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地図上で各地域のさまざまな特徴が一目でわかる『強レジリエント化に向けた都市CPS(β版)』を公開

○発表者:
関本 義秀(東京大学 生産技術研究所 特任教授/デジタル空間社会連携研究機構 機構長/空間情報科学研究センター 教授)

○発表のポイント:
◆災害に備えるための都市の強靭化(強レジリエント化)には、建物構造物の耐震性能評価・可視化を行うサイバーフィジカルシステム(CPS)の開発が求められている。
◆建物の耐震性評価を行うために必要な、スケールの異なるデータの標準化仕様の設計、数値シミュレーション、地図上に可視化までを1つのシステム上で行えるようにした。オープンデータによるCPSの促進が期待できる。
◆防災などの施策の合意形成を社会全体で分かりやすく正しく進めていくために、参考となる情報を分かりやすく地図上に可視化し、発信していく。

○研究内容:
 東京大学 生産技術研究所の関本 義秀 特任教授、野城 智也 教授、腰原 幹雄 教授が主導し、同大先端科学技術研究センター、国立研究開発法人 防災科学技術研究所、国立研究開発法人 理化学研究所が参画する研究グループは、プロジェクトサイト「強レジリエント化に向けた都市CPS(β版)」(https://city-cps.net/)を公開しました。都市の強レジリエント化(注1)を目的として、スケールの異なるデータ(建物データやBIMデータ(注2)など)を都市モデルとしてシミュレーションモデルに入力し、建物構造物の耐震性評価を行うために、データの標準化仕様を設計しました。また各種データのシミュレーション結果を分かりやすく地図上に可視化し発信するための都市CPS(Cyber physical system、注3)を開発しました。今回は第一弾として、2016年の熊本地震で多くの建物が被災した熊本県上益城郡にある益城町に焦点を当て、地図上で、建物単位や部材単位など異種のシミュレーション結果を比較できるようにしました。この都市CPSを活用することで、将来的には、都市の強レジリエント化に向けた防災などの施策の合意形成を社会全体で分かりやすく正しく進める活動が促進されると期待されます。
 本研究は東京大学が防災科学技術研究所から受けた委託研究「観測データに基づくデータ解析および数値シミュレーションによる実構造物群の耐震性能評価システムの調査研究(代表:関本 義秀 特任教授、2019~2022年度)」によるものです。

※12月8日(水)午前9時より、空間情報科学研究センター主催でオンライン公開シンポジウム「デジタル空間社会における建物データの進展と今後」を開催します。事前申し込みは不要です。下記サイトからぜひご覧ください。
https://dss.csis.u-tokyo.ac.jp/event/20211208/

○今後の展開:
 一足飛びに広域に建物の詳細データを都市モデルとして整備していくことは、費用の点からも現実的ではないため、持続的にデータの蓄積が促進されるように、データの詳細化のレベルに応じた使い方ができるようにデータの標準化仕様を構築する必要があります。また開発者が共通で確認できるWeb環境で実際の建物のBIMデータを用いて、透明性を保ちながら実証的に整備を進めていく事が重要です。更には、さまざまな立場の主体がデータを持ち寄り、蓄積し、共有し、利用しやすくなることも重要になります。そのためには、データの種類や仕様の違いを考慮し、持続的にデータが蓄積されるために原因となるさまざまなデータ仕様の差異を明らかにし、変換方法と合わせて、スケールに応じた構造物データの標準化仕様のデータ設計を行うことが大切です。
 一方で、現状の都市空間においてはさまざまな主体による地震計観測網が存在するほか、個別の建物ごとの地震計も設置されており、昨今のIoT技術の向上によりこれらの情報を連携・集約し、より広域・高密度な観測網を形成することが期待されています。これらのさまざまなセンサー情報についてデータ形式を比較し、用途との突き合せや限界性能、コストを整理するとともに、実際の運用を念頭に置いて計測を行い、異種の加速度計から出力されたデータを連携・集約させるデータアグリゲーションを実現することを目指します。また、IoT技術による連携という観点では、地震計だけではなく、IoTセンサーやスマートフォンといった私たちの身の周りにある加速度センサーにも注目し、より多様なセンシング手法の連携も積極的に検討します。
 また都市CPSを用いた合意形成においては、本システムは、可視化されたデジタルシティ・プラットフォームを誰がどのように使用・活用するかを明らかにする出口戦略に位置づけられます。事前都市防災やクライシスマネジメント(発災後の応急対応)、リスクコミュニケーションに資する主体間の合意形成プロセス、合意形成手法、並びに合計形成構造についても、研究を進めていきます。
 今後、強レジリエント化に向けた都市CPSでは、地方公共団体、事業者、個人などさまざまな主体がそれぞれの状況にあった合意形成に取り組めるように、各種機関と連携して耐震性能評価可能なシステムの構築を行い、可視化環境を整備し、合意形成に役立つ情報を発信していきます。「データ標準化班(代表:生産技術研究所・関本 義秀 特任教授)」「建物IoT班(代表:生産技術研究所・野城 智也 教授)」「建物振動シミュレーション班(代表:生産技術研究所・腰原 幹雄 教授)」「合意形成班(代表:先端科学技術研究センター・小泉 秀樹 教授)」「WebGIS班(代表:関本 義秀特任教授)」の連携を軸に、具体を進めていく予定です。

○問い合わせ先:
東京大学 生産技術研究所 関本研究室
Tel:03-5452-6406
E-mail:dss-office(末尾に"@csis.u-tokyo.ac.jp"をつけてください)

○用語解説:
(注1)強レジリエント化
 災害による都市の被害をできる限り軽減し、被害拡大を防止し、迅速な復旧・復興を可能にすることを基本的な方針とする、「強くてしなやかな(強靭な)」都市づくりを進めていくこと。

(注2)BIMデータ
 BIMとは、Building Information Modeling(ビルディング インフォメーション モデリング)の略称で、コンピューター上に作成した3次元の建物のデジタルモデルに、コストや仕上げ、管理情報などの属性データを追加した建築物のデータを意味する。

(注3)CPS(Cyber physical system)
 CPSとは、実世界(フィジカル)におけるデータを収集し、サイバー空間で分析し、活用しやすい情報として可視化し、それをフィジカル側にフィードバックすることで、合意形成などを促進する仕組みのこと。

○添付資料:

図1『強レジリエント化に向けた都市CPS(β版)』の異種シミュレーション比較サイト(益城)。
地図上で建物単位の被害状況(右)やE-ディフェンスによる解析結果の動画(左下)が確認できるだけでなく、地震動マップ即時推定システム(産総研)などの各種シミュレーションデータとの比較も可能です。

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