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藤森 照信 名誉教授が日本芸術院賞を受賞

 本学名誉教授の藤森照信先生が、2019年度日本芸術院賞に選ばれました。本賞は、日本において卓越した芸術作品を制作し、芸術の進歩に貢献した方に贈られます。この度、藤森先生設計で2015年に竣工した≪ラ コリーナ近江八幡 草屋根≫が卓越した芸術作品として認められました。
 藤森先生は、生研在籍中の40代半ば、建築界のエポックメーキングとなる2つの大きなお仕事をされました。ひとつは、それまでの研究の集大成となる『日本の近代建築 上下』(岩波新書、1993)の出版。もう一つが、建築家としてのデビューです。
 建築史家と建築家の二足の草鞋は、存外履きこなすのが難しく、それ以前でいえば≪築地本願寺≫の設計者・伊東忠太がいる程度。しかし、藤森先生は難なくそれを履きこなし、以来、颯爽と建築界を駆け抜けていかれました。
 処女作の≪神長官守矢史料館≫(1991)にはじまり、今回の受賞作品に至るまで、一貫するコンセプトは「科学技術を自然素材で包む」こと。鉄やコンクリートは裏方に回り、木・石・土、植物など、近代が脇に追いやった素材で建築を仕上げます。しかもその仕上げには、施主から学生までさまざまな素人が参加するので、現場は素人と玄人のごった煮状態。私も昔は現場に参加して、土壁を塗ったり、板を打ち付けたりしながら、数パーセントは自分の作品という気持ちになったのを思い出します。
 建築は本来、身近な人々の手が介在してできる集合的な手仕事でした。しかし、長い人類史のなかで、建築は私たちの手から徐々に遠くなっていった感があります。その建築を、作品をとおして、そしてもう一足の歴史をとおして、藤森先生は再び身近なところに引き戻してくれたように思います。
 私が二足の草鞋を履くかどうかは別として、現代の基盤となる近代を丹念に見つめ、かと思うと石器時代にまで遡るとんでもないスケール感で建築を語る、そうした藤森先生の歴史への姿勢は、アジアの建築を見つめる私にとって大切な指針になっています。どう草鞋を履こうとも、建築の固定観念を揺さぶる人でありたい。朗報に接して改めてそう思いました。
 藤森先生、この度は受賞まことにおめでとうございます。

(人間・社会系部門 准教授 林 憲吾)

ラ コリーナ近江八幡 草屋根

藤森名誉教授のコメント

 建築という領分は他の工学と違い、技術、芸術、文化、思想、歴史といった幅広い分野を一つに集めて初めて成り立ちます。
 このバケツのごとき領分をやるのに、生研の自由で幅の広い学風はまことにふさわしく、また"何をやっているのかが分かること"を旨とする生研の教官評価方法にも大いに助けられました。
 まず建築史研究、途中より建築設計へと手を広げることができたのは、生研のおかげというしかありません。有難うございます。


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