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【記者発表】表と裏で色の違う半透明膜

○発表者
立間  徹(東京大学生産技術研究所 教授)
齋藤滉一郞(東京大学生産技術研究所 大学院生)

○発表のポイント
◆通常の室内光下ではほぼ透明ですが、やや強い光を当てると光を散乱し発色する半透明膜を開発しました。
◆この技術により、膜の表と裏で違う色にすることができます。
◆通常の材料にはない性質なので、偽造防止・真偽認証などのほか、意匠性色材などへの応用が期待されます。

○概要
色のついた半透明膜は通常、表と裏で同じ色に見えます。東京大学生産技術研究所の立間教授らは、金属ナノ粒子がプラズモン共鳴という現象によって特定の色の光を強く散乱するという性質を利用することで、薄い膜の表と裏を、好みの色に発色させる技術を開発しました。膜内の適切な場所に、適切な材質と形を持つ粒子を埋め込むことで、表から光が当たるとある粒子が、裏からだと別の粒子が、異なる色の光を散乱するように設計しました。通常の材料にはない性質なので、偽造防止・真偽認証などのほか、意匠性色材などへの応用が期待されます。

○内容
色のついたセロハンやパラフィン紙などの半透明膜は、通常、表と裏で同じ色に見えます。東京大学生産技術研究所の立間教授らは、金属ナノ粒子が持つプラズモン共鳴という現象を利用することで、1マイクロメートルより薄い膜の表と裏を、好みの色にする技術を開発しました。金属ナノ粒子は金属の種類や形状によって様々に異なる発色をします。そのため、古くからステンドグラスの着色などに利用されてきました。そうした発色の場合は、粒子が特定の色の光を吸収し、他の色の光は透過する、という性質を利用しています。この場合、膜を不透明にしない限り、表と裏の色を変えることは困難です。
これに対して立間教授らは、比較的大きな金属ナノ粒子がプラズモン共鳴によって、特定の色の光を強く散乱するという性質を利用しました。室内光などのもとではほぼ透明なのですが、懐中電灯やスポットライトなどで照らすと、特定の色の光を散乱するため、色づいて見えます。その色が、表と裏とで異なります(図1)。
この材料を作るには、まず高屈折率の薄膜の上に低屈折率の薄膜をコートします。これに光を当てると、低屈折率の膜の中に光の強い場所と弱い場所ができます。膜の屈折率や厚さをうまく調整すると、表から光を当てたときと裏から光を当てたときで、膜の中の光の強さの分布に大きな違いができます(図2)。裏から当てると光が強く、表からだと弱い場所に「赤色の光を散乱する粒子」を埋め込めば、裏から見ると赤色に見えます。同じ膜に、表から当てると光が強く、裏からでは弱い場所に「青色の光を散乱する粒子」を埋め込めば、表側は青色に見えます。この原理によって、表と裏を思い通りの色に発色させることができます。一つの粒子の「場所」によって違う色の光を散乱する粒子を使えば、一種類の粒子でも表と裏で違う色にすることができます。
通常の材料にはない性質なので、偽造防止・真偽認証などのほか、意匠性色材などへの応用が期待されます。

○発表雑誌
雑誌名:ACS Photonics
論文タイトル:Control of Asymmetric Scattering Behavior of Plasmonic Nanoparticle Ensembles
著者: Koichiro Saito and Tetsu Tatsuma
DOI番号:10.1021/acsphotonics.6b00547
アブストラクトURL:http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/acsphotonics.6b00547

○問い合わせ先
東京大学生産技術研究所
教授 立間 徹
Tel:03-5452-6336
研究室URL:http://www.iis.u-tokyo.ac.jp/~tatsuma/

○参考動画
http://pubs.acs.org/doi/suppl/10.1021/acsphotonics.6b00547
米国化学会サイトの容量制限のため解像度が低くなっています。いずれの動画も、前半は試料、後半は背景にフォーカスしています。


資料


 
図1
図1.表と裏で色の違う半透明膜


 
図2
図2.表と裏で色の違う半透明膜の機構


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