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【記者発表】日米欧の電力網の周波数変動を国際協力で解析:再生可能エネルギーや電力取引量の増大に備えるための数理モデルも構築

○発表者
ベンヤミン・シェーファー (ドレスデン工科大学、マックス・プランク動力学・自己組織化研究所)
クリスチャン・ベック (ロンドン大学クイン・メアリーカレッジ)
合原 一幸 (東京大学 生産技術研究所)
ディルク・ヴィッタウト (ユーリヒ総合研究機構、ケルン大学)
マーク・ティンメ (ドレスデン工科大学、マックス・プランク動力学・自己組織化研究所)

○発表のポイント
◆北アメリカ、ヨーロッパおよび日本の電力網で観測された周波数変動のビッグデータを解析することにより、実際の周波数変動が、通常想定されていた正規分布(ガウス分布)よりも大きな変化が生じ得る非正規分布特性を有することを明らかにした。
◆再生可能エネルギーや電力取引の導入が、大きな周波数変動の要因となり得ることを示すとともに、得られた電力網周波数の非正規分布変動特性を数学的に説明する数理モデルを構築した。
◆本成果は、今後再生可能エネルギーや電力取引が増すと予想される日本の電力網の安定性、最適性や制御・運用を考える上で、重要な基盤を提供するものと期待される。

○発表概要
私たちの日常生活は、電力網を通じた信頼性の高い電力供給に支えられているが、近年電力需給の状況が変化し、新しい問題が生まれている。例えば、電力網を小さなマイクログリッドに分割して、風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーを組み込み、各々のマイクログリッドをほぼ独立に運用することなどが提案されている。エネルギーの消費量と供給量の変動は、周波数の変動につながる。周波数が大きく変動すると電子デバイス装置などがダメージを受けるため、これを避ける必要があるが、電力網の分割と再生可能エネルギーや電力取引の増加が電力網にどのような影響を与えるかの詳細は、明らかになっていなかった。
東京大学 生産技術研究所の合原 一幸 教授は、ドイツおよびイギリスと国際共同研究を行い、北アメリカ、ヨーロッパおよび日本の電力網で観測された周波数時間変動のビッグデータを用いて、その変動の統計的特性を解析した。その結果、従来想定されていた正規分布(ガウス分布)よりも大きな周波数変動を伴う非正規分布特性を示すことを明らかにし、その数理モデルを構築した。また、再生可能エネルギーや電力取引の導入が、このような大きな周波数変動の要因となり得ることを明らかにした。
今後日本では、再生可能エネルギーや電力取引が増えることが予想される。日本の電力網を安定性や最適性を考慮しながら効率的に制御・運用していく上で、本成果は重要な基礎的知見を提供するものと期待される。
本研究成果は、英科学誌「ネイチャー・エナジー」に1月8日(英国時間)、論文が掲載された。

○発表内容
<背 景>
ヨーロッパの電力網は、50ヘルツ(Hz)の基本周波数で運用されている。ところが、例えば工場が稼働して新たに電力を消費し始めると、発電機によって追加電力が供給されるまで、周波数は短時間わずかに低下する。電力網の周波数が大きく変動すると電子デバイス装置などがダメージを受けるため、大きな周波数変動は避ける必要がある。
このようなエネルギー消費量の急激な変化が起こす周波数変動に加えて、エネルギー供給量の急激な変化も周波数変動を起こす。特に、再生可能エネルギーは天候の影響を受けて変動するため、新たな周波数変動の原因となり得る。風力発電は予測不能な風況変化に、また太陽光発電は雲の動きなど日照条件の変化に、大きく影響されるからである。そこで、本国際研究チームは、「再生可能エネルギーや電力取引は電力周波数に大きな変動を起こすか?」という問題を考察した。

<内 容>
上記の疑問に答えるため、それぞれ異なる電力需給の状況下にある、ドイツ、フランス、イギリス、フィンランド、マヨルカ島(スペイン)、日本、アメリカの電力網周波数の時間変化に関するビッグデータを解析した。ここで、ドイツは多くのヨーロッパ諸国と統合電力網で結ばれており、フィンランドも北欧電力網に含まれている。また、アメリカは、多数の領域に分割されているが、カナダの一部を含む最も大きなEastern Interconnectionの計測データを用いた。
これらの電力網の周波数変動ビッグデータの解析により、下記の結果が得られた。

■電力取引は周波数変動をもたらす
1つ目の重要な結果は、ヨーロッパのデータで15分毎の大きな変動が見られたことである(図1)。この周期は、電力スポット市場による新規の電力供給の時間間隔に対応する。すなわち、ヨーロッパの電力網の周波数変動は、電力取引の影響を強く受けていることが明らかとなった。

■変動特性を説明する数理モデルを構築
2つ目の重要な結果は、周波数の変動の統計的特性が、通常想定される正規分布(ガウス分布)とは大きく異なっていたことである。特に、正規分布では生じ得ないような大きな変動(ヘビーテール)と分布の非対称性が広く観測された。
そこで、この観測結果を再現できる数理モデルを構築した。この数理モデルを用いれば、電力網の規模に依存してどの程度大きな周波数変動を生じるかなどの問題を理論的に定量評価することができるため、電力網運用計画や制御に活用できると期待される。

■小さな電力網は、より大きな周波数変動を示す
マヨルカ島のような小さな電力網は、ヨーロッパ大陸の電力網のような大きな電力網より大きな周波数変動を生じることが、データ解析と数理モデルの両方で示された。したがって、大きな電力網を小さなマイクログリッドに分割すると周波数変動が大きくなると予想される。今後、アイルランドやアイスランドなどのデータやマイクログリッドのデータを用いてより詳しい検証を進めることが必要である。

■再生可能エネルギーの増加も周波数変動を生み出す
さらに、異なる電力網の比較により、再生可能エネルギーの増加は、大きな周波数変動を生み出すことが明らかとなった。例えば、風力発電量と太陽光発電量の割合の大きいイギリスでは、アメリカと比べて大きな周波数変動が見られた。したがって、多くの再生可能エネルギーを導入するためには、そのための制御やデマンドレスポンスなどの対策が重要となる(参考:http://www.ds.mpg.de/2715432/smart_grid)。

<効果>
本論文で構築した、電力網で実際に観測された大きな周波数変動の非正規分布特性を説明する数理モデルは、再生可能エネルギーや電力取引が今後増大することが予想される日本の電力網の安定性、最適性や制御・運用を考えるための基本モデルに成り得ると期待される。

○発表雑誌
雑誌名:「Nature Energy」(ネイチャー・エナジー)
論文タイトル:Non-Gaussian Power Grid Frequency Fluctuations Characterized by Lévy-stable Laws and Superstatistics
著者:Benjamin Schäfer*, Christian Beck, Kazuyuki Aihara, Dirk Witthaut, and Marc Timme(*:責任著者)
DOI番号:10.1038/s41560-017-0058-z

○問い合わせ先
東京大学 生産技術研究所
教授 合原 一幸(あいはら かずゆき)
Tel:03-5452-6691 Fax:03-5452-6692
研究室URL:http://www.sat.t.u-tokyo.ac.jp/index_j.html

資料

 

図1 ドイツで計測された2015年の典型的なある一日の周波数変動
図1 ドイツで計測された2015年の典型的なある一日の周波数変動(データ提供:50Hertz)。
ヨーロッパの電力網では、周波数は50ヘルツの回りで変動する。周波数は、ほぼ50ヘルツに近い値を保つ(黒色:25%~75%の変動幅)が、電力取引間隔に対応する15分毎の大きな変動が顕著に見られる(灰色:最小値~最大値の変動幅)。

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