年次要覧
第70号 2021年度 I. 概要

3. 令和3年度の主な活動内容

3. 令和3年度の主な活動内容

令和3年4月に岡部徹教授が第26代所長として就任し,新しい体制での運営が開始された.岸 前所長,藤井 元所長の方針を踏襲し,着実に発展させる "地味な運営"が心掛けられた一方,新しい取り組みとして本所が「研究者の楽園」であるためにはどうすれば良いのかを構成員自らが考える企画が開催された.具体的には,令和3年7月に企画運営室の主催によりオンラインワークショップ「生研ラクエンアワー」が開催され,「研究者の楽園」に期待することとして,研究時間と研究費を確保するための仕組み,構成員のコミュニケーションを活性化する仕掛け,本所の魅力を高めるための要件,など幅広い意見が出された.令和3年11月の生研サロンでは,研究者が存分に活躍できる場所を研究者の「楽園」と定義し,本所が「楽園」に近づくための意見交換・討論がオンラインにて行われ,特に若手研究者にとっての「楽園像」について,白熱した討論が行われた.分野や立場を超えて,大学に附置された日本最大級の研究所としての在り方を議論する非常に貴重な機会となった.

また,将来構想戦略化ワーキンググループにより,令和2年から令和3年にかけて議論を重ね,本所の「らしさ」を伝えるためのスローガン「もしかする未来の研究所」およびステートメントが策定された.これらは,本所の代名詞として,難解に思われがちな研究や組織と社会とのつながりを増やしていくためのコミュニケーションツールのように機能・流通させることを目指している.

研究組織については,令和2年度末まで附属研究センターとして活動していた持続型エネルギー・材料統合研究センター,マイクロナノ学際研究センター,海中観測実装工学研究センターが令和3年4月より所内センターとして活動を開始した.持続型エネルギー・材料統合研究センターについては令和4年度より水素化や電化など新たな化学・エネルギー源を最大限利用したマテリアル循環,再生可能エネルギーの利用促進のための新材料・新技術開発,持続型社会を支える新材料・エネルギー技術の社会受容性評価に関する研究に取り組み,高度持続型社会に貢献するための基盤構築を目的とし,持続型材料エネルギーインテグレーション研究センターという名称で附属研究センターとして活動することとなった.また,令和3年4月に,科学コミュニケーションの手法を用いてこれまでにない接点を生み出し,工学を社会や市民に開くことで,未知なる課題(未然課題)を発見し工学研究のさらなる進展を促すことを目的としたオープンエンジニアリングセンター,国民各層の災害対応能力を高め,国民の人命と財産を守るために災害対策におけるリーダーを養成することを目的とした災害対策トレーニングセンターが所内センターとして設置された.災害対策トレーニングセンターは大学院情報学環総合防災情報研究センターとも協力して運営されている.令和3年10月には,サイバー空間と,フィジカル空間の境界空間をInterspaceと呼称し,両空間がスムーズに連携し機能するための学理を構成するとともに,その技術実装の開発拠点を形成し,研究開発を地球規模で牽引することを目的にインタースペース連携研究センターが設置され,令和4年度に所内センターへ改組されることとなった.寄付研究部門としては,実空間とサイバー空間との間で,空間記述・認識,操作・制御が滑らかに連携していくことにより,建築・都市を舞台とする現代の経済社会の持続可能性が向上していくための,学理・技術体系を構成していくことを目指す持続可能性志向インタースペース寄付研究部門が令和3年10月に設置された.一方,本所価値創造デザイン推進基盤に蓄積された知や手法に加え人文知を活用し,医療・健康などライフスタイルに関する事柄の動向を洞察しつつ,技術種(シーズ)を未来のライフスタイルに展開していく手がかりを得ていくことを目的として設置された豊島ライフスタイル寄付研究部門は,令和3年9月末の時限到来に伴い活動を終了した.

海外との連携の推進としては,材料科学・ナノテクノロジー分野における共同研究を推進するため,令和3年6月にエックス・マルセイユ大学と部局間協定を締結した.国内における連携の推進については,持続型材料学およびモビリティ分野を中心とする幅広い学術的関心分野の協力を目的として令和3年12月に東京工科大学と学術交流協定を締結した.また,資源開発から電池製造さらにはリサイクルまでのサプライチェーンを見直すとともに,CO2排出量および電池製造コストの大幅低減が可能な新規プロセスを構築することにより,カーボンニュートラルの実現と競争力のあるリチウムイオン電池の社会実装を目指すため,プライムプラネットエナジー&ソリューションズ(株),パナソニック(株),豊田通商(株)と産学連携研究協力協定を締結し,本所および企業の関係者から構成される運営委員会の管理のもと,柔軟かつ弾力的な資金執行・人材配置による包括的な研究開発を行うこととなった.

組織の運営に関する事項としては,令和4年1月に研究顧問懇談会を開催し,産学官の様々な立場でご活躍の19名の研究顧問の方々にご参加いただき,本所教職員との間でオープンなディスカッションが行われ,研究顧問の実体験に基づく評価やアドバイスをいただいたほか,本所独自の取り組みについて評価していただくなど,多くの対話がなされた.自己点検・評価関連については,教員レビュー制度によって3名のレビューを実施した.70周年記念事業の一環として令和元年度から進めている,日本各地が誇る魅力とビジョンを描いた大漁旗を自治体ごとに制作し,東京大学 安田講堂にすべての大漁旗を結集してたなびかせる「日本各地の「魅力」と「願い」をつなぐ大漁旗プロジェクト」は,新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けフィナーレイベントが延期されていたが,無観客ではあったものの令和3年7月に東京大学 安田講堂からオンライン配信によって実施された.その他,国際的な活躍を目指す本所の修士課程学生を支援するための給付型奨学金「Continental UTokyo-IIS Global Engineering Fellowship」をコンチネンタル・ジャパンからの寄付によって立ち上げたほか,連携研究活動に意欲的な本所大学院学生をエンカレッジするための本所独自の賞「UTokyo-IIS Research Collaboration Initiative Award」を新設した.また,藤井総長からSTEAM 人材育成研究会および関連の法人を立ち上げる協力を依頼され,本所の支援により令和3年9月に(一社)学びのイノベーションプラットフォームが設立された.