年次要覧
第70号 2021年度 I. 概要

1. 研究所の概要

1. 研究所の概要

わが国における工学と工業とは,その発達の歴史において,必ずしも相互に密接に連携されていたとは言いがたい.この点に鑑み,本所は,生産に関する技術的諸問題の科学的総合研究に重点を置き,研究成果の実用面への還元をも行うことによって,工学と工業とを結びつけ,わが国の工業技術の水準を高め,ひいては世界文化の進展に寄与することを目的として,昭和24年5月31日公布の国立学校設置法に基づき,同日付で千葉県千葉市に設立された.戦後復興と高度経済成長期を通じて,化学工業や素材産業,建設・土木産業,機械・造船・自動車産業,電子・情報産業などの飛躍的な発展にあわせて,その当時の社会と産業の要請に十分に応えるために,総合的工学基盤の確立ならびに研究成果の実用化の双方を目指した研究開発を進めてきた.特に,産学連携は本所の設置理念から本質的な活動の一つと位置づけ,先導的に取り組んできた.本所の役割を基礎研究から実用化の一歩手前までを手掛ける「中間工場」と位置づけ,短期的な産業化の果実のみを目指すものではなく,現状の産業技術を踏まえて新たな工学を生み出すために必須の洞察作業に取り組んできた.

本所の当初の設立目的は,現在でも清新で意義深いものではあるが,平成16年4月に東京大学が国立大学法人となったことを契機に,多様性と総合性との2軸を明示するために,本所の目的を,「工学に関わる諸課題及び価値創成を広く視野に入れ,先導的学術研究と社会・産業的課題に関する総合的研究を中核とする研究・教育を遂行し,その活動成果を社会・産業に還元することを目的とする」と再定義した.現代社会が抱える諸問題は多岐にわたり,それらに対峙すべき工学に期待される役割は益々大きくなっている.その一方で,技術開発だけに拘ったアプローチでは,社会に広く受け入れられる魅力的な成果物がなかなか生み出せないという状況も従来型の工学が抱える課題である.このような工学単独での対処が難しい状況に対して,大学附置研究所として学術的な真理を探求する姿勢を基本としつつ,本所の伝統的な特徴である垣根のない分野横断・実践的な産学連携・意欲的な国際連携というスタイルに,社会実装までの出口戦略を意識した文理融合の学際的なアプローチを加味して,イノベーションによる魅力的な価値創造に貢献することを目指している.

令和3年度において本所は,基礎系部門,機械・生体系部門,情報・エレクトロニクス系部門,物質・環境系部門,人間・社会系部門,高次協調モデリング客員部門に加えて,大規模実験高度解析推進基盤,価値創造デザイン推進基盤の2推進基盤,光物質ナノ科学研究センター,ソシオグローバル情報工学研究センター,革新的シミュレーション研究センターの附属研究センターおよび所内センターとして次世代モビリティ研究センター,グローバル水文予測センター,持続型エネルギー・材料統合研究センター,マイクロナノ学際研究センター,海中観測実装工学研究センター,オープンエンジニアリングセンター,災害対策トレーニングセンターが,また,大型の産官学連携研究を行う組織として先進ものづくりシステム連携研究センター,インタースペース連携研究センター(令和3年10月設置)が,さらに,海外研究機関の分室等と連携して国際的研究プロジェクトを遂行するための施設としてLIMMS/CNRS-IIS (IRL2820)国際連携研究センターが設置されており,頭脳集約的な高度研究を行っている.

所長は,令和3年4月1日から第26代所長として岡部徹教授が就任している.