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プレスリリース
【記者発表】3次元構造を持つサブナノサイズ金属クラスター分子の高効率的合成に成功 ―平面構造を適切なリンカーで連結し次元性拡張―

○発表者
砂田 祐輔(東京大学 生産技術研究所 准教授)
島本 賢登(東京大学 大学院工学系研究科応用化学専攻 修士課程2年生)

○発表のポイント
◆3次元構造を持つサブナノサイズ(1ナノメートル未満)パラジウムクラスター分子の選択的・高効率的な合成に成功しました。
◆折れ曲がった平面状構造を持つ金属クラスター分子を合成し、折れ曲がった平面を適切なリンカーで連結することにより、3次元構造へ拡張しました。
◆本手法は、プラットホームとして用いた多様な有機ケイ素化合物が容易に入手可能であることから、拡張性の高い合成方法論といえます。3次元構造を持つさまざまな金属クラスター分子の開発と、それらの触媒や機能性材料としての応用展開が期待されます。

○発表概要
 東京大学 生産技術研究所の砂田 祐輔 准教授、島本 賢登 大学院生らの研究グループは、3次元構造を持つサブナノサイズのパラジウムクラスター分子の選択的・高効率的な合成に成功しました。
 サブナノ~ナノオーダーのサイズの多数の金属原子から構成された金属集積体(クラスター;注1)は、単一の金属からなる化合物や、バルクの金属(注2)とは異なる特異な化学的・物理的性質を示すことが知られています。これらは、触媒や機能性材料としてなどさまざまな分野で活用されている物質群です。近年、分子状の金属クラスターの合成と活用に関する研究が世界的に活発に行われています。しかし、目的とする構造・サイズ・金属核数・金属配列をもつ金属クラスター分子のみを選択的かつ高収率で合成する手法は未だ極めて限定的です。特に、3次元構造を持つ金属クラスター分子の効率的な合成法は未開拓でした。
 今回、当研究室が独自に開発した、有機ケイ素化合物を金属種の集積のためのプラットホームとして活用する手法に立脚することで、折れ曲がった平面状構造を持つ金属クラスター分子を合成しました。さらにこの知見を基に、折れ曲がった平面を適切なリンカー(注3)で連結することにより、3次元構造へ拡張しました。本手法は、プラットホームとして適用可能な多様な有機ケイ素化合物が容易に入手可能であることから、拡張性の高い合成方法論といえます。3次元構造を持つさまざまな金属クラスター分子の開発と、それらの触媒や機能性材料としての応用展開が期待されます。
 本研究成果は2019年2月14日にドイツのWiley・VCH社が出版する総合化学雑誌である「Chemistry - A European Journal」に掲載されました。

○発表内容
 サブナノ~ナノサイズの金属集積体は、固有の特異な性質を示すことが知られており、身の回りのさまざまな分野で活用されています。例えば、パラジウムや白金などの貴金属原子がナノサイズの球状に集積された金属ナノ粒子は、自動車用などの燃料電池用触媒や、さまざまな化成品合成用の触媒として用いられるなど、優れた機能性材料として多くの分野で活用されています。
 金属クラスターは、その全体構造・サイズ・金属核数・金属配列などのパラメーターにより化学的・物理的性質が決定されます。そのため、それらを精密に制御できる分子合成技術に立脚したクラスター分子の合成法の開発が活発に進められています。その一つの例として近年、金属種を捕捉可能な部位をもつ化合物を鋳型分子とする金属集積法が開発され、1次元および2次元構造を持つクラスター分子の合成が実現されてきました。しかし従来法では、適用可能な鋳型分子に制限があるため、2次元構造を持つ金属クラスター分子の合成例は未だ少なく、また3次元構造を持つ金属クラスター分子の合目的な合成は未開拓でした。
 東京大学 生産技術研究所の砂田 祐輔 准教授、島本 賢登 大学院生らの研究グループは、独自に開発した、有機ケイ素化合物を金属種集積のためのプラットホームとして活用する手法に立脚することで、折れ曲がった平面状に4原子のパラジウム種が配列されたクラスター分子の合成を行いました。さらにこの知見を基に、リンカー部位による2つの折れ曲がり平面の連結に基づく次元性拡張により、3次元構造を持つパラジウムクラスター分子の選択的かつ高効率的な合成に成功しました。
 当研究室では、有機ケイ素化合物を金属種を捕捉とする鋳型分子として活用した金属集積法の開発を行っています。例えば、パラジウム前駆体であるPd(CNtBu)2は、有機ケイ素化合物のケイ素―ケイ素(Si-Si)結合などに対し挿入します。そこで本研究ではまず、直鎖状構造を持つ有機ケイ素化合物とPd(CNtBu)2との反応を行いました(図1,式1)。その結果、の2つのSi-Si結合へのパラジウム種の挿入、さらに2原子のパラジウム種の集積により、計4原子のパラジウムが折れ曲がった平面状に配列されたクラスター分子が高収率で得られることを見出しました。このクラスターの構造において、1つのシリレン(注4;SiPh2)部位が折れ曲がった平面構造を上から支える役割を担っていることを、単結晶X線構造解析(注5)から明らかにしました(図2(a))。
 そこで次に、2つのSiPh2部位を持ち、かつ金属間を架橋するリンカーとして機能しうる塩素(Cl)原子部位を併せ持つ有機ケイ素化合物を用いて、Pd(CNtBu)2との反応を行いました(図1,式2)。その結果、6つのパラジウム原子から構成され、辺共有四面体(edge sharing tetrahedra)構造を持つクラスターのみが定量的に得られることを見出しました(図2(b), (c))。このクラスター生成の模式図を図3に示しますが、ケイ素化合物に由来する2つのシリレン部位が、それぞれパラジウム4原子を含む折れ曲がった平面を構築し、これを2つの塩素原子が連結することで、クラスターが形成されたとみなすことができます。各種スペクトル測定の結果、本反応ではクラスターのみが選択的に構築されていることが確認されました。
 本研究によって、まず2次元状に金属種を配列させ、適切なリンカーで連結することで3次元へと構造拡張が可能であることを明らかにし、3次元構造を持つ金属集積体合成の新手法を開発しました。クラスターおよびは、いずれもパラジウム前駆体と有機ケイ素化合物を室温下で撹拌するのみで簡便に合成できるという点も本手法の特徴のひとつです。また本手法は、プラットホームとして用いた有機ケイ素化合物, を含め、多様な有機ケイ素化合物が容易に入手可能であることから、拡張性の高い合成方法論といえます。
 今後は、得られたパラジウムクラスター分子の機能開発や、本手法を応用した多様な金属クラスター分子の開発、合成方法論の一般化を行います。例えば、パラジウムは多様な触媒機能を示す元素ですが、今回合成したクラスターは、広い比表面積を有していることが単結晶X線構造解析などから明らかになっており、この性質を利用した高活性触媒としての応用などを行う予定です。
 本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業の基盤研究(B)、サムコ科学技術振興助成、東京大学生産技術研究所(選定研究)の支援を受けて行われました。

○発表雑誌
雑誌名:Chemistry - A European Journal
論文タイトル:Dimensionality Expansion of Butterfly-shaped Pd4 Framework: Constructing Edge-Sharing Pd6 Tetrahedra
著者:Kento Shimamoto, Yusuke Sunada
DOI:10.1002/chem.201805678

○問い合わせ先
東京大学 生産技術研究所 
准教授 砂田 祐輔(すなだ ゆうすけ)
Tel:03-5452-6361
研究室URL:http://www.sunadalab.iis.u-tokyo.ac.jp/

○用語解説
注1)クラスター:
 複数の金属が金属―金属間の相互作用を形成しつつ集積された化合物の総称。

注2)バルクの金属:
一般的な塊状の金属など、大きなサイズの金属材料のこと。

注3)リンカー:
 複数の部位を連結するパーツのこと。本研究では塩素原子が2つのパラジウム原子を連結するリンカーとして機能している。

注4)シリレン:
 2つの置換基を有するケイ素部位。また、本研究ではフェニル基(C6H5基;Ph基)を有するケイ素化合物を用いている。

注5)単結晶X線構造解析:
 合成した化合物の単結晶に対し、X線を照射し回折点を収集し解析することで、分子構造を決定する方法。

○添付資料

図1:パラジウムクラスター, の合成


図2: (a) 4つのパラジウムが折れ曲がった平面状に配列されたクラスターの分子構造、(b) 6つのパラジウムが辺共有四面体を形成したクラスターの分子構造の全体図、(c) クラスターの中心骨格の拡大図


図3: クラスター形成の模式図

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