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多様なサービス創出のためのインフラ“IoT-HUB”の社会実装 ~巨大な価値創造空間の構築に向けて~

 このたび、東京大学生産技術研究所(以下、本所と呼びます)での研究成果が社会実装され、プロトコルの異なる多種多様なデバイスを接続する「クラウド間相互接続サービス」が新会社「IoT-EX株式会社」により提供されます。このB2B向けサービスの最大の特徴は、今までの概念を覆すアーキテクチャーを採用することによって、プロトコルフリーを実現したことです。
 仕様の異なるデバイスを相互に接続することは、コストや開発時間を逓増させるため、IoTはサービス開発がしづらいという課題がありました。本サービスがこの問題を払拭し、今後IoTサービス開発が円滑に進むことが期待されます。このことは、従来からのスマートハウスサービスに加え、日本が直面している超高齢化や防災などレジリエンス強化にもIoTが貢献する可能性をもたらします。

1.実装したインフラとその効果

 具体的に実装したインフラを図-1に示します。また、実証研究を通じ、以下に記す効果が確認、もしくは、予想されており、IoT時代にふさわしい柔軟なインフラが構築できることが判明しました。

(1)《Web APIベースのアプリケーション・インターフェイス/確認済》
 ITスタートアップ企業などが、特殊なプロトコルを習得せずとも、容易にIoT市場に参入可能とする構造はIT企業から好評を得ました。

(2)《Driverモデル/確認済》
 あらゆるモノがネットに繋がるIoTの世界では、図-2に示すように唯一つの通信プロトコルに頼るのは限界があります。そこで、プライベートクラウドとの接続を容易にするCloud Driverや、IoTデバイスと直接接続を可能とするデバイス Driverの概念により、クラウド接続スタイルやローカル動作など、様々な形態のIoTデバイスを柔軟に相互接続できる構造が実用的であることが確認されました。

(3)《仮想デバイスのビルトイン/確認済》
 IoTサービス開発には、実際に動作するデバイスが必要となることが一般的ですが、その開発製造には多くの時間を要します。デバイスの開発を待たずとも、インターフェイス条件だけ開示して頂ければ、HUB内に置いた仮想デバイスでサービス開発をデバイス開発と同時並行的に進められます。
 また、IoTデバイスの連動不具合が出た場合に、機器そのものが悪いのか、それともIT的な問題か、といった"障害切り分け"にも効果を発揮します

(4)《監視システムの提供(SCADAaaS)/予想》
 不具合が発生した際、デバイスの問題でなければ、次は通信経路上のどこまで命令が届いたか、という確認作業が必要となります。その場合、一般的にはSCADA(Supervisory Control and Data Acquisition)と呼ぶ仕組みが必要となりますが、IoT-HUBの機能を活用して、システムを接続している事業者殿にも、その機能をサービスとして提供可能です。

(5)《ブロックチェーンエンジンなど他のエンジンとの容易な接続性/予想》
 IoTサービスが経済的に成り立つためには、課金システム等との連携が不可欠です。また、IoTによって発生したデータの経済活動への利活用にも期待がかかっています。IoT-HUBは、Driverを用意することで、ブロックチェーンエンジンやデータストレージエンジンなどと極めて容易に接続することが可能なインフラとなっています。
 さらに、"緊急地震速報を受信して、玄関ドアの鍵が解錠される"といったIoTサービスの場合、留守にもかかわらず解錠され、泥棒に入られた、ということも考えられます。このような問題を「IoT由来の脅威」と呼び、これを回避する「関所」と仮称する仕組みも既に実証済みです。今後IoTサービスの進展とともにこのサービスの実現も期待できます。


図-1 社会実装したインフラ概要


図-2 ドライバーモデルの概念

2.事業概要と今後の展望

 この会社の提供するサービスは、二つの階層から成っています。同社が届出電気通信事業者であることから判る通り、一つ目は、電気通信サービスです。これは、IoTデバイスが収容されたプライベートクラウド同士や、アプリケーションとプライベートクラウド、デバイスとプライベートクラウド間などを相互接続するサービスです。
 もう一つは、IoTサービスを創造するためのコンサルティング的業務で、IoT接続支援事業と呼んでいます。黎明期にあるIoTには、「何ができるのか」という悩みもあります。本所には、実験スマートハウスを活用した産学連携による多数のPoC (Proof of Concept) 経験等があり、IoT-EX社は、それらを基にビジネスマッチングなど幅広な支援業務を提供可能です。
 なお、このような結節点は、本来それを利用する関係者の共有物であるべきと考えています。そのため、いずれは、IoT-Exchangeサービスをご利用される企業さまにもご出資頂き、"皆が共有し、皆で活用するインフラ"に進化させたいと考えています。

【御参考】 隘路の存在と解決策の検討

 例として「緊急地震速報を受信したら、ガスコンロに消火信号を送り、玄関ドアの鍵を解錠する」というIoTサービスを考えてみます。このようなIoTサービスは、自然災害の頻発や超高齢化が進む我が国での普及が期待されます。このサービスの実現には、図-3のような構成要素(IoTデバイス等)を連携させる必要があります。
 近年、IoTデバイスが増えてきていますが、それらは機器単体であるケースは少なく、その多くが当該メーカーのプライベートクラウドに接続されています。このため、上記のサービス実現のためには、そのクラウド同士を相互接続することが必要です(図-4)。


図-3 こうしたい!という問題意識 


図-4 クラウド間相互接続の必要

 一般に、相互接続には結節点を設けることが効果的ですが、図-5に示すように、IoTデバイスやアプリケーション、外部機関のサーバーなどネットワークに繋ぐための増分コストの負担力に大きな開きがある多種多様なシステムの相互接続が必要です。これは、電話網のように単一要素の相互接続と大きく異なる特徴です。


図-5 相互補完関係にある多種多様な要素と課題


図-6 東京大学生産技術研究所の相互接続テストベッド(初期)

 そこで、本所が2015年に設置したIoT特別研究会(野城智也代表幹事、以下、RC-88と呼びます)では、RC-88参加メンバー企業や他の協業団体さまのお力添えも得て、図-6に示すテストベッドを活用して、下記に対する解決策を検討して参りました。

[1] コスト負担力に大きな幅があるシステムを接続できること(プロトコルフリー)
[2] 今後大いに活躍が期待されるスタートアップ企業などのアプリケーション開発能力を充分に引き出せること
[3] プライベートクラウドに接続されていない"ローカル"なIoTデバイスも相互接続の対象にできること
[4] 標準化議論の妨げにならないこと

 結果的に、相互接続インフラのアーキテクチャーとしては、図-6のR界面をIoTシステムに対する基準(アプリ側はQ界面)とし、ここに"ドライバー(Driver)"と呼ぶアダプター的インターフェイスを置くことでプロトコルフリーを実現しました。そして、具体的なアプリケーションによる実証研究によって、その使い勝手の良さも確認できました。
 この方式は、あたかも日常使用しているパソコンのプリンタードライバーに似ているため、RC-88ではこれを"プリンタードライバーモデル"と呼んでいます(図-2)。

○お問い合わせ先:
東京大学 生産技術研究所
特任研究員 馬場 博幸
電話:03-5452-6856
E-mail:hbaba(末尾に@iis.u-tokyo.ac.jpをつけてください)

IoT-EX株式会社
社長室長 深田 浩仁
電話:03-3258-7039
E-mail:koji.fukata(末尾に@iot-ex.co.jpをつけてください)

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