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【記者発表】世界の平均気温の上昇を1.5℃に抑えたときと2.0℃に抑えたときの影響を比較 ~パリ協定の目標達成で、洪水と渇水が続いて起こるリスクを大幅に低減~

○発表者:
東京大学 生産技術研究所 特任准教授 金 炯俊(KIM Hyungjun)
東京大学 生産技術研究所 博士研究員 内海 信幸
東京大学 生産技術研究所 教授 沖 大幹
国立環境研究所 地球環境研究センター 室長 塩竈 秀夫

○発表のポイント:
◆2015年にパリ協定が結ばれ、世界の平均気温上昇の目標(1.5℃と2.0℃)が設定された。現在、両目標間の影響の違いを示す科学的根拠が求められている。
◆湿潤・乾燥間の変動の激しさを表す「水文気候的強度」という指標を定義し、1.5℃および2.0℃上昇シナリオの下で評価した。その結果、1.5℃から2.0℃へと温暖化が進むことにより、世界の多くの地域で変動が激しくなることが予測された。
◆気温上昇を1.5℃に抑えることで、洪水と渇水が続いて発生するような災害リスクを大幅に減らすことができることを示唆している。

○発表概要:
 東京大学 生産技術研究所の金 炯俊 特任准教授らの研究グループは、地球温暖化による世界の平均気温上昇を1.5℃に抑えることによって、2.0℃上昇の場合と比較して、洪水と渇水が続いて発生するような災害のリスクを大幅に減らすことができるとする研究結果を発表した。
 本研究では、連続して発生する降水期間と無降水期間の強度および長さで水文気候的強度(注1)を定義し、将来の温暖化シナリオの下での変化を調べた。気候変動数値実験プロジェクト(HAPPIプロジェクト、注2)による大規模アンサンブル実験(注3)の結果、1.5℃上昇時から2.0℃上昇時への0.5℃の温暖化が進むことにより、水文気候的強度は世界的に大きく強化され、湿潤・乾燥間で激しく変動することが予測された。さらに、発生確率が1/100より低い極端な湿潤・乾燥現象の強度は平均的な現象の強度と比較し、その変化が10倍程度大きい可能性が予測された。本知見は、気温上昇を1.5℃に抑えることによって、洪水および渇水のリスクを大幅に減らすことができることを示している。
 本研究成果は2019年3月5日午前10時(イギリス時間)に「Scientific Reports」(オンライン版)に掲載された。

○発表内容:
<研究背景>
 地球温暖化は、地球の水循環の変化をもたらす。水循環の変化は降水の強度や頻度の変化といった多様な形で表れる。最近、洪水と渇水が連続して起こる現象が世界で頻繁に発生しており、地球の水循環が大きく変化してきている。
 地球温暖化の抑制に向けて、2015年のパリ協定において、世界の平均気温上昇を産業革命以前と比較して2.0℃を大幅に下回るように保つこと、さらに1.5℃以下に抑えるよう努力することが合意された。しかし、1.5℃や2.0℃といった気温目標を達成することで、地球の水循環、特に洪水と渇水が連続して発生する現象にどのような影響が生じるかについては、これまでに検討されていなかった。

<研究内容>
 本研究は連続して発生する降水期間と無降水期間の強度および長さで水文気候的強度を定義し、将来の温暖化シナリオの下での変化を調べた。定義された水文気候的強度は、湿潤・乾燥間の変動の激しさを表しており、数値が高いほど、変動が激しいことを示す。気候変動数値実験プロジェクトによる大規模アンサンブル実験の結果、全球平均気温1.5℃上昇時から2.0℃上昇時へと0.5℃の温暖化が進むことにより、水文気候的強度は世界的に大きく強化され、湿潤・乾燥間の変動が激しくなることが予測された。
 具体的には、北米大陸とユーラシアの高緯度地域では、主に降水期間が長びくことにより、この変化が生じ、北米東部および西部では、無降水期間にはほとんど影響がみられないが、降水期間がより激しくなる可能性がある。一方、地中海地域では、降水期間には大きな変化は見られないが、無降水期間が長引くことが、湿潤・乾燥間の変動の増加につながる。さらに、極端な水文気候現象の強度は平均的な現象の強度と比較し、その強化が10倍程度大きい可能性が予測された(図1)。

<今後の展開>
 本研究結果は、カリフォルニアで近年発生した極度の干ばつから激しい洪水への転換や、日本での2018年の洪水とそれに続いた熱波のような、極端な湿潤と乾燥の変動が将来起こりやすくなる可能性を示唆している。防災と水の安全保障の観点から、より激しい湿潤・乾燥の変動に人間社会がさらされる可能性を軽減するためにも、地球温暖化を1.5℃に制限することには大きな意義があると言える。

○発表雑誌:
雑誌名 :「Scientific Reports」
論文タイトル :Event-to-event intensification of the hydrologic cycle from 1.5°C to a 2°C warmer world
著者 : Gavin D. Madakumbura, Hyungjun Kim*, Nobuyuki Utsumi, Hideo Shiogama, Erich M. Fischer, Øyvind Seland, John F. Scinocca, Daniel M. Mitchell, Yukiko Hirabayashi, and Taikan Oki(*:責任著者)
DOI番号 :10.1038/s41598-019-39936-2

○問い合わせ先:
東京大学 生産技術研究所
特任准教授 金 炯俊(きむ ひょんじゅん)
Tel:03-5452-6382

○用語解説:
注1)水文気候的強度:
 続いて発生する降水期間と無降水期間の変動の激しさを表す指標。本研究において提案した。

注2)気候変動数値実験プロジェクト(HAPPIプロジェクト):
 全球平均気温1.5℃上昇時と2.0℃上昇時の影響の差を評価するために行われた、複数の全球気候モデルによる気候変動シミュレーション実験。

注3)大規模アンサンブル実験:
 数値モデルを用いた予測シミュレーションの結果にはさまざまな要因による予測不確実性が含まれている。予測不確実性を統計的に考慮するためには、複数の実験が必要である。その実験数が膨大な規模であるものを大規模アンサンブル実験と呼ぶ。

○添付資料:

図1(上)極端現象に関する水文気候的強度の差(2.0上昇時-1.5℃上昇時)。正の値は強化(湿潤・乾燥間の変動が激しくなる)、負の値は弱化を示す。世界全体で2.0℃上昇時のほうが強度が増す(赤色)傾向にある。(下)主要な地域における極端現象に関する水文気候的強度の頻度分布。2.0℃上昇時(赤色)は1.5℃上昇時(青色)に比べ、ピークが右(強度が高い)にシフトし、湿潤・乾燥の変動が激しくなる頻度が高まることを示している。横軸は水文気候的強度の変化。縦軸は確率密度。

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