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【記者発表】迷路状の孔の中で進む相分離を、新たなモデルで説明 ~ 石油の発掘など、多孔質構造利用分野への応用に期待 ~

○発表者
田中 肇(東京大学 生産技術研究所 教授)

○発表のポイント
◆多孔質構造と相分離をそれぞれ異なる秩序変数で記述する新しいモデルで解析した結果、迷路状の孔を「円柱状のパイプの組み合わせ」と捉える従来の理解は根本的に誤りであり、トポロジー的な特徴が相分離構造に与える影響が大きいことが明らかとなった。
◆本研究成果は、複雑な構造を持つ孔の中で、構造のトポロジー的な特徴や、混合系の成分と孔の壁との相性が相分離に与える影響について、新しい知見を提供するものである。
◆多孔質構造は、石油の発掘、イオン交換、触媒、診断用ゲルなどさまざまな分野に活用されており、多方面への応用が期待される。

○発表概要
東京大学 生産技術研究所の田中 肇 教授、清水 涼太郎 元特任研究員の研究グループは、多孔質中の迷路状に繋がりあった孔の中で、どのように相分離構造が形成されるかをシミュレーションにより分析した。その結果、新たに多孔質構造と相分離をそれぞれ異なる秩序変数(注1)で表し、それらの相互作用も取り入れたモデルを構築することに成功した。従来は、このようなネットワーク状の孔を「円柱状のパイプの組み合わせ」と捉え、円柱状パイプ中の相分離を基礎として理解する試みがなされてきた。しかし、新しいモデルを基礎にシミュレーションすることで、従来の常識が正しくなく、迷路状の孔構造のトポロジー(注2)を反映して、全く新しい機構で相分離が進行することが明らかとなった。本研究は、複雑な構造を持つ孔の中で、構造のトポロジー的な特徴や、混合系の成分と孔の壁との相性が相分離に与える影響について、新しい知見を提供する。多孔質構造は、イオン交換、触媒、診断用ゲルなど、大きな表面積が重要な分野はもちろんのこと、油層からの石油回収においても重要であり、応用上の意義も大きいと考えられる。
本成果は2017年12月22日(米国時間)に米科学誌「Science Advances」のオンライン速報版で公開された。

○発表内容
東京大学 生産技術研究所の田中 肇 教授、清水 涼太郎 特任研究員(研究当時)の研究グループは、多孔質物質のネットワーク状に繋がりあった複雑な孔の中で相分離が進行する際、どのように相分離構造が形成されるかについて研究を行った(図1)。これまで、複雑なトポロジーを持つ三次元多孔質構造と、複数の液体などが混在する混合系との相互作用を扱う適当なモデルが存在しなかったため、この分野の研究は、単純な空間構造をもつ境界の中での相分離の研究に限られてきた。研究グループは、複雑な多孔質構造と、相分離を表すために2つの秩序変数を導入し、壁と混合系の成分の相互作用をそれら2つの秩序変数の結合としてあらわすことで、この現象を記述しうる物理モデルを導入した。従来、多孔質中の相分離は、ネットワーク状の孔構造を円柱状のパイプの組み合わせと考えることで理解できると信じられてきたが、この常識は全く通用せず、孔の交叉の仕方に代表されるトポロジー的な特徴が、相分離構造に決定的な影響を与えることが明らかとなった。このようなトポロジーの影響は、実空間での構造解析により初めて明らかにできるもので、従来の光や中性子を用いた散乱実験による研究の限界も示された。多孔質の壁と、混合系の各成分との相互作用を制御することで、さまざまな相分離の最終構造を形成することが可能なことも示された。加えて、孔の連結性が確保された三次元多孔質と連結性のない二次元多孔質中の相分離には、決定的な相違が存在することも明らかにされた。多孔質構造は、表面積が極めて大きいという特徴を持つため、触媒、診断用ゲル、イオン交換などさまざまな分野で応用されているが、本研究成果は、多孔質状の土壌から、水と共存した石油を抽出する際にも重要な知見を与えるものと期待される。

○発表雑誌
雑誌名:「Science Advances」
論文タイトル:Impact of complex topology of porous media on phase separation of binary mixtures
著者:Ryotaro Shimizu and Hajime Tanaka
DOI番号:10.1126/sciadv.aap9570

○問い合わせ先
東京大学 生産技術研究所 
教授 田中 肇(たなか はじめ)
Tel:03-5452-6125 Fax:03-5452-6126
研究室URL:http://tanakalab.iis.u-tokyo.ac.jp/Top_J.html

資料

 

図1 三次元多孔質中の相分離構造

図1 三次元多孔質中の相分離構造
混合系の二成分(青と緑)と壁(黒)との相互作用が全く同じ場合に見られる相分離の過程。

用語解説

(注1)秩序変数
相が持つ秩序の度合いを表す変数のこと。たとえば、相分離の場合は、混合系の成分の組成。

(注2)トポロジー
何らかの形をもつ構造を、切ったり繋いだりせずに連続的に変形しても保たれる幾何学的な性質。


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