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【記者会見】ミャンマー連邦共和国ミャウンミャ橋崩落の現地調査と類似橋梁の安全確認調査の報告

○発表者
長井 宏平(東京大学 生産技術研究所 都市基盤安全工学国際研究センター 准教授)
松本 浩嗣(東京大学 生産技術研究所 都市基盤安全工学国際研究センター 特任講師)

○発表のポイント
◆2018年4月1日にミャンマー連邦共和国で、吊橋であるミャウンミャ橋が崩落し、2名が死亡した。原因はメインケーブルの維持管理不足による破断と考えられる。
◆東京大学 生産技術研究所 長井 宏平らの研究チームは、関係日本企業とミャンマー建設省と合同で、現地調査と、ミャンマー内の複数の類似橋梁の安全確認調査を実施した。
◆今後、調査結果はミャンマー建設省に提出され、対策や維持管理の計画に使われる。また、日本の老朽化した社会基盤施設の維持管理に役立つと期待される。

○発表概要
2018年4月1日にミャンマー連邦共和国で、吊橋であるミャウンミャ橋(Myaungmya橋)が落ち、2名が死亡した。原因は、吊橋のメインケーブルが充分に維持管理されておらず、橋を地面に固定する地中のコンクリートアンカー部で激しく腐食し、破断したためであると考えられる。吊橋のメインケーブルが維持管理不足のために腐食で破断し、橋梁全体が崩落した事例は、ワイヤを用いた近代的な吊橋建設以降の130年では例がない。

東京大学 生産技術研究所 長井宏平らの研究チームは、落橋直後に現地調査を行い、落橋の原因の把握を行った。また、ミャンマー建設省の依頼を受け、同形式の3つの吊橋の安全確認の調査を、ミャンマーに関係する日本企業とともに行った。

さらに、ミャンマー建設省からの依頼にもとづき、ミャウンミャ橋を含む合計8橋の吊橋と斜張橋の調査を実施した(図1)。その結果、複数の橋梁で、主に維持管理にかかわる改善すべき点が確認された。

調査結果は6月末をめどにミャンマー建設省に提出する予定で、これをもとに必要な対策と今後の維持管理の方針が決まる予定である。

本研究チームは今後もミャンマー建設省と共同で、変状の生じている橋梁のモニタリングや数値解析を通した研究を継続する予定である。調査結果および日本の維持管理と補修・補強の技術や制度が、今回の事故調査と対応にかかわる活動をとおして、ミャンマーに効果的に移転されると期待される。また、調査結果が、日本の老朽化した橋や社会基盤施設の維持管理にいかされると期待される。

○発表内容
2018年4月1日にミャンマー連邦共和国で吊橋であるミャウンミャ橋が落ち、2名が死亡した。ミャウンミャ橋は中国企業により設計、ミャンマー建設省により建設され、1996年から供用されていた。落橋の原因は、維持管理の不足により吊橋のメインケーブルがコンクリートアンカー部にて激しく腐食し、破断したためであると考えられる(図2)。吊橋のメインケーブルが維持管理不足のために腐食で破断し、橋梁全体が崩落した事例は、ワイヤを用いた近代的な吊橋建設以降の130年では例が無い。

本研究チームは、落橋直後(4月5日~7日)に、現地調査を行い落橋の原因を把握するとともに、ミャンマー建設省の依頼にもとづき、同形式である吊橋3橋の安全確認のための調査を、ミャンマーに関係している日本企業(I&H Engineering Co., Ltd、(株)IHIインフラシステム、(株)エイト日本技術開発)とヤンゴン工科大学とともに行った。その結果、ケーブル全体の腐食は少なく、コンクリートアンカー部付近のみに激しい腐食が確認された。この個所は道路面より下にあるため目視による確認が難しい上、ケーブルにカバーされているために外部から腐食状況が確認できなかった。そのため、劣化したケーブルカバーの隙間などから侵入した水が末端にあるアンカー部に溜まり、長年にわたりケーブルの腐食が進行していたことが気づかれず、今回のケーブル破断と落橋に至ったと考えられる。

この調査結果は、4月10日に現地視察を行ったアウン・サン・スー・チー国家最高顧問に報告され、あらためてミャンマー内の類似橋梁の安全確認を信頼できる第三者により行うこととの指示が出された。

ミャンマー建設省からの依頼を受けた本研究チームは、ミャンマーに関係する日本企業(首都高速道路(株)、(一財)首都高速道路技術センター、首都高技術(株)、(株)IHIインフラシステム、I&H Engineering Co., Ltd、CTI Myanmar Co., Ltd.)と京都大学、ヤンゴン工科大学、そしてミャンマー建設省とともに、5月8日~12日まで、ミャウンミャ橋の再調査を含む合計8橋の吊橋と斜張橋の調査を実施した。また、調査依頼のあった橋梁のうち他4橋の吊橋については、別の日本企業チーム(東日本高速道路(株)、西日本高速道路(株)、JFEエンジニアリング(株)、J&M Steel Solutions Co., Ltd.、セントラルコンサルタント(株)、大日本コンサルタント(株)、(株)建設技研インターナショナル、(株)オリエンタルコンサルタンツグローバル)がミャンマー建設省とともに調査を実施している。

本研究チームにおける調査では、吊橋や斜張橋においてケーブルの変状と定着機能を確認した。メインケーブルの腐食が疑われる箇所では、ケーブルカバーを外し、内部の腐食状況を確認した。なお、今回の調査対象の橋梁のうちトンテイ橋(Twantay橋)とパテイン橋(Pathein橋)については、本研究チームが長岡技術科学大学、北海道大学と共同でこれまで行ってきた約3年間の調査の中で、主塔の傾斜やケーブルの腐食などが確認されており、変状のモニタリングや3Dレーザースキャナーによる形状計測、振動計測によるケーブル張力推定、構造解析による安全性確認などを実施してきた。今回の調査では、複数の橋梁で、主に維持管理にかかわる改善すべき点が多く確認された。例えば、支承の腐食、ケーブル接続部の破損やケーブル定着部での帯水である(図3)。

調査結果を6月末を目途にまとめ、ミャンマー建設省に提出し、これをもとにミャンマー建設省では今後の対策と、維持管理の方針を出す予定である。今後も本研究チームは、変状が生じている橋梁のモニタリングや数値解析を通した研究と、それに基づく維持管理をミャンマー建設省と共同で行っていく。具体的には、吊橋などの特殊橋梁の定期点検の制度化、点検手法の確立、日本が持つ損傷後の性能評価技術などの提案をしていく予定である。

日本では、橋梁に代表される社会基盤施設(インフラ)の老朽化が問題となっている。地方自治体では吊橋などの特殊橋梁を適切に管理できずに、崩落に至らずともケーブルの破断などにつながる重大な事故も報告されている(例えば2012年には、天竜川にかけられていた原田橋のメインケーブルの不具合が見つかり、全面交通止めとなった)。国土交通省の道路統計年報2017によると、使用されている吊橋440橋のうち379橋が市町村道にある。落橋に至る原因やプロセスの分析は、日本にとっても欠かせない情報となる。

インフラの老朽化については、内閣府が進めるSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」(内閣府SIPインフラ)などでも、インフラ維持管理に関する技術開発や制度の実装が進められている。本研究チームは、この内閣府SIPインフラにて国際展開を担当している。

今回の事故調査とその対応にかかわる活動をとおして、調査結果および日本の維持管理と補修・補強の技術や制度が、ミャンマーに効果的に移転されること、そして、将来の日本の橋梁の維持管理に役立つことを期待している。

○問い合わせ先
東京大学 生産技術研究所
准教授 長井 宏平(ながい こうへい)
Tel:03-5452-6655
研究室URL:http://www.nagai.iis.u-tokyo.ac.jp/

資料


図1 調査した橋梁の場所


図2 ミャウンミャ橋崩落後の写真


図3 類似橋梁の安全確認調査

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