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【記者発表】半透明ペロブスカイト太陽電池の透明度を向上 ~赤い光が減っても気付かない、人間の視覚特性に着目~

○発表者
キム ギュミン(東京大学 生産技術研究所 大学院生(当時))
立間 徹(東京大学 生産技術研究所 教授)

○発表のポイント
◆景色が透けて見える半透明なペロブスカイト太陽電池を開発しました。
◆人間の目が捉えにくい赤い光を効率的にエネルギー変換する工夫により、透明化に伴う光エネルギーの損失を減らしました。
◆その結果、半透明ながら約10%のエネルギー変換効率を達成しました。

○発表概要
東京大学 生産技術研究所のキム ギュミン 大学院生(当時)と立間 徹 教授は、半透明ながらも約10%という高いエネルギー変換効率を示すペロブスカイト太陽電池の開発に成功しました(図1)。窓ガラスなどへの利用が期待されます。
半透明な太陽電池は、光吸収層を薄くすれば作製できますが、その分エネルギー変換効率も低下してしまいます。そこで、人間の視覚が青や赤の光にはそれほど敏感ではないという特性を利用し(図2)、それらの光を効率よく吸収してエネルギーに変え、効率をあまり低下させずに見た目の透明度を高めることに成功しました。
最近注目されているペロブスカイト太陽電池は青い光を効率よく利用できます。これに銀ナノ粒子を組み合わせ、プラズモン共鳴によって赤い光の利用効率を高めました(図2)。

 
図1
図1.半透明ペロブスカイト太陽電池の写真と構造


 
図2
図2.本研究で開発した半透明ペロブスカイト太陽電池のコンセプト図
人間の視覚が認識しづらい短波長光(図の左側)はペロブスカイトで効率よく吸収し、長波長光(図の右側)はプラズモンのアンテナ効果で吸収を補助する。


○発表内容
<研究の背景>
ペロブスカイト太陽電池は薄い膜を重ねた構造をしています。中心には光を吸収してプラスとマイナスの電荷を生じるペロブスカイト層があり、それが、プラスの電荷(ホール)を取り出すホール輸送層と、マイナスの電荷(電子)を取り出す電子輸送層で挟まれ、さらに2つの電極(少なくとも一方は光を通す透明電極)で挟まれています。
従来の半透明ペロブスカイト太陽電池は、不透明な金属電極を薄くして半透明化することに加え、ペロブスカイト層を薄くしたり、不連続な島状にしたりすることで光吸収を減らしていました。そのため、ペロブスカイト層を減らした分だけ効率も低下していました。

<原理>
本研究グループは、人間の視覚の特性を利用することで、効率の低下を抑えつつ半透明化を実現しました。人間の視覚は、中程度の波長である黄色や緑の光には敏感ですが、波長の短い青色光や、波長の長い赤色光にはそれほど敏感ではありません(図2)。一方、ペロブスカイト層は波長が短い光ほど効率よく吸収して電気に変換でき、波長の長い光ほど吸収しにくくなります(図2)。
波長の長い赤色光に対する変換効率を高めるために、プラズモン共鳴という現象を利用しました(図2)。金や銀などのナノ粒子は、プラズモン共鳴により、特定の波長の光を吸収します。ステンドグラスにも金や銀のナノ粒子が含まれ、それらが光を吸収するため、多彩な色を示します。この金属ナノ粒子は光を吸収し、そのエネルギーを近くの物質に渡す、という性質を持ち、これを「アンテナ効果」と呼びます。本研究グループは、銀ナノキューブ(立方体、つまりサイコロ状の銀ナノ粒子)が強いアンテナ効果を持つことと、銀ナノキューブと電極を近づけることで、吸収する波長を自在に変えられる「電極カップリング効果」をすでに見つけていました。これら2つの効果を組み合わせることで、人間の視覚では捉えにくい赤い光のエネルギーをペロブスカイト層に渡し、長波長での変換効率を高めました(図2)。

<研究の内容>
まず、通常のペロブスカイト太陽電池が持つ、不透明な銀電極の厚さを光の波長よりも1桁以上薄い10ナノメートル(=0.01マイクロメートル=10万分の1ミリメートル)にすることで半透明にしました。さらに、ペロブスカイト層の厚さも通常より薄い180ナノメートルにすることで、透明度を高めました。このとき、銀ナノキューブ(一辺の長さが約70ナノメートルのものを使用)を導入し、電極カップリング効果によってその吸収域を赤色光付近に合わせることで、ペロブスカイト層を薄くしたことによる損失を抑え、エネルギー変換効率を9.7%に保ちました。人間の視覚感度も考慮した「視覚透明度指標」は、ペロブスカイト層を薄くする前と比べて28%上昇しました。
こうした半透明太陽電池は、住宅やオフィスビルなどの窓ガラス、サンルームやカーポートの半透明屋根、自動車やバスのスモークガラスやサンルーフなどへの応用が期待されます。


○発表雑誌
雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Semi-transparent Perovskite Solar Cells Developed by Considering Human Luminosity Function(ヒトの視覚感度を考慮した半透明ペロブスカイト太陽電池の開発)
著者: Gyu Min Kim and Tetsu Tatsuma
DOI番号:10.1038/s41598-017-11193-1

○問い合わせ先
東京大学 生産技術研究所
教授 立間 徹(たつま てつ)
Tel:03-5452-6336
研究室URL:http://www.iis.u-tokyo.ac.jp/~tatsuma/

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