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【記者発表】体内のビタミンCの挙動を追跡する蛍光バイオイメージング技術を開発 ~ がん治療法「高濃度ビタミンC療法」への有用な知見 ~

○発表者
石井 和之(東京大学 生産技術研究所 教授)

○発表のポイント
◆必須栄養素のビタミンC(アスコルビン酸)は、高濃度で投与するとがん治療に効果的であることが近年報告され、注目されている。
◆ビタミンCを高感度かつ適度な選択性で検出する蛍光プローブを新たに開発し、マウスに投与されたビタミンCの挙動を追跡することに初めて成功した。
◆ビタミンCがどの臓器に輸送されるかを知ることができ、高濃度ビタミンC療法への有用な知見が得られるとともに、生体内で失われやすい蛍光プローブの活性を維持する、新たな分子設計指針となることが期待される。

○発表概要
近年、必須栄養素であるビタミンC(アスコルビン酸、注1)を高濃度で投与すると、がん治療などに効果的であることが報告され、注目されている(注2)。しかし、これまでにビタミンCを検出する効果的な蛍光プローブは開発されておらず、生体内のビタミンCの挙動は解明されていなかった。
東京大学 生産技術研究所の石井 和之 教授らの研究グループは、生体内で長時間活性を維持し、高感度かつ高い選択性でビタミンCを検出する蛍光プローブを新たに開発した。それにより、静脈から投与されたビタミンCを、マウスを解剖することなく可視化することに初めて成功した。蛍光プローブとして、赤色蛍光色素分子フタロシアニン(注3)と安定有機ラジカル分子(注4)を結合させた分子システムを開発した(図1)。ラジカル分子がビタミンCと反応後、フタロシアニンが赤色蛍光を示すことで、ビタミンCを検出できる。さらに、血清アルブミンという血液中で最も豊富なタンパク質の二量体で包むことにより、生体内におけるビタミンCとの反応がさらに効率化し、選択性も向上した(図2)
本研究成果により、投与されたビタミンCが、活性を持った状態でどの臓器に輸送されるかを知ることができ、高濃度ビタミンC療法への有用な知見が得られると期待できる。さらに、今回開発したアルブミン二量体との複合化法は、生体内で失われやすい蛍光プローブの活性を維持する、新たな分子設計指針となり得る。
本研究成果は2018年1月24日(英国時間)に英国Nature Publishing Group発行の「Scientific Reports」オンライン版に掲載された。

○発表内容
必須栄養素であるビタミンCは、生体内で抗酸化作用を示す。また、薬理学的濃度に達するとがん細胞を選択的に殺すことが報告されて以降、新しいがん治療法の確立をめざした研究が進んでいる。血漿中のビタミンC濃度を高めることが重要なため、経口投与ではなく静脈に点滴投与するがん治療法が提案されており(高濃度ビタミンC療法)、さまざまながんに対して試みられ、成功事例も報告されている。しかし、静脈投与されたビタミンCが、"どの臓器に分布しやすく、抗がん作用を与えるか"については未解明で、効果的な治療法の確立に向け、生体内のビタミンCの可視化技術が求められていた。
蛍光プローブを用いるバイオイメージング技術は、リアルタイム・高感度・高解像度・非侵襲的に生体内物質を検出することができる有用な手段である。例えば、安定有機ラジカル(周囲の蛍光色素分子からの蛍光を抑えるが、ビタミンCとの反応後にはその性質を失う)と蛍光色素を結合させた分子システムは、ビタミンC検出用蛍光プローブの有力な候補と考えられており、溶液中などにおいて研究されてきた。しかし、このような蛍光プローブを用いてマウスなどの小動物の体内のビタミンCを可視化するためには、①光吸収波長・蛍光波長はともに、生体組織透過性が高い(注5)650nm以上であること、②安定有機ラジカルは、さまざまな生体内酸化還元物質との反応から保護されながらも、ビタミンCとは効率良く反応することなどが必要である。①の条件を満たす蛍光プローブとして、本研究グループが開発してきた分子R2c(図1、生体組織透過性が高い赤色光を吸収し、赤色蛍光を示すフタロシアニン蛍光色素を利用)が挙げられるが、②の要求を満たす適切な蛍光プローブはこれまでになかった。
東京大学 生産技術研究所の石井 和之 教授、横井 孝紀 大学院生(研究当時) 、片山化学工業(株) 大谷 敬亨 博士の研究グループは、高感度かつ生体環境に適した選択性を示すビタミンC検出用蛍光プローブを新規に開発し、静脈から投与された、マウス中のビタミンCをイメージングすることに初めて成功した。R2c分子をタンパク質 血清アルブミン二量体で包むことにより、"ビタミンCとの効率良い反応(従来に比べ、100倍以上高感度)"と"他のさまざまな生体内酸化還元物質からの保護"を両立させており、この性質は、偶然発見されたものである(図2)。今回開発した蛍光プローブを、静脈からマウスに注射した後、ビタミンCを静脈から注射すると、数分以内に肝臓、心臓、肺および胆嚢周囲の蛍光が増大した(図3)。これより、静脈から投与したビタミンCが、活性な状態で、これらの臓器に効率良く輸送されたことをリアルタイムで観測することに初めて成功した。
本研究成果により、投与されたビタミンCが、活性な状態で、どの臓器に輸送されるかを知ることができるようになるため、高濃度ビタミンC療法への有用な知見が得られると期待できる。さらに、今回偶然発見されたアルブミン二量体との複合化法は、生体適合性・選択性付加の観点から、蛍光プローブ開発における新たな分子設計指針として大変有用であると考えられる。

○発表雑誌
雑誌名:「Scientific Reports」
論文タイトル:In vivo fluorescence bioimaging of ascorbic acid in mice: Development of an efficient probe consisting of phthalocyanine, TEMPO, and albumin
著者:Takanori Yokoi, Takayuki Otani, Kazuyuki Ishii
DOI番号:10.1038/s41598-018-19762-8

○問い合わせ先
東京大学 生産技術研究所 
教授 石井 和之(いしい かずゆき)
Tel & Fax:03-5452-6306
研究室URL:http://www.k-ishiilab.iis.u-tokyo.ac.jp/HP_top.html

資料

 

図1 蛍光分子R2cの構成とビタミンCとの反応機構
図1 蛍光分子R2cの構成とビタミンCとの反応機構(フタロシアニンの周辺置換基は省略)

 

図2 今回開発した蛍光プローブの構造
図2 今回開発した蛍光プローブの構造
R2c(オレンジの球)は、血清アルブミン(緑のひも状の部分)の疎水性領域(青い部分)に取り込まれ、周囲の酸化還元物質から守られている。

 

図3 蛍光プローブを利用したマウス中におけるビタミンCの蛍光イメージング
図3 蛍光プローブを利用したマウス中におけるビタミンCの蛍光イメージング

用語解説

(注1)ビタミンC
生体内における機能として、(1)アミノ酸生合成への利用、(2)副腎からのホルモン分泌、(3)脂肪酸をミトコンドリアに運ぶための担体であるL-カルニチンの合成、(4)抗酸化作用などがあり、重要な役割を果たしている。また、ビタミンC不足により壊血病の症状(歯のぐらつき・血管の脆弱化・皮膚からの出血・怪我の回復や免疫機能の低下・軽度の貧血など)を呈するようになる。ヒトはビタミンCを体内で合成できないため、必要量を全て外部から摂取しなければならない。

(注2)高濃度ビタミンC投与
2005年に「薬理学的濃度のアスコルビン酸はがん細胞を選択的に殺す」という論文(※)が発表されて以降、高濃度のビタミンCを点滴することががん治療に有効であるという結果が報告されており、注目されている。
※Qi, C. et al. Pharmacologic ascorbic acid concentrations selectively kill cancer cells: action as a pro-drug to deliver hydrogen peroxide to tissues. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102, 13604-13609 (2005). DOI:10.1073/pnas.0506390102

(注3)フタロシアニン
さまざまな場面で利用されている青・緑色の染料・顔料であるとともに、多様な応用の観点(光記録媒体、光伝導体、太陽電池、光がん治療など)からも注目される光機能性分子である。

(注4)安定有機ラジカル分子
不対電子スピン(電子の磁気的性質の根源)を安定に有し、常磁性を示す有機分子。通常の有機分子(電子スピンが対となり、反磁性を示す)とは、異なる磁気的性質を示す。この磁気的性質の変化により蛍光が消光される。

(注5)生体組織透過性が高い光
650nm~900nmの波長の光は生体組織透過性が高い。


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