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【記者会見】波エネルギーを吸収して乗り心地が大幅に向上する小型船の実現~Wave Harmonizer (略称:WHzer)の研究開発~

○会見日時:平成28年4月27日(水)14:00~15:00
○会見場所:東京大学生産技術研究所 中セミナー室1(An401・402号室)
○発表者:
北澤 大輔(東京大学生産技術研究所 准教授)
前田 輝夫(株式会社マネージメント企画 代表取締役社長)


○発表のポイント
◆波エネルギーを吸収して乗り心地を大幅に向上させた小型船を世界に先駆けて開発しました。
◆波エネルギーの吸収と乗り心地の向上を同時に実現し、必要に応じてその割合を変えることができます。
◆エネルギー消費削減が求められている漁船、揺れの抑制が重要な作業船、プレジャーボートなどに広く応用されることが期待されます。

○発表概要
東京大学生産技術研究所の北澤大輔准教授と株式会社マネージメント企画の前田輝夫氏の研究グループは、波エネルギーを吸収しながら乗り心地を向上する小型船の開発に取り組んできました。このたび、全長3.3mの小型船で海上実験を行い、波エネルギーの吸収と乗り心地の向上に成功し、商品化への目処が立ちました。
日本沿海には豊富な波エネルギーがあります(注1)。現在の小型船は、波による揺れで乗り心地が悪く、その航行は海況によって左右されます。また、船のエネルギー消費削減は世界的な責務となっています。これまで、船の揺れを抑制する研究開発は行われてきましたが、本研究開発では、波エネルギーの吸収利用と同時に乗り心地の向上の達成を世界で初めて実現しました。また、必要に応じて、波エネルギーの吸収と乗り心地の向上の割合を調整するシステムを開発しました。
本研究成果は、エネルギー消費削減が求められている漁船、揺れの抑制が重要な作業船、プレジャーボートなどに広く応用されることが期待されます。

○発表内容
【新たに開発した小型船(図1)のしくみ】
左右のフロート(注2)の上にサスペンションを介してキャビン(注3)を搭載します。波を受けたフロートが上下揺れ(ヒービング)や縦揺れ(ピッチング)をして、それに応じてキャビンも揺れます。その結果、フロートとキャビンが相対的に運動をしますが、その運動でモーター/ジェネレーター(注4)を駆動して電力を得ます。同時に、揺れのエネルギーを電力に置き換えることになるので、キャビンの揺れは減少します。
モーター/ジェネレーター系回路を調整して、発電がキャビンの揺れに共振するように合わせると(インピーダンス整合、注5)、モーター/ジェネレーターの発電量は最大になります。
キャビンに設置したセンサーでキャビンの揺れを計測して、これがゼロになるようにモーター/ジェネレーターを駆動すれば、キャビンが空間に固定(スカイフック)されるようになります。これによって乗り心地は格段に向上します。
【結果の概要】
本研究グループは、フロートが波から受ける力と、発電量やキャビンの揺れの制御を予測するシミュレーターを開発し、船の諸元や制御系の要素を選定しました。まず、試作した全長1.6mの縮尺実験船を試作して水槽模型実験を行いました。最適要素の組み合わせでは、フロート幅に入る波エネルギーの150%以上(注6)を電力として獲得できました。同時に、船の上下揺れ、縦揺れは、常用領域で波高の半分以下に抑制されることが分かりました。相似則を用いて全長約8mの小型漁船に換算し、小型漁船の操業条件、操業時の海況条件などを統計的に求めて当てはめると、年間を通じて約30%のエネルギーを削減できることになります。
本研究グループは、2015年4月より、海上実験用の全長3.3mの小型船の研究開発に着手しました。2015年12月に2名が乗船できる小型船を進水させ、下関の日本海側にある油谷湾で海上実験を行いました。
さらに、この海域の海況を一般化して普遍的なデータを得るために、 実験船を水槽でJONSWAP(注7)の波形を与えて検証実験を行い、海上実験の結果は、どこの海域でも利用できることを明らかにしました。
結果の一例として、波高0.2mの海域において、最適要素の組み合わせでは、波エネルギー吸収比約7割(図2)、またキャビンの揺れを1/4以下(図3)に抑えることができました。
【今後の展開】
エネルギー消費削減が求められている水産業界、揺れの抑制が重要な通船やオフショアのインフラ関連業界(洋上の風力・波力発電施設のメンテナンス船など)、さらに使用目的に応じて、エネルギー消費削減と乗り心地向上のどちらに重きを置くかが決まる業務艇やプレジャーボートへの応用が期待されます。
今回開発したシステムは波エネルギーの吸収、乗り心地の向上のどちらにも対応でき、また航行中に、必要に応じて例えばダイアル一つでこれらの組み合わせの割合を調整することができます。幅広い要望に応える本研究開発成果が、今後さまざまな船などに活用されることが期待されます。
なお、本研究開発は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「新エネルギーベンチャー技術革新事業/新エネルギーベンチャー技術革新事業(風力発電その他未利用エネルギー)/省エネ漁船用の革新的波エネルギー吸収利用の技術開発」の一環として行われました。また、水槽模型実験の一部は、笹川科学研究助成、科学研究費補助金(挑戦的課題研究)の補助を得ました。

○問い合わせ先
東京大学生産技術研究所
准教授 北澤 大輔 (きたざわ だいすけ)
電話:03-5452-6656 FAX:03-5452-6657
研究室URL:http://mefe.iis.u-tokyo.ac.jp/index.html

株式会社マネージメント企画
代表取締役社長 前田 輝夫
電話:045-531-7769

用語解説

(注1) 日本の沿海の波エネルギー年平均10~15kW/幅(m)

(注2) フロート
下記キャビンを支える船の形、性能を持った浮き

(注3) キャビン
デッキもエンジンルームも含めた船の上部構造をここでは一括してキャビンと呼ぶ。

(注4) モーター/ジェネレーター
モーターは電流を流せば回転力を出すが、回転力を加えると電流を取り出すことができる。一つの電気回転機をモーターとジェネレーター両方に使うとき、モーター/ジェネレーターと言う。

(注5) インピーダンス整合
出力側と入力側のパラメータを調整して共振状態にすると最大の伝達効率が得られる。例えば、電波の周波数にラジオのダイアルを回して共振させると、最大のエネルギーを電波から受け取ることができる。

(注6) エネルギー吸収比
収穫したエネルギーと波を受ける船(フロート)幅に入る波エネルギーの割合。

(注7) JONSWAP
「北海合同波観測プロジェクト」の略。有義波高、有義周期などから計算できる波スペクトラムの関数式を提唱し、世界で広く用いられている。

資料

 zu1.jpg図1. 全長3.3mの小型船(WHzer)の海上実験(乗船・実験者:生産技術研究所・板倉博技術職員、工学系研究科・韓佳琳大学院生)


 
zu2.jpg
図2. 各ジェネレーターの電力の時間変化


 
zu3.jpg
図3. 水槽で揺れを計測。左のスカイフック制御のとき揺れは大幅に低減する。

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