○発表者:
関本 義秀(東京大学 生産技術研究所 准教授)
矢部 貴大(東京大学 生産技術研究所 短期来訪国際研究員 / アメリカ・パデュー大学博士課程)
○発表のポイント:
◆携帯電話から取得される位置情報(GPS情報)を用いて、東京都市圏におけるコロナ禍での緊急事態宣言発令前後(2020年1月~4月中旬)での人々の行動変容について解析を行った。
◆位置情報の時空間解析の結果、緊急事態宣言が発令される前の3月初週時点で人々の自宅外での接触率は平時の6割程度に減少し、緊急事態宣言を発令したことで4月中旬での接触率は平時の2割程度まで抑えられていたことを示した(図1A)。
◆また、接触率の減少には東京都内で地域差があったこと、さらには接触減少率とCOVID-19の実効再生産数との非線形な関係性も明らかにされた(図1B、C)。流行の第二波、第三波が予想される中、どの程度人々の接触を抑制するべきかについての定量的なエビデンスを示した点に意義がある。本研究成果は、今後の政策決定に大きく貢献するものと期待される。
○発表概要:
東京大学 生産技術研究所の関本義秀准教授、矢部貴大 短期来訪国際研究員(アメリカ・パデュー大学 博士課程)、ヤフー株式会社、東北大学の藤原直哉准教授、大阪市立大学の和田崇之教授、アメリカ・パデュー大学のSatish V. Ukkusuri教授らの研究グループは、携帯電話の位置情報を用いて、東京でのコロナ禍の外出自粛や緊急事態宣言の効果を検証した。本手法は、携帯電話から取得される大量の移動軌跡を解析することで、都市において人々がいつ、どこで、どの程度接触しているかを定量化することができる。解析の結果、緊急事態宣言が発令される前の3月初週時点で人々の自宅外での接触率は平時の6割程度に減少し、緊急事態宣言を発令したことで4月中旬での接触率は平時の2割程度まで抑えられていたことが示された(図1A)。さらには、接触の減少率とCOVID-19の実効再生産数との非線形な関係性も明らかにされ(図1B、C)、今後流行の第二波、第三波が予想される中、どの程度人々の接触を抑制するべきかについての定量的なエビデンスが示された。外出自粛を含めた様々な政策決定のエビデンスとしての活用が期待される。
本成果は2020年10月22日(米国東部夏時間)にネイチャー・パブリッシング・グループの総合科学雑誌「Scientific Reports」のオンライン版で公開された。
○発表内容:
■背景
コロナウイルスの感染拡大を抑えるために東京では2月以降、都県を跨いだ移動の抑制や緊急事態宣言の発令など、様々な政策が実施された。一方で、これらの政策は経済へ膨大なダメージを与えてしまうため、どの程度人々の接触を抑制すべきかを明らかにすることは政策策定上非常に重要な問題であった。これまで、特定の地域での人出を携帯電話の位置情報から推定するような調査・研究は行われてきたが、人々の接触を定量化した研究はなかった。
■手法
ヤフー株式会社がユーザー同意のもと取得した人々の携帯電話(スマートフォン)の位置情報を解析することで、時々刻々の都市全体での接触率を算出した。時々刻々の「接触数」は、100メートルの距離圏内に30分以上滞在したユーザー数の平均値と定義し、時々刻々の「接触率」はコロナ禍以前の1月平日の平均値に対する割合と定義した。時空間的なパラメータを変更して解析も行い、推定結果の頑健性も確認された。東京都にて発生した日々の新規感染者数からCOVID-19の実効再生産数も推定し、これらの関係性を調査した。
■結果
緊急事態宣言が発令される前の3月初週時点で人々の自宅外での接触率は平時の6割程度に減少し、緊急事態宣言を発令したことで4月中旬での接触率は平時の2割程度まで抑えられていたことが示された(図1A)。また、接触率の減少には東京都内で地域差があり、平均所得の低い地域では高所得地域に比べて接触減少率が低かったことも明らかにされた(図1D、E、F)。さらには、接触減少率が高いほど実効再生産数も抑えられるが、接触減少率が70%程度以上の場合、実効再生産数の抑制も限定的であることが示唆された(図1B、C)。
○発表雑誌:
雑誌名:「Scientific Reports」(10月22日オンライン版)
論文タイトル: Non-Compulsory Measures Sufficiently Reduced Human Mobility in Tokyo during the COVID-19 Epidemic
著者: Takahiro Yabe, Kota Tsubouchi, Naoya Fujiwara, Takayuki Wada, Yoshihide Sekimoto, and Satish V Ukkusuri
URL:http://www.nature.com/articles/s41598-020-75033-5
○問い合わせ先:
東京大学 生産技術研究所
准教授 関本 義秀(せきもと よしひで)
Tel:03-5452-6406
E-mail:sekimoto(末尾に"@iis.u-tokyo.ac.jp"をつけてください。)
○添付資料:
図1:A)東京都市圏での人々の接触率(Contact Index)の変動を示したもの。緊急事態宣言を経て平時の2割程度まで減少していることが確認された。B、C)推定されたCOVID-19の実効再生産数と接触減少率の非線形な関係性が確認された。D)東京都23区の接触率の推移。E)平時において接触数の高い地域ではより大きな減少率が観測された。F)平均所得と緊急事態宣言後での接触率には負の相関がみられた。