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【共同発表】日本初!「食べられる培養肉」 の作製に成功 肉本来の味や食感を持つ 「培養ステーキ肉」 の実用化に向けて前進(発表主体:大学院情報理工学系研究科)

東京大学 (総長:藤井輝夫 以下「東京大学」) 大学院情報理工学系研究科の竹内 昌治教授 (東京大学 生産技術研究所 特任教授 [学内クロス・アポイントメント]) の研究グループ※1と日清食品ホールディングス株式会社 (社長・CEO:安藤 宏基、以下 日清食品HD) は、「培養ステーキ肉」の実用化を目指した研究を2017年度から共同で進めています。このたび、「食べられる培養肉」の作製に日本で初めて※2成功しました。これにより、肉本来の味や食感を持つ「培養ステーキ肉」の実用化に向けて大きく前進しました。

■研究の背景、目的
世界的な人口増加やライフスタイルの変化により、将来、地球規模で食肉消費量の増加が見込まれています。一方で、畜肉の生産が地球環境に与える負荷や、家畜を育てるための飼料や土地の不足も大きな問題※3となっています。
「培養肉」とは、畜肉の細胞を体外で組織培養することによって得られた肉のことで、家畜を飼育するのと比べて地球環境に与える負荷が低いほか、畜産のように広い土地を必要とせず、さらには厳密な衛生管理が可能※4になるなど、さまざまな利点があることから、食肉の新たな選択肢の一つとして期待されています。
竹内教授と日清食品HDの研究グループは、2019年に世界で初めて牛肉由来の筋細胞を用いたサイコロステーキ状 (1㎝×0.8㎝×0.7㎝) の大型立体筋組織の作製に成功しました。現在は、肉本来の味や食感を持つ「培養ステーキ肉」の実現に向け、立体筋組織のさらなるサイズアップ※5や、おいしさと低コストを両立する大量生産技術の確立を目指して研究を進めています。

■研究成果
「食べられる培養肉」の作製には「食用可能な素材のみを使用すること」「研究過程において食べられる制度を整えること」の2つの大きな課題がありました。これまでの「培養肉」は、牛肉由来の筋細胞と食用ではない研究用素材で作製していましたが、今回、竹内教授と日清食品HDの研究グループは、独自に開発した「食用血清」と「食用血漿ゲル」(いずれも特許出願中) を使用することで、食用可能な素材のみで「培養肉」を作製できるようになりました。この研究成果は「第21回 日本再生医療学会総会」において2022年3月17日(木)に発表しました。
また、東京大学の倫理審査専門委員会はこの成果をもとに日清食品HDが「食の安全」に関する知見を生かして構築した「培養肉」を食べるまでのプロセスについて、承認しました。こうして、「素材」と「制度」という2つの課題をクリアしたことで、産学連携の「培養肉」研究において日本で初めて「食べられる培養肉」を作製し、3月29日(火)には研究関係者による試食を行いました。
従来の機器を使った分析に加え、人による官能評価が可能になったことで、味、香り、食感など
の"おいしさ"に関する研究開発が大きく進展し、肉本来の味や食感を持つ「培養ステーキ肉」の実用化に一歩近づきました。

■「食用血清」および「食用血漿ゲル」について
「培養肉」を作製するためには、一般的に「細胞」「栄養成分」「足場材料」が必要です。竹内教授と日清食品HDの研究グループが独自に開発した「食用血清」は、細胞を育てるために必要な栄養成分である「培養液」の素材として使用します。また、同じく独自開発した「食用血漿ゲル」は、立体筋組織 (培養ステーキ肉) を作製するために必要な細胞の足場材料となる素材です。
既存の食用素材だけでは十分な栄養成分の供給や立体筋組織の構築が困難でしたが、今回開発した「食用血清」と「食用血漿ゲル」を使用することで、細胞の生育に適した条件で培養することが可能になりました。

■日本初の「食べられる培養肉」※食用色素で着色
食べられる培養肉-2.png
(画像提供:東京大学)

※1 2018年度に国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST) の「未来社会創造事業 (探索加速型)」に採択された「3次元組織工学による次世代食肉生産技術の創出」(研究開発代表者:竹内 昌治) の研究グループ。2020年度には本格研究課題への移行が決定した。
※2 産学連携の「培養肉」研究において日本初。
※3 畜肉の生産は、穀物の生産に比べて多くの水や飼料を必要とし、温室効果ガスの排出量も多い。
※4 無菌状態での培養が可能なため、病原性大腸菌などの有害菌による汚染のリスクがない。
※5 2025年3月までに厚さ2㎝×幅7㎝×奥行7㎝の大型立体筋組織の作製を目指す。

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