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ナノ材料で光を自在に制御する[UTokyo-IIS Bulletin Vol.11]

光とナノ粒子の新規相互作用を発見、新たな光科学技術の開拓へ

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 日本が世界をリードする分野の一つが、材料科学です。材料科学とは、化学、物理学などの知識を融合して、幅広く社会に貢献する新たな材料を設計・開発・評価する研究分野です。光触媒、炭素繊維、カーボンナノチューブ、青色LEDなど、日本人が大きな貢献をした材料は私たちの身近にも多くあり、本所も重要な役割を果たしてきました。
 現代の材料科学の中核をなすものの一つが、ナノレベルで物質を制御する技術です。本所の立間 徹 教授は、今までにない機能をもつナノ材料の開発を目指して研究を行なっています。

ナノ粒子から半導体へ電子が移動する「プラズモン誘起電荷分離」

 立間教授が特に力を入れているのが、光を自在に制御する機能です。ナノレベルの微細な構造と光の相互作用を制御し、利用することで、多彩な機能を実現できます。
 立間教授が主に扱っているのは、金属ナノ粒子と呼ばれる100nm以下の非常に小さな金属粒子です。私たちの目に見える可視光の波長(およそ380nm~750nm)よりも小さな構造体です。金属ナノ粒子に入射した光は、吸収されたり、散乱されたりします。
 光は電磁波の一種であり、電場と磁場の振動として空間を伝わっていきます。この光が金属に当たると、通常、金属の自由電子によって跳ね返されます。
 しかし、金属のナノ粒子は光を吸収します。これは、光の電場振動と金属ナノ粒子の自由電子の振動が共鳴する「プラズモン共鳴」に起因します。ヴァイオリンは高い(波長の短い)音を、コントラバスは低い(波長の長い)音を奏でるのと同じように、ナノ粒子の大きさや形によって共鳴する光の波長が異なります。つまり、サイズや形状を制御することで、特定の色の光に共鳴するナノ粒子を作り出すことができるのです。
 立間教授らは、2003年、このプラズモン共鳴が関わる新たな現象を明らかにしました。金属ナノ粒子を半導体と組み合わせると、プラズモン共鳴によりナノ粒子から半導体へ電子が移動し、正と負の電荷が分離することを突き止めたのです。立間教授はこの現象を「プラズモン誘起電荷分離」と名付け、メカニズムの解明と応用について研究を進めています。

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新たなメカニズムで動作する太陽電池や光触媒の開発

 プラズモン誘起電荷分離の応用先としてまず挙げられるのは、光触媒です。光触媒とは、光のエネルギーで化学反応を引き起こす材料であり、藤嶋 昭 東京大学特別栄誉教授が本所で見出した現象に基づいています。現在、実用化されている光触媒の多くは酸化チタンを使用していますが、酸化チタンは紫外線以外の光は吸収できません。しかし、金属ナノ粒子を使えば、さまざまな波長の光を光触媒に利用できると期待されます。
 プラズモン誘起電荷分離は、可視光などのエネルギーによって正と負の電荷を分けるので、それらの電荷によって、それぞれ酸化反応と還元反応を引き起こすことができるのです。また、正と負の電荷を別々の電極に取り出せば、光を電気に変えられます。立間教授らはすでに金や銀のナノ粒子を酸化チタンなどの半導体と組み合わせ、「プラズモン光触媒」や太陽電池、光センサを開発し、応用への礎を築いています。

複雑なナノ材料をボトムアップで作る

 プラズモン誘起電荷分離を使うと、ナノレベルの微細な構造も作れます。光による加工では通常、「回折限界」と呼ばれる制限のため、光の波長サイズ以下の細工はできません。しかし、プラズモン共鳴を利用すれば、波長より小さな粒子の周囲に、光を「近接場光」として閉じ込めることができます。
 例えば、酸化チタンの上に立方体の銀ナノ粒子を載せたとき、照射する光の波長によって近接場光を閉じ込める位置を選べます。閉じ込めた位置で正と負の電荷が分離するため、それらのうち正の電荷を使うと、その位置で酸化反応を引き起こせます。溶液中の金属イオンを酸化すれば、特定の位置に金属酸化物を付けることができるのです。化学反応を促進する作用を持つ金属酸化物を、その反応に好都合な位置に付けることで、プラズモン光触媒の効率や反応選択性を向上できます。

 このように、化学合成によって原子や分子を積み上げることでナノ構造を作り上げる技術をボトムアップ法といいます。現在、ナノ材料作製方法として、大きな素材を微細加工して目的の材料を作製するトップダウン法が広く普及していますが、大型で高価な装置を必要とするため、莫大なコストと時間、エネルギーがかかります。立間教授はボトムアップ法の利点について次のように語ります。

 「トップダウン型の手法で製造すると、コストとエネルギーがかかる上に、回折限界を超えた微細な加工や立体的な細工は困難です。ボトムアップ型のプロセスで作れば低いコストでナノレベルの立体加工もでき、大量生産も容易になります」

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「この現象ならでは」の応用を見つけたい

 これまでに他の大学や企業などと多くの共同研究を展開してきた立間教授。共同研究は応用や実用化に向けた近道であるだけでなく、研究や学問において自分が果たすべき役割を知る機会としても重要だと言います。
 立間教授は研究のモチベーションについて、「自分で実用化まで持っていくというよりも、新たな現象を見つけ、その背後にあるメカニズムを解明することで、応用に向けた道筋をつけるのが、私たちの仕事だと思っています。『この現象ならでは』という新材料や用途を見つけていくのが目標です」と話しました。
 立間教授は、光を自在に制御するナノ材料は、将来的にはメタマテリアルにも応用できると期待しています。メタマテリアルとは、自然界の物質とは異なり、光を自在に制御できる材料です。超高解像度レンズや、実際の視界に人工画像を重ねるメガネ、SF作品に登場する透明な宇宙船などにつながる技術として、注目を集めています。現状では可視光の制御は難しいのですが、立間教授は、可視光と金属ナノ粒子の相互作用を利用して、より強く光に作用するナノ粒子を作り、メタマテリアルにつなげたいと考えています。
 立間教授は「メタマテリアルの実用化には時間がかかるかも知れませんが、そうした新しい技術につなげるために、自分はいま何をすべきかを見極めながら研究を続けていきます」と今後の抱負を語りました。

ミニクロストーク:立間 徹 教授 × 松久 直司 准教授

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松久(→柔らかなエレクトロニクスの実現に向けて[UTokyo-IIS Bulletin Vol.11]
 最近のスマートフォンは高性能なカメラが搭載されているので、周囲の状況に応じて色が変化するナノ材料とスマホカメラを組み合わせることで、これまでにない超高感度センサが実用化できるかもしれませんね。
 ところで最近では、短期間での実用化を求められる傾向が強いと感じますが、そうした現状についてどうお考えですか。

立間
 本当に面白いと思う研究にじっくりと取り組む中で、たまたま実用化できるものが出てくるというのが、あるべき姿ではないでしょうか。似たような方向の研究に資金が集まる傾向があるのも気になります。研究者一人ひとりが、独自の興味を追求していくことで初めて研究の裾野が広がり、その中から少しずつ新しいものが生まれてくるのでは、と思います。

松久
 着任して1年になりますが、生研にはじっくり研究に取り組める環境が整っていると感じます。立間先生のお言葉を参考に、まずは目の前の研究を最大限楽しんでいきたいと思います。

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