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【記者発表】水とシリカ:似て非なるもの

○発表者
田中 肇(東京大学 生産技術研究所 教授)

○発表のポイント
◆地球上においてそれぞれ液体・固体として最も豊富に存在する水とシリカの類似性と相違について研究を行い、その物理的な起源を解明することに成功した。
◆熱的な揺らぎに隠れた液体の構造を、粒子の配置に関する位置と方位に関する情報を用いるとともに、水分子を構成する水素と酸素、シリカのケイ素と酸素の結合を考慮して解析することで、これまで見ることができなかった微視的な構造を明らかにした点に新奇性がある。
◆この発見は、長年の未解明問題であった水とシリカの物性の類似性とガラスになりやすさの大きな差を説明しただけでなく、他のテトラヒドラル液体の理解や、これらの物質のガラス形成能の意図的な制御にも新しい道を拓いたという意味で、応用上のインパクトも大きいと期待される。

○発表概要
東京大学 生産技術研究所の田中 肇 教授、シー・ルイ(Rui Shi)特任研究員の研究グループは、地球上においてそれぞれ液体・固体として最も豊富に存在する水とシリカ(二酸化ケイ素、注1)の類似性と相違について研究を行った。水とシリカは、ともに局所的に四面体構造を形成する傾向が強く、温度冷却時に密度が最大になる温度が存在するなど、似た物性を示すことが古くから知られていた。一方、水とシリカは、ガラス状態になりやすさという点では、水が極めてガラスになりにくいのに対し、身近にあるさまざまな硝子製品の主成分であるシリカは、容易にガラス状態になる。これらの類似性・相違点は古くから知られてきたが、その理由は長年の研究にも関わらず未解明であった。同研究グループは、その鍵を握る、水とシリカの局所的な液体構造の類似性と相違点をあぶりだすことに成功した。この成果は、水とシリカという最も身近な液体の基本的性質を明らかにしたのみならず、他のテトラヒドラル液体注2の理解や、これらの物質のガラス形成能の意図的な制御にも新しい道を拓いたという意味で、応用上のインパクトも大きいと期待される。
本成果は2018年2月8日(米国東部時間)に米国アカデミー紀要「Proc. Natl. Acad. Sci. USA」のオンライン速報版で公開された。

○発表内容
東京大学 生産技術研究所の田中 肇 教授、シー・ルイ特任研究員の研究グループは、地球上においてそれぞれ液体・固体として最も豊富に存在する水とシリカの類似性と相違について研究を行った。水とシリカは、それぞれ水素結合、イオン性・共有結合によって局所的にテトラヒドラル構造を形成し、同じ対称性を持った結晶構造を持つ、温度冷却時に液体の密度が最大になる温度の存在、圧力上昇時に液体の粘性が最小になる圧力の存在など、似た熱物性・動的特性を持つことが古くから知られていた。一方、水とシリカは、そのガラス形成能という面では、全く異なった性質を示す。水は、極めてガラス状態になりにくく、通常の冷却方法では、-50度に到達する前に必ず氷になってしまい、ガラス状態を形成することは困難である。一方、シリカは、ゆっくり冷却しても容易にガラス状態になり、人類はこの性質を古くから使ってきた。しかしこれらの類似性・相違点がどのような物理的起源に起因するのかは、長年の研究にもかかわらず未解明であった。同研究グループは、液体における構造化を、中心粒子から見たときの周りの粒子の並び方として捉え、特に中心からの距離の秩序と方位の秩序に着目し、これらの秩序に関し二つの原子種両方について研究することで、液体の中に形成される局所的な構造秩序をあぶりだすことに成功した。水分子の場合、分子内が共有結合、分子間が水素結合とエネルギースケールの異なる結合で安定化されており、水分子自身のもつ構造の自由度が小さいため、酸素のみならず水素にも方向秩序が存在する。一方、シリカの場合には、すべての結合が共有・イオン結合により安定化されているため酸素のとり得る配置の自由度が大きく、その方位秩序が低い。その結果、水とシリカの間には、距離の秩序に関して類似性があるものの、方位の秩序に関しては大きな違いがあり、それらがそれぞれ、上述の水とシリカの結晶構造、密度異常、粘性異常などの類似性とガラス形成能の大きな相違の物理的起源であることが明らかになった。この成果は、水とシリカという最も身近な液体の基本的性質を明らかにしたのみならず、テトラヒドラル液体の理解や、ガラス形成能の意図的な制御にも新しい道を拓いたという意味で、応用上のインパクトも大きいと期待される。

○発表雑誌
雑誌名:「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS、米国科学アカデミー紀要)」
論文タイトル:Impact of local symmetry breaking on the physical properties of tetrahedral liquids
著者:Rui Shi and Hajime Tanaka
DOI番号:10.1073/pnas.1717233115

○問い合わせ先
東京大学 生産技術研究所 
教授 田中 肇(たなか はじめ)
Tel:03-5452-6125 Fax:03-5452-6126
研究室URL:http://tanakalab.iis.u-tokyo.ac.jp/Top_J.html

資料

 

図1 水とシリカ:地球上に最も豊富に存在する液体と固体
図1 水とシリカ:地球上に最も豊富に存在する液体と固体。

用語解説

(注1)シリカ
二酸化ケイ素(SiO2)、もしくは二酸化ケイ素によって構成される物質の総称。

(注2)テトラヒドラル液体
水、シリカのように、方向性の強い分子間・原子間結合により局所的に正四面体型の構造が安定化される液体の総称で、他にもシリコンやゲルマニウムがこれに属する。興味深いことに、これらは、人類にとって、どれも重要な物質である。


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