例題と解説

  • 今年の講義ではヒュッケル計算の具体的な解法には触れませんでした。よって試験問題にも出すつもりはありませんが、過去問などをやっていて気になった人のため、例題と解説を載せることにします。
  • 試験に出ないとはいえ、計算を自分でやってみればヒュッケル法自体の理解につながりますし、講義で触れた内容も深く理解することができるでしょう。将来化学をやって行きたいのであれば、知っておいて損することは絶対にありません。

例題1

  • シクロプロペニル(中性ラジカル)のハミルトニアンを表わす行列を書け。

H=\left\(\begin{matrix}\alpha&\beta&\beta\\\beta&\alpha&\beta\\\beta&\beta&\alpha\end{matrix}\right\)

シクロプロペニルの炭素原子は全て化学的に等価なので,どのように番号付けをしても構いません。ここでは左下から左回りに1,2,3とつけることにしましょう(問3の図を参照)。ヒュッケル近似ではπ軌道の一部をなすpz軌道のクーロン積分をαとしますから,対角要素は全てαです。炭素間はそれぞれ1-2, 2-3, 3-1の間でσ結合がありますから,1,2要素,2,3要素,3,1要素にはそれぞれ共鳴積分であるβがきます。

例題2

  • 例題1で、Cが0以外の解を持つための条件を示し,その解を求めよ。

x=\frac{\alpha-E}{\beta} として永年方程式を書き直すと,

\left\(\begin{matrix}x&1&1\\1&x&1\\1&1&x\end{matrix}\right\)\left\(\begin{matrix}c_1\\c_2\\c_3\end{matrix}\right\)=0

この式でCが0以外の解を持つためには前半の行列式が0でなくてはならない。

\left|\begin{matrix}x&1&1\\1&x&1\\1&1&x\end{matrix}\right|=0

これを解いて,

x^3-3x+2\\=(x-1)^2(x+2)=0\\x=1,-2\\E=\alpha+2\beta,\alpha-\beta

E=α-βは重解です。これは縮重した二つの軌道があることを表わしています。

  • E=α+2βの時,永年方程式にx=-2を代入して,
    c_1=c_2=c_3
    の関係を得る。規格化条件を課して,
    c_1=c_2=c_3=\frac1{\sqrt{3}}
    となります。
  • E=α-βの時,永年方程式にx=1を代入して,
    c_1+c_2+c_3=0
    の関係を得る。しかしここで規格化条件を課しても解が一意に決まらないですね。これが縮重したMOの特徴です。上の式は三次元空間内に広がった二次元平面の方程式になっていて,この平面内のベクトルであればどれでも永年方程式を満たしてしまうのです。だから二つの直交したベクトルを決めようにも,どちらか一方の向きが固定されないともう一方を定めることができません。一つ目のベクトルの向きは適当に決めることができるので,たとえばC3=0としても一向に構いません。そうすると,
    c_1+c_2=0
    となり,規格化条件を加えて,
    c_1=\frac1{\sqrt{2}},c_2=-\frac1{\sqrt{2}},c_3=0
    が得られます。残るひとつのベクトルは,このベクトルに直交しなくてはならないので,
    \frac1{\sqrt{2}}c_1-\frac1{\sqrt{2}}c_2=0
    の条件が付け加わります。これと最初の条件(永年方程式から)をあわせ,規格化条件を用いれば,
    c_1=\frac1{\sqrt{6}},c_2=\frac1{\sqrt{6}},c_3=-\frac{\sqrt{6}}3
    が得られます。

例題3 

  • 例題2の結果にしたがい、軌道エネルギー準位図とMOの模式図を示せ。

cprmo.gif

縦軸にエネルギーをとって適当に目盛りをふり,エネルギー準位に相当するところに横棒を引きます。E=α-βの軌道は二重に縮重しているので,横に並べてニ本書くか,狭い間隔で二重線を引きます。MOの模式図はLCAO係数の値(大小と正負)に対応した円で描きます。c1, c2, c3が,最初に設定した炭素原子の番号付けとずれないように注意(シクロプロペニルの場合は正三角形なのでたとえずれても実害はありませんが)。正の係数の軌道を白丸,負の係数の軌道を黒丸で表わすのが慣例ですが,逆にしても全く問題ありません。係数の正負は波の位相を表わしていますから相対的な位相差だけ分かれば十分なのです。

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