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プレスリリース
冷たい雨が作られるしくみを一粒子レベルで観察~結晶ゲル形成の素過程に迫る~

○発表者
田中 肇(東京大学 生産技術研究所 教授)

○発表のポイント
◆液体に分散した粒子に引力が働くと、網目状につながりあったゲル構造が形成される。このゲル化現象は、寒天のように日常的に身の回りで見られる現象である。通常、ゲルの骨格は、粒子が規則性なく固まって形成されるが、ある条件下では内部に規則的に粒子が並んだ結晶が形成され、それらがつながった結晶ゲルへと変化することが知られていた。
◆結晶ゲルの形成過程を一粒子レベルの分解能で観察した。その結果、気体と液体が分離した後、液体中に結晶核が形成され、成長して気体に触れると、気体に溶け込んでいた粒子が表面へ凝結し、表面の滑らかな多孔質の結晶が形成されることが明らかとなった。
◆この機構は、滑らかな表面を持つ多孔質結晶体の簡便な作成法へ指針を与えるだけでなく、過冷却水と氷が混ざる雲の中での氷晶形成(冷たい雨の形成)過程の理解にも貢献すると期待される。

○発表概要
東京大学 生産技術研究所の田中 肇 教授、鶴沢 英世 大学院生(研究当時)、ジョン・ルッソ 特任助教(研究当時、現ブリストル大学講師)、リヨン大学のマチュー・レオクマック 博士の研究グループは、結晶がネットワーク状につながって形成された結晶ゲルの形成の機構を、その全過程を3次元共焦点顕微鏡により一粒子レベル分解能でリアルタイム観察することにより解明した。
まず、コロイド分散系(注1)の気体・液体相分離により形成された、ネットワーク状の液体相の内部に結晶核が形成され成長する。結晶の成長界面が気体相に到達した後は、気体相のコロイド粒子(注2)が結晶表面へ直接凝結することによる成長が主な機構となり、そのため、結晶表面が滑らかになることが明らかとなった。この研究は、結晶性の多孔質物質の形成に新しい道を開くだけでなく、「冷たい雨」の起源となる、過冷却水と氷の混合体を含む雲の中での、氷晶成長過程の微視的なレベルでの解明にも、重要な知見を与えることが期待される。
本成果は2017年7月31日(英国時間)に英科学誌「Nature Materials」のオンライン速報版で公開された。

○発表内容
本研究グループは、均一に分散したコロイド粒子の液体状態から、コロイド粒子間の引力により起きる凝集の過程で、最終的に結晶がつながりあってできた「結晶ゲル」(図1)が形成される素過程を、共焦点レーザー顕微鏡を用いた一粒子レベル分解能でのリアルタイム3次元観察により明らかにした。通常のコロイドゲルは、コロイド粒子がランダムな構造のまま凝集して固まった状態だが、ある条件下で、結晶がつながりあったゲル状態が形成されることが知られていた。一方、どのような条件下で、また、どのような機構で、そのような特異な状態が実現されるのかは未解明であった。研究グループは、この動的な過程を直接観察することに初めて成功し、その結果、まずコロイド粒子の濃度が高い液体相と、濃度の低い気体相に相分離する過程で、液体相のネットワークが形成され、その中に結晶核が形成されること、そして、それが成長して液体ネットワーク構造の表面に達し、直接、気体相と接触すると、液体相と固体相の飽和蒸気圧(注3)差のために、液体相が蒸発し、同時に気体相のコロイド粒子が結晶表面に凝結するという過程が重要となることを発見した。この過程は、過冷却水と氷(氷晶)の混合体を含む雲において、氷晶が急速に成長する過程(ベルゲロン過程)と同じであり、冷たい雨の形成の素過程を微視的レベルで観察した初めての例と言える。このようにして形成された結晶ゲルは、上記の形成過程を反映して滑らかな結晶表面を持っており、また、多孔体を形成し、表面積が極めて大きいため、もし金属原子などでこのような構造が形成されれば、触媒やセンサーなどへの応用上のインパクトも大きいと考えられる。研究グループは、どのような条件を満たせば、この過程を実現できるかについての物理的指針も与えた。これまで、このような結晶からなる多孔体は、2成分からなる系を相分離させ固化したのち、1つの相を溶かして取り除くという2段階の過程で形成されていたが、今回提案された方法を用いると、一段階で多孔体を形成できる可能性があり、今後の応用が期待される。

○発表雑誌
雑誌名:「Nature Materials」(オンライン版英国時間7月31日掲載)
論文タイトル: Formation of porous crystals via viscoelastic phase separation
著者: Hideyo Tsurusawa, John Russo, Mathieu Leocmach, and Hajime Tanaka
DOI番号:10.1038/NMAT4945

○問い合わせ先
東京大学 生産技術研究所
教授 田中 肇(たなか はじめ)
Tel:03-5452-6125 Fax:03-5452-6126
研究室URL:http://tanakalab.iis.u-tokyo.ac.jp/Top_J.html

資料

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図1. 結晶ゲルを構成する個々のコロイド粒子を滑らかな関数(ガウス場)で置き換えることでネットワーク構造の特徴を見やすくした。

用語解説

(注1)コロイド分散系
コロイド粒子が液体に分散した系。

(注2)コロイド粒子
ここでは、大きさ2ミクロン程度の大きさの揃った球形の固体粒子が液体に分散したもの。

(注3)飽和蒸気圧
液体や固体が気体と平衡にあるときの気体の圧力のこと。

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