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【記者発表】木の年輪が語る、もはや戻れない温暖化・乾燥化の兆候~アジア内陸部で熱波と干ばつが同時に激化~

○発表者:
金 炯俊(KIM Hyungjun)(東京大学 生産技術研究所 特任准教授)

○発表のポイント:
◆木の年輪分析とモデルシミュレーションを組み合わせ、260年にわたる東アジア内陸部の水文気候の変動を再現した。
◆熱波の発生頻度と土壌水分量を分析した結果、最近約20年間で熱波と干ばつが同時に劇化していることが分かった。
◆熱波と干ばつの同時発生現象は、地表面と大気との相互作用により深刻化しており、この傾向は不可逆的なものとなる可能性が高い。

○発表概要:
 東京大学 生産技術研究所の金 炯俊 特任准教授らの研究グループは、世界各地で近年頻発している猛暑や干ばつの傾向を長期間で分析するために、木の年輪(図1)とモデルシミュレーションを組み合わせ、東アジア内陸部で発生する熱波の頻度と土壌水分量の変動を260年という長期にわたって構築しなおした。その結果、最近20年間において、熱波の頻度が劇的に上がると同時に、土壌水分量が劇的に下がり、熱波と干ばつの同時発生が過去に例を見ないほど増加・強化していることが判明した(図2)。金特任准教授は対象地域における地表面と大気の相互作用が、この増加・強化の原因の1つであることを明らかにするとともに、熱波と干ばつの同時発生の傾向がすでに転換点を越え、不可逆的である可能性を示した。
 本研究は、干ばつ特異気象センター(韓国)、ヨーテボリ大学(スウェーデン)、ユタ州立大学(米国)、北京師範大学(中国)との国際共同研究で行われたものであり、2020年11月26日(木)午後2時(米国東部標準時間)に「Science」に掲載された。

○発表内容:
 金特任准教授らの研究グループは、モデルシミュレーションを用いた地球規模でのエネルギー・水循環に関する研究を行ってきた。特に長期間の気候変動が地表面に与える影響と地表面から大気へ与える影響に関して、多くの国際共同研究を推進してきた。本分野の課題として、20世紀より前の期間に関しては、長期間にわたる連続的な気象・水文観測データが存在しないという問題があった。
 本研究チームは新たに木の年輪のデータを活用し、過去260年間にわたる熱 波と土壌水分量の情報を再構築した。すると、東アジア内陸部では、高温で乾燥した気候への急激な変化が起きていることが明らかになった。土壌水分の不足が続いていることで、地表面の温暖化が進み、それに関連した高気圧性循環(注1)の偏差が強まり、土壌の乾燥をさらに悪化させる熱波が発生していることが示唆された。最近20年間に複合的に発生した温暖化と乾燥の偏差の大きさは、過去に前例がなく、明らかに自然変動の範囲を越えていることを発見した。またこうした近年の変化が地表面と大気の相互作用でより深刻化しているフィードバックメカニズムを明らかにした。本研究の結果は、東アジアの気候システムがその転換点を超えて、温暖化と乾燥の同時発生が不可逆的になる可能性があることを警告している。

○発表雑誌:
雑誌名:「Science」(オンライン版:米国東部標準時間11月26日(木)掲載)
論文タイトル:Abrupt shift to hotter and drier climate over inner East Asia beyond the tipping point
著者:Peng Zhang, Jee-Hoon Jeong, Jin-Ho Yoon, Hyungjun Kim, S.-Y. Simon Wang, Hans W. Linderholm, Keyan Fang, Xiuchen Wu, Deliang Chen
DOI番号:10.1126/science.abb3368

○問い合わせ先:
東京大学 生産技術研究所
特任准教授 金 炯俊(きむ ひょんじゅん)
E-mail:hjkim(末尾に"@iis.u-tokyo.ac.jp"をつけてください)

○用語解説: 
注1)高気圧性循環
 高気圧から吹き出す風の大規模な循環場。北半球では高気圧から時計回りに風が吹き出す。

○研究助成: 
 本研究は、日本学術振興会特別推進研究「グローバル水文学の新展開」(16H06291)、日本学術振興会国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))「衛星観測を活用したデータ駆動型の水文季節予報手法の開発」(18KK0117)により実施しました。

○添付資料: 

図1 木の年輪サンプルの例。気温変化に敏感な木と湿度変化に敏感な木をそれぞれ用い、木の成長の速度を表す各年輪の幅から熱波の頻度と土壌水分量の変動を再現した。


図2 熱波の発生頻度(黒)と土壌水分量(青)の長期変動。最近の20年間で温暖化と乾燥化が進んでいることが、背景色から分かる。


図3 (左図)ヨーロッパ大気再解析データ(ERA5)で調べた、地表面―大気相互作用強度の変化(1979-1998から2000-2017)の空間分布。赤が濃いほど、相互作用が近年強まっていることを示す。(右図)地表面―大気相互作用強度(灰色)を、熱波の発生頻度(赤色)および土壌水分量(青色、右軸は上向きが減少)と並べた時間変化。相互作用強度が、熱波の発生頻度と土壌水分量の低下と強く関連していることが分かる。

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