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【記者発表】充電の心配なく電気自動車で日本中を旅行できる モビリティ社会像を提示 ――高速道路上における走行中ワイヤレス給電の最適配置と経済性を検証――

○発表のポイント:
◆電気自動車(EV)が給電するための、日本の高速道路における走行中ワイヤレス給電システム(WPTS)の最適配置を、数理最適化手法および詳細な地理情報データに基づき厳密に導出。
◆新東名・名神および東北自動車道での検証のいずれでも、わずか50km敷設するだけで95%以上の移動がカバーできることが判明し、インフラとしてのWPTSの高い経済性と実用性を証明。
◆WPTSの配置に高い自由度があることを世界で初めて示し、充電するタイミングと空間を制御することによって、再生可能エネルギー等の有効利用にも貢献できることを提言。

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走行中ワイヤレス給電システムの最適配置と経済性

○概要:
 東京大学 生産技術研究所の本間 裕大 准教授らによる研究グループは、高速道路上における走行中ワイヤレス給電システム(WPTS、注1)の最適配置と経済性を検証し、充電を気にせず電気自動車(EV)で日本中を旅行できるモビリティ社会像を具体的に提示しました。
 低炭素モビリティの進展に重要な役割を果たすEVですが、バッテリーの性能制約による航続距離の問題や充電スタンドの待ち時間が普及の障害となっていました。そこで本研究は、道路に埋め込まれたコイルを通じてEVの走行中充電を可能にするWPTSの、最適配置と経済合理性を、数理最適化手法(注2)を用いて厳密に検証しました。新東名・名神および東北自動車道での詳細な地理情報データを基に行った分析により、WPTSがEVインフラとして魅力的な可能性を持つことを明らかにしました。また,WPTSの配置には高い自由度があり、再生可能エネルギーとも親和性があることなど、低炭素モビリティ社会の未来像に重要な指針を示しています。

○発表内容:
<研究の背景>
 低炭素モビリティへの移行が進む中、電気自動車(EV)はその重要な柱です。しかし、バッテリーの性能制約による短い連続航続距離と充電スタンドでの待ち時間が普及の障害となっています。こうした中、走行中ワイヤレス給電システム(WPTS)という新しいインフラ技術が現実的な解決策として登場しました。この技術は、道路に埋め込まれたコイルからEVに直接電力を供給することで、走行しながらの充電を可能にし、航続距離の不安と充電スタンドでの長い待ち時間を解消します。ただし、長距離移動では敷設が数百キロメートルに及ぶ可能性があり、その経済性に不安がありました。

<研究の成果>
 そこで本間 裕大 准教授、大口 敬 教授、畑 勝裕 助教らの研究チームは、移動可能性と敷設コストの双方を適切に勘案し、日本の高速道路におけるWPTSコイルの最適配置を導出しました。これにより、移動できるEVの台数と、敷設する総コストを最適化することが可能となります。新東名・名神および東北自動車道での実際のデータを用いて精緻に検証した結果、EVインフラとしてWPTSには経済性の観点からも十分に前向きなポテンシャルがあることが示されました。例えば、図1に示すように、新東名・名神(総延長約500km)、東北自動車道(総延長約1,350km)どちらの場合も、片道あたりわずか50kmを敷設するだけで95%以上の移動がカバーできる結果が得られました(EVのバッテリー容量は40kWhと想定)。また,社会全体でのEVの普及率が30%程度になれば、十分に採算性が見込めることも同時に明らかにしています。これにより、EVがガソリン車と同等以上の使い勝手を持てるモビリティ社会像が提示されました。これらの成果は国際誌「Networks and Spatial Economics」に掲載されました。

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図1 需要の95%をまかなう走行中ワイヤレス給電の最適配置例(バッテリー容量40kWhを想定)

 さらに、WPTSコイルの最適配置には様々なパターンがあり、配置の自由度が高いことも、世界で初めて明らかにしました。例えば、図2に示す2つの配置は、そのパターンが全く異なりますが、全く同じ社会的性能を実現できることが判明しました。配置に自由度があることは、充電の時間的なタイミングや空間的な場所を柔軟に制御できることを意味します。これは再生可能エネルギー等を活用したスマートエネルギー戦略へも有効です。日中に多くのEVが走行している場所にコイルを設置すれば、日中、太陽光発電によって余剰となっている電力を有効利用できます。また、風力発電等が設置されている地域にコイルを配置すれば、電力供給の地産地消にも貢献できます。

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図2 走行中ワイヤレス給電・最適配置の自由度がもたらすスマートエネルギー戦略への貢献

<将来の展望>
 WPTSと充電スタンドの併用を前提とした場合でも,WPTSを導入することにより、充電スタンドの設置台数を節約することが期待できます。ほとんどの移動はWPTSで容易にカバーできるので、ごくわずかな超長距離移動のみを充電スタンドで補完すれば良い、という未来が描けます。このようなEVインフラのベストミックス戦略を想定することによって、充電の心配なくEVで日本中を旅行できるモビリティ社会像が導かれます。今後は、市街地での移動も含めた、日本全国の道路網全体でのさらなる精緻な検証を予定しています。

○発表者・研究者等情報:
東京大学
 生産技術研究所
  本間 裕大 准教授
  大口 敬 教授
  畑 勝裕 助教

 不動産イノベーション研究センター
  長谷川 大輔 特任助教(研究当時:東京大学 生産技術研究所 本間(裕)研究室 特任助教)

○論文情報:
〈雑誌名〉Networks and Spatial Economics
〈題名〉Locational Analysis of In-motion Wireless Power Transfer System for Long-distance Trips by Electric Vehicles: Optimal Locations and Economic Rationality in Japanese Expressway Network
〈著者名〉Yudai Honma, Daisuke Hasegawa, Katsuhiro Hata & Takashi Oguchi
〈DOI〉10.1007/s11067-023-09608-w

○研究助成:
 本研究は、科研費「基盤研究(B)(課題番号:21H01563)」の支援により実施されました。

○用語解説:
(注1)WPTS
 電気自動車(EV)が走行中に電力をワイヤレスで受け取る技術です。このシステムは、道路に埋め込まれたコイルから電磁場を通じて、車両に搭載された受信コイルに電力を伝送します。これにより、EVが移動する間にバッテリーを充電でき、充電のための停車時間を削減し、電気自動車の利便性と航続距離を向上させることが可能になります。

(注2)数理最適化手法
 特定の制約条件の下で、目的関数を最大化または最小化するような変数の最適な値を見つけ出すためのアプローチです。ここでは走行中ワイヤレス給電システムの配置問題において、どの地点に給電装置を設置するかという意思決定を最適化するために当該手法を用いています。

○問い合わせ先:
東京大学 生産技術研究所
准教授 本間 裕大(ほんま ゆうだい)
Tel:03-5452-6379
E-mail:honmalab(末尾に"@iis.u-tokyo.ac.jp"をつけてください)

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