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EVを再生可能エネルギーの需要の柱に [UTokyo-IIS Bulletin Vol.10]

電力需給の重要な調整役としてのEV普及へ、IoT技術や使いやすい充電の仕組みを開発

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気候変動の悪影響を軽減するため、日本をはじめ世界100カ国以上が、二酸化炭素の排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すことを宣言しています。しかし、日本は温室効果ガスを排出しないエコカーや、電気自動車(EV)の普及で欧州の国々の後塵を拝しています。この状況を逆転させようと、本所の馬場 博幸 特任准教授と今中 政輝 助教は、EV充電器などを使い、今後普及拡大が見込まれる再生可能エネルギーの需給バランスを需要側で調整するIoT技術や、ユーザー目線の充電の仕組みを開発しています。

馬場 博幸 特任准教授は、民間企業で長くエレクトロニクス関連技術に携わった経験を活かし、IoTを駆使して、主にEVに電力需給の調整役をさせる「需要側電力システム」について研究を行っています。

馬場特任准教授は、東京電力株式会社(現東京電力ホールディングス株式会社)に30年間勤務し、38歳の時には、同社が他社と共同で設立した、無線による高速インターネット接続会社の副社長に抜擢されたこともあります。7年前に本所に参加した後は、電力需要を制御するのに有効な革新的システム「IoT-HUB」を共同開発しました。

「余剰電力が生まれやすい祝日や(過ごしやすい気候の)春や秋の日中に、EVを充電したりヒートポンプ給湯器に貯湯する。反対に、需給がひっ迫する冬の寒い日などは充電をストップさせることが、電力の安定供給を担保するのに必要です。これを実現させるには、電力小売会社がインターネット経由で、通信プロトコルが異なるEV充電器や他のデバイスを遠隔操作し、電力需要をコントロールする必要が出てきます。その仲立ちの役割を果たすのがIoT-HUBです」と、馬場特任准教授は説明します。

電気は大量に貯蔵できないため、常に需給バランスを保つ必要があります。バランスが崩れると周波数が変化し、最悪の場合、大規模な停電を引き起こします。特に、太陽光発電や風力発電などの自然変動電源(Variable Renewable Energy, VRE)は、その出力が自然条件に依存します。これらが大量に既存の電力系統に導入された場合、安定的な電力供給ができなくなる可能性が高くなります。

実際に、日本の電力供給には様々な問題が顕在化してきています。寒波や猛暑による電力需給ひっ迫警報・注意報が発令される一方、余剰な供給を抑えるためにVREの出力を抑制せざるを得ないケースもたびたび出ています。

政府は第6次エネルギー基本計画で、2030年までに総発電量に占める再生可能エネルギーの割合を36〜38%に引き上げることを掲げています。2022年3月現在の22%(国際エネルギー機関(IEA)調べ)から大幅な引き上げとなり、将来、需給バランスを取ることがますます困難になると予想されています。

キャンパスのスマートハウスで開発されたIoT-HUB

馬場特任准教授らは、供給側に加え需要側も需給バランスを調整できる電力システムの構築を目指しています。その鍵になると期待しているのが、IoT-HUBです。様々な通信プロトコルが混在するEV充電器などと、バッテリーの充電をコントロールするアプリを、プロトコルフリーで迅速に接続する仕組みです。これによって、例えば各電力会社が提供する電力需給バランス予測「でんき予報」や、EVのバッテリー残量データをもとに、アプリを使って、電力余剰が予測される場合はEVのバッテリーを充電することができます。逆に、電力需給のひっ迫が予測される場合は充電の速度を遅めたり、停止することができます。

IoT-HUBの特長は、「異なる通信プロトコル毎にその翻訳を担うドライバー(ソフトの一種)」を装着することで、製造者が異なり、通信プロトコルがまちまちのデバイス同士の接続を容易にすることです。様々なメーカーのプリンターとパソコンをつなげるプリンタードライバーのようなイメージです。同システムは、EVの充電器のほか、ヒートポンプ給湯器、エアコンなどの家電、蓄電池などの接続にも適用でき、これらの電力消費の制御を円滑化することが可能です。ちなみに、本インタビューは、本所に設置されている実証実験スマートハウス「Comfort Management (COMMA)ハウス」で行われました。EVの充電設備や家電、蓄電池を備えた同施設での研究がIoT-HUBの開発につながっています。

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COMMAハウス

キャンパスに研究用EV充電テストベッドを構築

馬場特任准教授と今中特任助教は最近、東大駒場リサーチキャンパスにEV充電テストベッドを設置。煩雑とも言われるEV充電の仕組みの課題解決に取り組み、EVの普及拡大に寄与したいと考えています。EVが普及すると、現在、火力発電が担っている電力需給の調整役を補完できるからです。

IEAによると、EVとプラグインハイブリッド自動車とを合わせた2021年の新車販売台数は、日本の新車販売総台数の1%でしかなく、その比率がいずれも15%を占める中国や欧州連合の平均を大きく下回っています。また、ヨーロッパにはノルウェー(86%)、アイスランド(72%)、スェーデン(43%)など、エコカーの普及率が抜きん出ている国々があります。

馬場特任准教授ら研究チームは、テストベッドを利用してユーザー目線の仕組みを研究しています。以下はその一部です。
 1)パブリックな充電サービスを受ける際に必要な個人認証システムの簡略化
 2)太陽光の発電量が多い昼間に充電を促す取り組み
 3)自宅以外でパブリックな充電サービスを受けた場合に、その料金を家庭の電気料金と合算して支払うシステム

また、EVの充電ステーション拡充は待ったなしの課題です。2022年3月現在で、充電ステーション数は全国で21,198か所にとどまります(一般社団法人次世代自動車振興センター調べ)。

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EV充電テストベッド

再生可能エネルギー比率向上へ備える

さらに、EVが真の意味でエコカーになるには、再生可能エネルギーの使用が不可欠です。IEAによると、再生可能エネルギーは日本の電力の22%を占めており、インドや米国(ともに21%)と同レベルの比率です。しかし、スウェーデン(80%)、ブラジル(75%)、カナダ(74%)は総発電量の50%以上を水力発電から得ており、それらの国々と比べると、再生可能エネルギー比率はかなり低いのが現状です。

今中特任助教は、「再生可能エネルギーの比率が40〜60%になれば、EVの充電はほぼ再生可能エネルギーで賄えるのでは」と語ります。馬場特任准教授も、日本の総発電量を1割増やせば、全ての乗用車タイプのEVに必要な電力を供給できるという、ある試算を踏まえた上で、EV用に再生可能エネルギーを確保することは可能だと考えられると、追加説明してくれました。

馬場特任准教授は、EVの普及は、究極的にはガソリン車と比べてどれだけ魅力的な乗り物になれるかにかかっていると言います。「まず、EVが自動運転になることが重要です。そうなれば、様々な企業が多数の運転アプリを開発するような時代が到来し、EVはガソリン車とは全く違った乗り物になります」

馬場特任准教授は、本所が2022年に設置した「需要側電力システム研究会」の代表世話人を務めています。同研究会設置の目的は、 IoT-HUBを利用した需要側の電力システムを社会実装することで、研究会には他校の研究者や民間からも参加しています。「運よく、アカデミアや民間にネットワークを構築してきました。その中の多くの人たちが、私のプロジェクトに参加してくれました」と、民間で培った人脈が現在に生きていると結んでくれました。

(記事執筆:(株)J-Proze 森 由美子)

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