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榊 裕之 名誉教授が日本学士院会員に選定

令和元年12月12日 (木) 、東京大学 生産技術研究所の榊 裕之 名誉教授が日本学士院会員に選定されました。

○専攻学科目:半導体電子工学

〇主要な学術上の業績:
 1960年代後半から電子の量子的閉じ込め効果(注1)の解明と活用に関する先駆的研究を進め、半導体ナノ薄膜(注2)を用いた高性能FET(注3)や光素子の学術的基礎の確立と発展に大きく貢献しました。また、1970年代半ば以降、ナノ薄膜中に格子状や碁盤目状などの人工障壁を導入することで、膜中の電子の運動を量子的に制御したり、閉じ込める量子細線・量子ドット(注4)などを世に先駆けて着想し、量子細線FET(注5)、量子ドットレーザー(注6)、量子ドット光検出器(注7)などを発明しました。そしてナノエレクトロニクスとナノフォトニクス(注8)の研究を先導し、固体物理学と電子工学の新領域を開いて、世界的に若手研究者の育成と学術の推進に大きく貢献しました。

○榊 裕之 名誉教授コメント:
 この度、福澤諭吉らが1879年に創設して以来、我国の学術界を代表する役割を果たしてきた日本学士院の会員に推挙され、身の引締まる思いにあります。この栄誉が授けられたのも、研究推進に不可欠なご尽力を頂いた恩師・研究仲間・支援者の方々のお蔭であり、心からの御礼を申しあげます。今後、新たな立場を活かし、我国固有の学術文化の土壌を守り育てるとともに、21世紀の世界が求める技術と知恵の創造のために微力を尽くす所存です。

○用語解説:
注1)量子的閉じ込め効果
 電子は、10ナノメートル(nm)かそれ以下の空間に閉じ込めると、粒子的運動が禁じられ、特定の周波数で振動する量子的な波として振る舞う。これを量子閉じ込めという。

注2)ナノ薄膜
 厚さが1nmから10nm程度の薄膜状物質をナノ薄膜という。膜内の電子は、膜に沿っては粒子的な運動を行うが、垂直方向には量子的な波として振る舞う。

注3)FET:電界効果(Field-Effect)トランジスタ
 FETは、半導体--絶縁膜--金属膜からなり、金属と半導体間に加える電界の大小で、半導体側に貯まる電子数を増減させ、半導体表面に沿う電導度を制御する素子である。

注4)量子細線・量子ドット
 断面寸法が10nm級の半導体細線を量子細線と呼び、同様の寸法の半導体粒子を量子ドットと呼ぶ。その内部では、電子の運動の自由度は、1次元かゼロ次元に低下する。

注5)量子細線FET
 断面寸法が10nm級の極細半導体を電気伝導層に用いた電界効果トランジスタ(FET)。細線内の電子が1次元伝導性を示すことや高密度集積化に適する特徴などを持つ。

注6)量子ドットレーザー
 半導体レーザーの一種で、光を発生させる層(活性層)の中に断面寸法が10nm級の半導体の微粒子(量子ドット)を埋め込んだもの。種々の素子特性が改善される。

注7)量子ドット光検出器
 断面寸法が10nm級の半導体の微粒子(量子ドット)を埋め込んだ光検出素子。入射光の作用でドット内の電子や正孔の数を増減させ、その変化を電気的に検出する。

注8)ナノフォトニクス
 nm級の各種のナノ構造を用いて、光子の発生・制御・検出を行う科学・技術のこと。なお、フォトニクスは、光子(光の粒子的描像)を探索・活用する学問を意味する。

○日本学士院とは:
日本学士院

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