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【記者発表】血管の新生能と透過性を定量的に評価できる、三次元微小血管デバイスを開発 〜 薬剤開発の前臨床試験モデルへ 〜

○発表者
松永 行子(東京大学 生産技術研究所 統合バイオメディカルシステム国際研究センター 講師)
ポティ・ジョリス(東京大学 LIMMS/CNRS-IIS (2820) 国際連携研究センター 特任研究員)

○発表のポイント
◆がん組織に栄養や酸素を届ける血管を標的とし、兵糧攻めをねらう血管新生阻害療法ががんの新しい治療法として注目されています。
◆ヒトの臍帯に含まれる静脈内皮細胞をコラーゲンゲルのトンネル構造をもつマイクロデバイス内で培養し、微小な人工血管を作製しました。薬剤を添加すればがん環境を再現でき、さまざまな薬剤が血管新生と血管バリア機能へ与える影響を視覚的・定量的に評価できます。
◆血管および血管周辺環境をターゲットとした薬の薬効評価、スクリーニングなど、創薬・医療・生命科学分野への貢献が期待されます。


○発表概要
東京大学 生産技術研究所の松永 行子 講師とポティ・ジョリス 特任研究員らのグループは、ヒトの血管内皮細胞由来の微小な血管をマイクロデバイス上に形成し、血管新生阻害薬の効果を生体外で評価する、in vitro(インビトロ)薬剤評価系を開発しました(図1)。
がん組織は、周囲に血管内皮細胞増殖因子(VEGF)などのたんぱく質を分泌し、近くの血管の新生を促して大量の栄養や酸素を獲得していることが知られています(図2)。今回開発した系にVEGFを加えると、盛んに毛細血管が新生しますが(図3)、既存の血管新生阻害薬で処理することで、この血管新生を抑制できることを確認しました(図4)。また、微小血管内に蛍光物質を注入し、血管の外にどれだけ漏れ出すかを観察し、血中の不良な成分が体内に侵入しないようにブロックする「血管のバリア機能」を検証した結果、既存の血管新生阻害薬が与える影響が大きく異なることが分かりました。今回開発した技術は、血管新生と血管透過性の双方について、薬剤が与える効果を定量的に評価することが可能です。
この研究は、東京大学とフランスCNRSの日仏国際共同研究ラボLIMMSの在仏研究拠点SMMIL-E(スマイリー)プロジェクトとして行われました。また、本成果は、2017年12月20日(英国時間)に Cell Press 誌と Lancet 誌が共同でサポートするオープンアクセス「EBioMedicine」にてプレ掲載されました。


○発表雑誌
雑誌名:「EBioMedicine」
論文タイトル:A Vascular Endothelial Growth Factor-Dependent Sprouting Angiogenesis Assay Based on an in vitro Human Blood Vessel Model for the Study of Anti-Angiogenic Drugs
著者:Joris Pauty, Ryo Usuba, Irene Gayi Cheng, Louise Hespel, Haruko Takahashi, Keisuke Kato, Masayoshi Kobayashi, Hiroyuki Nakajima, Eujin Lee, Florian Yger, Fabrice Soncin, Yukiko T. Matsunaga
DOI番号:10.1016/j.ebiom.2017.12.014

○問い合わせ先
東京大学 生産技術研究所 統合バイオメディカルシステム国際研究センター
講師 松永 行子(まつなが ゆきこ)
Tel:03-5452-6470 Fax:03-5452-6471
研究室URL:http://www.matlab.iis.u-tokyo.ac.jp/index.html

資料

 

図1 微小血管デバイスの作製方法
図1 微小血管デバイスの作製方法

 

図2 がん組織が血管をよびこむ血管新生現象
図2 がん組織が血管をよびこむ血管新生現象

 

図3 VEGFの添加で誘導される血管新生の様子
図3 VEGFの添加で誘導される血管新生の様子

 

図4 血管新生阻害薬による血管の新生能と透過性の定量的評価
図4 血管新生阻害薬による血管の新生能と透過性の定量的評価


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