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第9回 ESIシンポジウム「2050年のエネルギーと社会:課題解決の⽅向性」、第10回ESIシンポジウム「2050年のエネルギーと社会:選択肢の深掘り」

今回報告する二回のシンポジウムは、エネルギーシステムインテグレーション産学連携研究部門(ESI)の岩船 由美子 特任教授、荻本 和彦 特任教授が参加するエネルギー資源学会「2050年に向けた日本のエネルギー需給」研究委員会とESIの共同主催で行われた。

2020年度、ESIでは、先に本誌で紹介した第7回「交通の電動化への選択とエネルギーの融合を考える」に続き、第8回「再エネ時代の熱エネルギーを考える」、今回報告する第9回、第10回の4回全てがオンライン形式のシンポとなった。各回約200名余の参加を得て、コロナ禍ながらESIとして一定の発信が出来た。
http://www.esisyab.iis.u-tokyo.ac.jp/html/symposium.html

2020年12月10日(木)の第9回「2050年のエネルギーと社会:課題解決の方向性」では、エネルギー需給、電力需給、政策、社会シナリオの専門家による講演とパネルディスカッションにより、技術・経済社会・政治などの大きな不確実性のもとで様々なシナリオを多様な視点で分析することの重要性と、カーボンニュートラルに向けて必要となる一定の方向性が摘出されることが議論された。

すなわち、エネルギー起源の二酸化炭素(以下CO2)のゼロ排出の実現には、CO2を排出しないエネルギー源である再生可能エネルギーと原子力の利用が必用であり、その供給量の太宗を占める電力を最も効率的に使うためには電化の促進とそれによる省エネルギー、そしてゼロ排出の太陽光・風力・原子力により電力需給をほぼ賄う段階では、経済性と安定供給の向上のために新燃料が必用となる。新燃料は、国内の電力から製造あるいは海外からの輸入で供給される。ただし、産業を中心に化石燃料の使用はゼロに出来ないことから、排出されるCO2を回収・貯留するCCS Carbon dioxide Capture and Storage)、さらには回収貯蔵が困難な排出分に対してマイナス排出の技術が必要となる。このような電力・エネルギーの需給の規模や地域分布は、将来の社会・経済のあり方により変化する。

2021年2月4日(木)の第10回「2050年のエネルギーと社会:個別分野の深掘り」では、風力発電、新燃料、民生需要、運輸、鉄鋼と異なる個別の分野についての議論が行われた。この第10回シンポジウムは、同じ「2050年のエネルギーと社会」を議論した第9回の講演者・パネリストが第1回からのメッセージを伝え、各講演の後、第1回と第2回の講演者とパネリストとによるパネルディスカッションという構成で行われた。

この議論では、各講演により個別の分野の深掘りを行うとともに、分野横断おパネルディスカッションでは、個別分野の課題の深掘りに加え、これからの取り組みに関する分野共通の視点・考え方・実施への課題と解決の可能性が議論された。具体的には、社会のイノベーションのための新たな技術の導入普及においては、社会実装の技術・導入場所・タイミングの選択、導入が可能となる水準へのコスト低減や価値の向上が筆欧であり、導入普及への人材・組織の育成、資源確保、社会と人々の受容性、送配電網を含む流通インフラ、さらには国際分業/競争までを考慮する必要がある事が指摘された。

また、2020年12月から翌1月にかけての天然ガス不足と厳冬による電力需給の逼迫とJEPXのスポット市場の価格高騰の直後であることから、エネルギーの安定供給にも議論が及んだ。再生可能エネルギーの大量導入による不電力供給の変動性と不確実性の増加のもと、建物や電気自動車などの需要側技術の貢献を含め全てのリソースを活用したた「安定需給」の重要性が指摘された。また、エネルギーの範囲に留まらない議論としては、鉄鋼の材料特性の向上による生産量の低減の可能性から、「経済・社会のありたき姿」の議論が行われた。

2回の2050シンポジウムの議論では、カーボンニュートラルに向けて一定の方向性が見出されたが、多くの不確実性の下での長期の取り組みでは、それぞれの分野の課題とその解決の難しさを把握し、エネルギー全体としては、環境性と経済性に加え、安定性を維持の重要性が確認された。3回目の「2050年のエネルギーと社会」のシンポジウムでは、取り組みの難しさについて、4月以降開催する予定である。

(エネルギーシステムインテグレーション産学連携研究部門 特任教授 荻本 和彦)

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