年次要覧
第69号 2020年度 I. 概要

2. 研究所の特色

2. 研究所の特色

本所は,全体を5つの研究部門(基礎系,機械・生体系,情報・エレクトロニクス系,物質・環境系,人間・社会系)に分けて運営しているが,研究・教育については,各専門分野間の連携,協力あるいは融合が促進されている.また,研究センターや分野横断的研究グループが有機的かつ機動的に組織されている.このような研究グループは,専門分野での学術研究に加えて,複数分野にまたがる共同研究,融合研究あるいは総合的研究が行われる場でもある.研究センターについては,新たな分野横断型課題に対して期間限定でプロジェクトを集中的に遂行するための時限組織であり,学内規則に基づいて設置する「附属研究センター」のほか,「附属研究センター」としての活動期間終了後も世界をリードする研究成果の創出が期待される場合は「所内センター」として組織を残し,継続して研究に取り組める仕組みを設けている.さらに,大型の産官学連携を強力に推進するための「連携研究センター」,国際的連携研究プロジェクトを遂行するための「国際連携研究センター」制度も設けており,活動内容に応じた柔軟な組織体制の構築を実現している.

本所では,分野の壁を越えた先導的学術研究を重視し,教授や准教授,講師が個々に独立の研究室を運営して,自由かつ漸新な発想を活かす研究室制を採用しており,各研究室の中心的研究分野の変化・発展に対応するため,研究室単位で研究内容を適切に表す「専門分野」を設定し,研究の進歩に応じて刷新を行ってきた.研究室制を採用することにより,研究室運営を任された若手教員は,自由な発想を活かすことができる反面,研究員や外部資金など研究環境を整える自主的努力が必要となる.若手教員に要求されるこのような努力を支援するため,研究費の一部を若手教員に優先的に配分する申請・評価制度(選定研究制度,助教研究支援制度)を実施している.

本所は,大学院における講義や研究指導などの教育活動を,大学附置研究所の使命としてとらえ,これを重視し,工学系研究科を中心として,理学系研究科,情報理工学系研究科等において,積極的かつ組織的に教育活動を行っている.本所では多数の研究プロジェクトを国や独立行政法人,国立研究開発法人等から受託しており,本所教員が主体となって推進している.本所では大学院学生を積極的にこうした研究プロジェクトに参加させることにより,いわゆるon-the-job/research trainingを実践し,基礎研究から応用技術までを俯瞰するだけでなく,新しい解決策を生み出す力を持つ研究者・技術者を育成すべく,教育活動を行っている.

また,学部教育にも貢献している.代表的な例としてはUROP (Undergraduate Research Opportunity Program)が挙げられる.UROPは前期課程学生を対象とし,「研究を体験する」という全学自由研究ゼミナールの一つである.受講生は,本所の研究テーマから選択し各研究室に配属され,研究計画を立てて,実際に実験やフィールドワークを行い,研究発表会を行う授業である.

さらに,産業界と連携して次世代の研究者・技術者の育成を行うほか,各種の教育制度により学外から研究員・研究生等を受け入れ,これらの教育・指導を行うとともに,講習会,セミナーなどを通じて,社会人教育にも力を入れている.例えば,「次世代育成オフィスOffice for the Next Generation (ONG)」では産業界と連携して,最先端科学技術の学校教育導入,次世代の研究者・技術者を育成する教育活動・アウトリーチ活動の新しいモデルを創りだすことを目的とし,様々な活動を行っている.社会人教育の例としては,工学の全分野を包括し分野横断的な研究を推進する本所の特徴を活かし,自身の専門分野とは異なる新たな能力を構築したいという意欲をもった企業のエンジニアの方々に門戸を開放し,工学分野における最先端の知識の学習に加え,新事業創成に通じる研究開発の手法を身につけることを目的とした「NExTプログラム(社会人新能力構築支援プログラム)」を実施している.

本所は設立以来,学術研究の社会への還元までを視野に入れた研究活動を使命としており,個別研究室から研究グループ,研究センター,さらには本所全体といった様々なレベルにおいて学内連携のほか,産官学連携,地域連携,国際連携を積極的に推進している.

学内連携については,大学院工学系研究科・工学部,大学院理学系研究科・理学部,先端科学技術研究センター等との学内連携も進めている.一例を挙げると,平成28年度より学内の複数部局等が一定期間連携して研究を行う組織(連携研究機構)の設置が可能となり,平成30年度に本所が主幹となってモビリティ・イノベーション連携研究機構および価値創造デザイン人材育成研究機構を設置したほか,令和2年度においてはマテリアルイノベーション研究センター,次世代知能科学研究センター等に本所教員が参加している.

産学連携は本所の設置理念から本質的な活動の一つと位置づけ,先導的に取り組んでいる.個別研究室における産官学連携,所内研究グループを中核とした産官学連携のほか,寄付研究部門や社会連携研究部門,大型の産官学連携を行うための連携研究センターの設置など,様々な制度を活用して産官学連携を推進している.さらに,平成28年度から,「Fund」制の産学連携研究運営システムを採用し,企業から拠出された研究資金をもとに,本所および企業双方の関係者から構成される運営委員会の管理のもと柔軟かつダイナミックな資金運用による包括的な研究開発を行っている.

国際的レベルで先端的な研究・教育を行うためには,国際連携を図ることが必要不可欠である.本所では専門分野の近い複数の研究室が自発的に協力しあうグループ研究活動が発展し,組織化した研究センターや連携研究センターが設立されている.これらのセンターが核となり海外の研究機関との世界的な研究拠点形成を目指すグローバル連携研究拠点網を構築し,国内外の研究ネットワークの面的・戦略的統合を図り,新たな学術分野の創成を通して学問の進展と社会変化に起因する新たな課題に対応している.外国の諸大学・研究機関との研究協力も活発に行われており,全学協定,部局協定,研究交流推進確認書(Protocol),合意書(Agreement),覚書(MOU)を締結して交流を行うほか,海外拠点・分室も設けている.

また,外国人研究者・研究生・留学生の受け入れも活発に行われている.留学生や外国人研究者が,日本での生活を円滑に送り,安心して研究活動に集中できるよう,様々なサポート体制を用意している.その一環として,日常生活や研究室でのコミュニケーションの向上を目的とした日本語教室を開催している.また,本所と先端科学技術研究センターが連携し行う「駒場リサーチキャンパスInternational Day」には毎年多くの参加者があり,国際交流を深めるイベントとなっている.

近年頻発する自然災害や人口減少,財政悪化など,わが国が解決すべき問題は多い.本所が取り組んできた産学連携,国際連携に続いて,より身近な人や地域に活動の場を広げる地域連携も展開している.設立70周年事業として,日本のロケット開発黎明期におけるロケット開発を中心となって進めた糸川英夫教授が所属していた本所と,その開発にゆかりのある各自治体(千葉県千葉市,東京都杉並区,東京都国分寺市,秋田県由利本荘市,秋田県能代市,鹿児島県肝属郡肝付町)が設立した「科学自然都市協創連合~宇宙開発発祥の地から繋ぐコンソーシアム~」は,最新の科学技術の活用と地域連携を通して,夢と活力ある魅力的な社会を形成することを共通の目的としている.知恵と経験を共有し,自然の脅威に対峙しつつも自然と触れ合い,生き生きとした生活を営めるまちづくりに取り組んでいる.

上述のような各種連携による教育研究の推進・社会への還元だけでなく,本所は研究成果の発信も強く意識している.研究所公開は昭和29年から実施しているほか,広報室が主体となり,研究成果の発信に加え,社会の声を集めて所内に伝える双方向型のコミュニケーションにも努めている.研究センター等においても社会人向けの講座を開催する等,研究成果の普及に努めている.現在は新型コロナウイルス感染拡大により活動に制限が生じているが,国際的にも(一財)生産技術研究奨励会と共同し,本所独自の国際シンポジウム開催や来訪した外国人研究者の講演会を通じて交流する実績を多数有している.

所長の下に2~3名の副所長,10名程度の所長補佐を設け,事務部幹部とともに所長補佐会を構成し,所長の管理・運営・企画業務を補佐する体制をとっている.また,本所における運営企画を具体的に立案する教員集団として企画運営室を,本所の活動評価,連携企画,外部資金獲得などの支援を研究部と事務部との間に立って行うリサーチ・マネジメント・オフィス(RMO)を設置している.審議機関である教授会においては,若手教員の意見を積極的に採り入れるために,教員選考会を除き,講師以上の教員の参加を認めている.本所の運営を機動的に行うために,各種委員会のほかに,所の管理運営方針等を各研究部門に伝達し,意見を聴取し,意思決定に反映する常置委員会として常務委員会を設置している.また,近年は競争的資金の獲得,研究プロジェクトの進捗管理,研究成果のアピールなどの研究活動に付随する業務が増大し,研究時間が減少しつつあることから,専門的な知識と経験に基づいて研究者の研究開発を支援する専門職員の重要性が増している.本所では平成23年に次世代育成オフィス,平成29年に広報室,平成31年に国際・産学連携室を設置し,アウトリーチ,広報,国際・産学連携等のエキスパートを配置することによりこれらの活動を推進している.平成28年に設置した二工歴史資料室では当初の設置目的である東京大学第二工学部等の資料,図書および印刷物の取扱い等の業務のほか,近年は社会連携活動にも注力している.本所には令和2年度末現在,学内認定制度によって認定されたリサーチ・アドミニストレーター(URA)が7名在籍しており,研究者が研究に専念できる環境の実現に寄与している.

研究所は,常に自己改革の努力を行うべきであることは言うまでもない.本所では中期目標期間ごとに第三者評価(外部評価)を行い,本所の研究・教育活動と組織運営について評価いただいている。また,毎年度の各種論文数,招待講演数,受賞数,外部資金獲得額,特許数,マスコミ掲載記事数など各項目に関する教員毎の所内位置の通知を行い,これにより自己評価を促している.さらに,当該年度に満55歳に達する教授を対象として,研究・教育・社会活動等についてのこれまでの取り組みや実績,今後の展望,対象者の研究室の研究動向等を確認,把握し,レビューするとともに,レビューを通じて,対象者がその研究の方向性に関してビジョンを示すことにより,対象者および研究室の活動の一層の賦活を図ることを目的とする教員レビュー制度を導入している.

その他,本所の管理運営および研究活動に対して,産業界の代表的技術者および学識経験者に助言をいただくために,研究顧問制度を設けている.社会および産業界における技術の実態を把握し,本所の使命を達成するため,昭和28年に財団法人(現・一般財団法人)生産技術研究奨励会を設立し,この評議員として学識経験者と産業界の代表的技術者に参加を願い,本所に対して様々な協力・助成などの事業を行っていただいている.なお,生産技術研究奨励会は,平成13年度より(政府)承認TLOとして技術移転業務も担っている.