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生分解性ポリマーのナノファイバーを用いた、従来の試験紙(ろ紙)に代わる新たなセンサーシートの作製に成功

○概要:
 このたび東京大学 生産技術研究所の 金 範埈 教授、東京大学 大学院工学系研究科修士課程のス チェンソング大学院生、東京大学 生産技術研究所 朴 鍾淏 助教、ボンファント グウェナエ国際協力研究員(研究当時)、バンサン サル国際研究員(リヨン大学 准教授)の研究グループは、既存の紙の試験紙に代わり、新たな比色アッセイ(注1)用の基板として生体分解性のポリマー(Polycaprolactone, PCL)のナノファイバーで作製したセンサーシートを開発しました。従来、抗体、酵素のような特定のターゲット物質の検出を目的としたバイオセンサーではセンサーの基板として紙が使われています。例えば、血糖値や妊娠検査、COVIDやインフルエンザ抗原キットには、ろ紙基板が使用されています。今回、研究グループが開発したセンサーシートは、既存の紙基板を用いるポイントオブケア(注2)検査機器の紙の代わりとして使え、更にターゲットをより敏感に検出することできるため、今後のウェアラブルバイオセンサーへの応用(例えば、マイクロニードルパッチと組み合わせた日常グルコースセンシング)が期待されます。

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○研究の背景:
 紙ベースのセンサー基板は、安価で高い吸収性を持ち、抗原検査キット等、ポイントオブケアデバイスで使用されています。 しかし、再現性や試薬の固定化が難しい等、比色アッセイ用途では様々な問題がありました。

○研究内容:
 エレクトロスピニング技術(注3)を用いて色素を有するPCL溶液を繊維状に噴射することよりマイクロナノ寸法の繊維でできたセンサーシートを作製しました。本手法によりシート内部構造の制御が可能となると共に、紙より緻密な構造が作れてより高い表面積と機械的強度を持つシートが得られました。その結果、色素がより安定に固定化され、高感度(検出限界:0.63 mM)・高再現性のセンシングが実現されました。

○今後の期待される展望:
 作製したセンサー基板とマイクロニードルアレイパッチを組み合わせ、高感度の比色アッセイ、新しいポイントオブケア用パッチの実現が期待されます。多くのバイオマーカーを有する皮膚の細胞間質液(ISF)をマイクロニードルで抽出し、開発したセンサー基板を用いてその場でバイオアッセイ(注4)が行えます。今後、ヘルスケアモニタリングやポイントオブケアデバイスとして幅広く応用され、診断デバイスとして国民の疾病予防にも貢献できると考えられます。

○用語説明:
(注1)比色アッセイ
 物質の濃度を試験紙の色の変化で検出したり表示すること

(注2)ポイントオブケア
 臨床現場で即時の検査, Point-of-care-testing

(注3)エレクトロスピニング技術
 電界紡糸技術

(注4)バイオアッセイ
 化学物質に対する生物の反応をみることで、その化学物質の検出、濃度の確認、有害性などを評価すること

○論文情報:
〈雑誌〉Biomedical Microdevices
〈題名〉Fabrication of an electrospun polycaprolactone substrate for colorimetric bioassays
〈著者〉Chensong Xu,Gwenaël Bonfante,Jongho Park,Vincent Salles、Beomjoon Kim
〈DOI〉 10.1007/s10544-023-00673-z

○問い合わせ先:
東京大学 生産技術研究所
教授 金 範埈(きむ ぼむじゅん)
Tel:03-5452-6224
E-mail:bjoonkim(末尾に"@iis.u-tokyo.ac.jp"をつけてください)

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