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【記者発表】地球全域を対象とした、世界最高精度の地形データを公開~ 国内外3,000以上の研究機関が活用 ~

○発表者:
山崎 大(東京大学 生産技術研究所 准教授)

○発表のポイント:
◆基礎的な地形データは、洪水予測など幅広い用途に欠かせない。しかし、高精度の標高データが未整備の地域も多く、地球全域をカバーする高精度の地形データが求められていた。
◆衛星から計測される地形データに含まれる多様な誤差を分析・除去し、そこに、公開されている地理データを組み合わせて、世界最高精度の標高データ(MERIT DEM)と河川地形データ(MERIT Hydro)を構築、公開した。
◆国内外3,000以上の研究機関にデータを提供し、地球科学研究における基盤情報として貢献している。今後も、気候変動予測モデルの高度化や洪水リスク評価の高精度化など、多様な分野でのブレイクスルーが期待される。

○発表概要:
 標高・水面分布・河川網といった地形データは、気候変動予測・水資源マネジメント・洪水予測・生態系評価など、さまざまな科学研究や実務で用いられる基盤情報である。先進国など一部の地域を除き、世界には高精度の標高データが未整備の地域が多数ある。補完的に用いる衛星標高データ(注1)には多様な誤差が含まれるため、洪水予測などの高精度の地形情報が必要な事例での活用に問題があった。
 東京大学 生産技術研究所の山崎 大 准教授らの研究グループは、複数の衛星観測データと独自の地形解析アルゴリズムを組み合わせ、世界最高精度で地球全域をカバーする標高データ「MERIT DEM」と高精度河川地形データ「MERIT Hydro」を構築し、公開した。
 まず、既存の衛星標高データに含まれる複数の誤差成分を分離・除去する手法を世界で初めて開発し、MERIT DEMを開発した。さらに、それを公開されている地理データなどと組み合わせ、独自開発した地形解析手法を用いて小さな水路までを緻密に表現するMERIT Hydroを構築した。
 開発した高精度地形データは、ウェブページおよびGoogle Earth Engineで公開している。これまでに国内外3,000以上の研究機関などにデータを提供し、地球科学研究における基盤情報として貢献している。
 高精度標高データMERIT DEMに関する研究成果は2017年5月31日(水)(米国東部夏時間)に「Geophysical Research Letters」に、高精度河川地形データMERIT Hydroに関する研究成果は2019年5月28日(火)(米国東部夏時間)に「Water Resources Research」に掲載された。

○発表内容:
<研究背景>
 標高や河川地形などの基礎的な地形データは、日常生活で使用されるほか、気候変動・水資源マネジメント・洪水予測・生態系評価をはじめとするさまざまな科学研究や実務で用いられる基盤情報である。先進国などの一部の地域では航空機レーザー測量(注2)などに基づく高精度な地形情報が整備されているが、世界には高精度の標高計測ができず衛星観測による標高データに頼らざるを得ない地域が多数ある。しかし衛星観測による標高データには多様な誤差が含まれるため、そのままでは洪水予測などの高精度の地形情報が必要な事例に活用できないという問題があり、地球全域をカバーする高精度の地形データの開発が期待されていた。

<研究内容>
1. 衛星標高データから複数誤差の一斉除去に成功し、高精度デジタル標高データを開発
 既存の衛星標高データを、衛星レーザー高度計(注3)や衛星森林マップ(注4)などの複数の衛星地球観測情報と組み合わせ、標高データに含まれる複数の誤差成分を分離・除去することで、世界最高精度のデジタル標高データMERIT DEMを開発した。MERIT DEMは分解能3秒(約90m)で南極を除く全陸地の地盤標高を表現する。地球全域を対象に複数の誤差成分の一斉除去に成功したのは本研究が世界初である。これにより、地盤標高の表現精度が大幅に向上し、既存標高データでは地球全域の39%にとどまっていた延長誤差2m未満の地点がMERIT DEMでは58%となった(図1)。既存の衛星標高データに見られた縞状ノイズや森林樹高バイアスが除去されたため、特に河川と氾濫原などの平坦地においてこれまで表現できなかった詳細な地形起伏が現実的に表現できるようになった(図2)。

2. 上記標高データを複数の地理情報データを統合し、高精度の河川地形データを構築
 次に、高精度標高データMERIT DEMを、衛星水面マップ(注4)やOpenStreetMap(注5)などのさまざまな地理情報データと統合し、独自の地形解析アルゴリズムを適用することで、世界最高精度の河川地形データMERIT Hydroを構築した(図3)。MERIT Hydroは、分解能3秒で河川ネットワーク構造と流域界、集水域面積、河道幅などを表現する。これまでの研究では、河川地形データはGISなどを用いたマニュアル編集作業を繰り返して構築されていたため、開発には膨大な時間とコストがかかっていたが、本研究では独自のアルゴリズム開発により河川地形解析をほぼ自動化することに成功した。これにより、最新の地理情報データを用いて世界の全ての河川流域を対象にした河川地形解析が実施できるようになった。地球全域を対象にしたデータでありながら小さな水路までを緻密に表現することが可能になり(図4)、河川地形データの大幅な高精度化が実現した。

<今後の予定>
 開発した標高データMERIT DEMと河川地形データMERIT Hydroは、幅広い研究や実務での活用を見込んで、研究室ウェブページで公開している。2020年10月には衛星データ解析基盤「Google Earth Engine」のデータカタログに登録され、他の衛星データや地理情報と合わせた解析が容易になった。また、専用ソフトを必要とせずにMERIT Hydroを可視化できるWebGISを構築し、河川地形情報を誰もが閲覧できるサービスを開始した。これまでに国内外3,000を超える研究機関などにデータを提供し、洪水予測モデルの高度化・水域生態系の評価・考古学調査の基礎資料など、地球科学関連の多様な研究分野で活用される基盤情報として貢献している。
 今後は、開発した地形データを用いて洪水予測モデルの高度化に取り組むとともに、地形データ自体も最新衛星観測情報を反映して随時アップデートしていく予定である。

<データ公開用ウェブページ>
 開発したデータは以下のウェブページで公開している。

MERIT DEMデータ公開ウェブページ:
http://hydro.iis.u-tokyo.ac.jp/~yamadai/MERIT_DEM/
MERIT Hydroデータ公開ウェブページ:
http://hydro.iis.u-tokyo.ac.jp/~yamadai/MERIT_Hydro/
MERIT Hydro Interactive WebGIS:
https://meritdataset.users.earthengine.app/view/merit-hydro-visualization-and-interactive-map
MERIT DEM/Hydo:Google Earth Engineデータカタログ:
https://developers.google.com/earth-engine/datasets/tags/merit

※本研究のデータ開発には日本学術振興会 科研費「グローバル水文学の新展開」、文部科学省「統合的気候モデル高度化研究プログラム(JPMXD0717935457)」などによる支援を受けた。また、データ公開のためのWebGIS開発作業は、MS&ADホールディングス「LaRC-Floodプロジェクト」の支援を受けた。

○発表雑誌:
雑誌名:「Geophysical Research Letters」(2017年5月31日(水)公開)
論文タイトル:A high‐accuracy map of global terrain elevations
著者:Dai Yamazaki, Daiki Ikeshima, Ryunosuke Tawatari, Tomohiro Yamaguchi, Fiachra O'Loughlin, Jeffery C. Neal, Christopher C. Sampson, Shinjiro Kanae, and Paul D. Bates
DOI:10.1002/2017GL072874

雑誌名:「Water Resources Research」(2019年5月28日(火)公開)
論文タイトル:MERIT Hydro: A High‐Resolution Global Hydrography Map Based on Latest Topography Dataset
著者:Dai Yamazaki, Daiki Ikeshima, Jeison Sosa, Paul D. Bates, George H. Allen, and Tamlin M. Pavelsky
DOI:10.1029/2019WR024873

○注意事項:
 公開している地形データ「MERIT DEM」「MERIT DEM」は、ライセンス規約(CC-BY-NC 4.0もしくはODbL 1.0のどちらか)に従う限り、どなたでも利用可能です。

○問い合わせ先:
東京大学 生産技術研究所
准教授 山崎 大(やまざき だい)
Tel:03-5452-6382
E-mail:yamadai(末尾に"@iis.u-tokyo.ac.jp"をつけてください)
研究室URL:http://hydro.iis.u-tokyo.ac.jp/~yamadai/

○用語解説:
注1)衛星標高データ
 人工衛星からのレーダーなどによる計測で作成されるデジタル標高地図。本研究ではNASAが開発したSRTM DEM (Shuttle Radar Topography Mission - Digital Elevation Model)とJAXAが開発したAW3D DEM (ALOS World 3D - Digital Elevation Model)を既存衛星標高データとして使用した。

注2)航空機レーザー測量
 航空機からのレーザー距離計測により高精度かつ高分解能で地表面標高マップを作成する手法。

注3)衛星レーザー高度計
 人工衛星から地表に向けてレーザーパルスを射出し、エコーが到達する時間を計測することで地表面の標高を正確に計測する技術。本研究ではNASAのICESat-1のデータを使用した。

注4)衛星森林マップ・衛星水面マップ
 人工衛星画像を解析して、森林および水面を検出して地図化したデータ。本研究では分解能30mの森林マップ「Global Forest Change Data(メリーランド大学開発)」および水面マップとして「G1WBM(東京大学 生産技術研究所開発)とGSWO(EC Joint Research Center開発)」を使用した。

注5)OpenStreetMap
 誰でも編集と利用ができるオープン地図情報データベース構築プロジェクト。

○添付資料:

図1:既存標高データ(上)と開発したMERIT DEM(下)の誤差解析結果
(左) 標高データに含まれるバイアス。赤色/青色はそれぞれ実際の地盤より高い/低い地域を示す。山岳域では標高のばらつきが大きいので精度が低くなる。(右) 鉛直誤差のヒストグラム。MERIT DEMではヒストグラムのばらつきが小さく中央によっており、誤差が大きく改善されたことを示している。


図2:メコン川デルタの標高データ
(左)NASAが開発した衛星標高データ「SRTM DEM」による標高データ、(右)本研究で開発したMERIT DEMの標高データ。NASA SRTMで顕著だった縞状誤差が除去され、より現実的な地形が表現されている。


図3:河川地形データ MERIT Hydroデータ拡大図
中国Pearl River河口付近。(左)河道ネットワークデータを可視化したもの、(右)河道幅データを可視化したもの。


図4:利根川・小貝川・鬼怒川の合流点付近での河川ネットワークデータの拡大図
(左)既往データUSGS HydroSHEDS、(右)本研究で構築したMERIT Hydroの河道網。高精度化により赤丸で示した小貝川・鬼怒川が利根川と合流する直前の流路や平野部での複雑な水路網が、地球全体を対象としたデータでありながら詳細に表現されている。

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