© 2021 Hiroyuki Tanaka/Muographix

○発表概要:
 東京大学国際ミュオグラフィ連携研究機構は、同大学生産技術研究所、および日本電気株式会社、株式会社テクノランドコーポレーション、カターニア大学、ダラム大学、北京大学と共同でGPSを使えない地下空間等におけるナビゲーション技術(muPS)の開発に成功した。これまで、muPSの受信機は地上局と有線接続されていたためナビゲーションの自由度は大きく制限されていたが、今回、無線muPS技術(MuWNS: muometric wireless navigation system)の実証に成功したことで、muPSによるナビゲーションの自由度が大きく向上した。muPSでは、宇宙線ミュー粒子(注1)の強い透過力(注2)と物質によらない飛行速度の普遍性(注3)から受信機と地上局との間を隔てる物質に依らず、受信機と地上局との間の距離を高い精度で決定できる。

○発表内容:
<muPSについて>
 宇宙線ミュー粒子は、銀河系における超新星爆発などの高エネルギーイベントによって加速される宇宙線と、地球大気が反応してできる素粒子の一つである。宇宙線ミュー粒子は透過力が強く、あらゆる人工構造物をほぼ真空中の光速度で貫通することができる。送信者は基準となる地上局と地下受信機との間の宇宙線ミュー粒子飛行時間を測定することで、地上局と地下受信機との間の距離を正確に決定できる。地上局を4ヶ所以上設置することで、地下受信機の位置(x, y, z)および時間の4変数を導出することができる。宇宙線ミュー粒子は地球上いたる所に同じように降り注ぎ、その速度は屋内、屋外、地上、地下問わず同じ速度が担保されているので、グローバルにmuPSを実施することが可能である(図1)。

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図1:MuWNSの原理
©2021 Hiroyuki Tanaka/Muographix
Reference1〜Reference4が4ヶ所の地上局に対応する。BF及び1Fにおける赤矢印が今回移動した経路。白丸がナビゲーション結果。

 従来、muPSでは地上局と受信機との間をケーブルで結び時刻同期を保証していたが、ケーブルの存在はナビゲーションの自由度を大きく制限していた。今回、受信機に高精度のクロックを実装することで、地上局=受信機間の時刻同期をケーブルレスで実現した。

 表1に地階におけるMuWNSのナビゲーション精度と地表におけるGPS/GNSS単独測位(注4)精度とを比較する。目標精度(1m)には届かないが、都市内におけるGPS単独測位精度と比べて高いナビゲーション精度を得ることに成功した。

表1:MuWNSのナビゲーション精度
©2021 Hiroyuki Tanaka/Muographix
MuWNSによるナビゲーション誤差と都内、およびカルガリー市街地で測定されたGPS/GNSS測位誤差とを比較する。

技術誤差(m)
MuWNS
Horizontal (Tokyo)2.3-24.21
Vertical (Tokyo)6.6-15.0
GPS/GNSS
Horizontal (Tokyo)16.1-290.7
Vertical (Tokyo)24.8-409.7
Horizontal (Calgary)9.0-97.0
Vertical (Calgary)7.5-204.7

<今後の展望>
 目標精度(1m)を達成するためには受信機のクロックの精度を上げる必要がある。一方、ポスト5Gに向け昨今ではチップスケール原子時計(CSAC)(注5)の低価格化が進んでいる。現在、受信機のクロックとして実装しているクオーツをCSACに置き換えることで目標精度の達成が見込まれる。目標精度が達成できれば、自律移動ロボットへの実装が可能となる。MuWNSによる自律移動ロボットは、屋内、地下、海中等の環境下で複雑な任務の効率的な遂行を可能とする。家庭、病院、オフィス、工場、鉱山、海洋調査、港湾等において、緊急対応、セキュリティなど様々なサービスの自動化を含む広範囲にわたる応用の可能性を秘めている。

○発表者:
東京大学 国際ミュオグラフィ連携研究機構
東京大学 生産技術研究所
日本電気 株式会社
株式会社 テクノランドコーポレーション
カターニア大学
ダラム大学
北京大学

○論文情報:
<雑誌名> iScience
<論文> First Navigation with Wireless Muometric Navigation System (MuWNS) in Indoor and Underground Environments
<著者> Hiroyuki K. M. Tanaka, Giuseppe Gallo, Jon Gluyas, Osamu Kamoshida, Domenico Lo Presti, Takashi Shimizu, Sara Steigerwald, Koji. Takano6, Yucheng Yang, Yusuke Yokota (muPS collaboration)

○用語解説:
(注1)宇宙線ミュー粒子
 主に超新星などの銀河系の高エネルギーイベントによって光速まで加速される宇宙線と呼ばれる粒子が地球に到達すると、大気を構成する窒素や酸素の原子核と反応して高エネルギーの2次粒子生成する。その一つがミュオンと呼ばれる素粒子である。

(注2)強い透過力
 宇宙線ミュー粒子はエネルギーが高く、キロメートルに及ぶ岩盤を透過することができ、火山やピラミッドなどの透視撮影にも利用されている。

(注3)飛行速度の普遍性
 宇宙線ミュー粒子の飛行速度は、地球上いかなる物体中においても、その運動エネルギーが自身の質量エネルギーを超えている限り、ほぼ真空中の光速度である。

(注4)GPS/GNSS単独測位
 1台のGPS/GNSS受信機によって測位を行う方法。カーナビやスマホ等に実装されているが測位精度としてはそれほど高くない。

(注5)チップスケール原子時計(CSAC)
 最も低消費電力で最も小型の商用原子時計。一般的に原子時計(発振器)はクオーツ型に比べて温度依存特性に優れているとされる。

○問い合わせ先:
〈研究に関する問合せ〉
東京大学 国際ミュオグラフィ連携研究機構 機構長
教授 田中 宏幸(たなか ひろゆき)
〒113-0032 東京都文京区弥生1丁目1−1
E-mail: ht(末尾に"@muographix.u-tokyo.ac.jp"をつけてください)
    ht(末尾に"@eri.u-tokyo.ac.jp"をつけてください)
    ht(末尾に"@virtual-muography-institute.org"をつけてください)
※3つのアドレスすべてにお送りください。
国際ミュオグラフィ連携研究機構ウェブサイト: https://www.muographix.u-tokyo.ac.jp/

〈報道に関する問合せ〉
東京大学 地震研究所 広報アウトリーチ室
Tel:03-5841-2498
E-mail:orhp(末尾に"@eri.u-tokyo.ac.jp"をつけてください)

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