1. 金属ナノ粒子・ナノ構造に基づくエネルギー・情報変換

金属はふつう、光をよく反射します。しかし、数nm−数百nmくらいのサイズにすると、光を吸収するようになり、鮮やかな色を持ちます。金・銀・銅などのナノ粒子は、西洋の教会などで使われるステンドグラスの着色にも用います。

金属ナノ粒子が光を吸収するのは、光の「電場振動」とナノ粒子の「自由電子の振動」が共鳴するためで、この現象を「プラズモン共鳴」と呼びます。

プラズモン共鳴には次のような特徴があります。
・光吸収が強い。
 (吸収断面積が大きい。2次元的に並べただけでも、色がはっきり見える)
・ナノ粒子の金属の種類、大きさ、形、周囲の環境が変わると、色が変化する。
 (つまり、共鳴波長が変化する。紫外光から赤外光まで)
ほかの特徴は、2. 金属ナノ材料の光アンテナ効果で述べます。


金属ナノ粒子のサイズ・形状と共鳴色(模式図)

私たちは、これを酸化チタンなどの半導体と組み合わせると、共鳴ナノ粒子から半導体へ電子が移動し、正と負の電荷が分離することを明らかにし (Nature Mater 2003, JACS 2005)、この現象を「プラズモン誘起電荷分離」と名付けました。


プラズモン誘起電荷分離(模式図)

この現象の解明と、応用について研究しています。


プラズモン誘起電荷分離の現象と機構の解明
 ナノイメージング法などを駆使して、プラズモン局在電場が強い領域で電荷分離が起きやすいこと (Chem Comm 2011)、しかし、局在電場は半導体の励起に寄与しているわけではないこと (Nano Lett 2012)、金属ナノ粒子の電位が半導体より正になること、などを明らかにしています。
 これらのことから、共鳴ナノ粒子から半導体への電子移動により電荷分離が起きていると考えられます。
 ほかにも、高次モードプラズモンでもプラズモン誘起電荷分離が起こることなどを明らかにしています。


プラズモン誘起電荷分離の起こりやすい場所と局在電場の強い場所の相関

あてた光の色に変わる(多色フォトクロミズム)
 酸化チタンの上にいろいろなサイズの銀ナノ粒子を載せると、暗褐色を呈します。これに青、緑、黄、赤などの光をあてると、材料の色が、その光と同様の色に変化します。これは、プラズモン誘起電荷分離により、特定サイズの銀ナノ粒子が銀イオンへと酸化され、ナノ粒子のサイズが変化するためです。紫外光を照射すれば、もとの暗褐色に戻りますので、リライタブルペーパーなどへの応用が可能です (Nature Mater 2003, J Am Chem Soc 2004, Adv Mater 2007)。


多色フォトクロミック材料

目に見えない絵を描く(赤外フォトクロミズム)
 酸化チタンの上に細長い銀ナノ粒子(銀ナノロッド)を載せることで、多色フォトクロミズムを、近赤外領域、つまり目には見えない光の領域へと拡張しました。これにより、(1)肉眼では見えず、赤外カメラでのみ見える画像を表示できます。(2)肉眼で見える画像と、それとは異なる、赤外カメラでのみ見える画像を、重ねて表示できます(図)。(3)偏光フィルターを装備した赤外カメラで見ると、フィルターの角度によって違う画像が見えるように表示できます。(4)画像を消去して再び違う画像を表示することができます。
 特定の長さ・配向の銀ナノロッドを、可視光または赤外光により短縮し、短波長可視光により再伸長することにより(図)、これらの機能を実現しました (Chem Commun 2012)。


赤外フォトクロミック材料

粒子ひとつでいろんな色に(単一粒子フォトクロミズム)
 市販の球状銀ナノ粒子を酸化チタンに載せると、2つの波長(緑と赤)で共鳴を示し、それらが合わさったオレンジ色の散乱光が観察されます。緑色光で強く励起すると、粒子全体が酸化して粒子サイズが小さくなり、緑色の散乱光が減じて、散乱光は赤色になります。赤色光で強く励起すると、粒子下部のみが酸化して酸化チタンとの接触面積が小さくなり、赤色の散乱光が減じて、散乱光は緑色になります。両方励起すれば、散乱光は消えます。1つの粒子でいろんな色に変えることができ、ナノフォトニック素子などへの展開が期待されます (Nano Lett 2012)。


単一銀ナノ粒子の散乱色変化

光でポリマーゲルの形を変える(アクチュエータ)
 銀ナノ粒子を有機ゲルと組み合わせることで、紫外光をあてると水を吸って膨らみ、可視光をあてると水を吐きだして縮む材料を作ることができます。光アクチュエータとしての応用が期待されます (Adv Mater 2007)。


光で膨潤・収縮するゲル材料


光を電気に変える(光電変換)
 プラズモン誘起電荷分離は、光によって正と負の電荷を分けることができます。私たちは、金ナノ粒子や銀ナノ粒子を酸化チタンなどの半導体と組み合わせ、「プラズモン光電変換セル」(太陽電池や光センサ)を開発しました (JACS 2005)。全固体型セルも開発しました (APL 2011)。国内外の他の研究グループも、プラズモン誘起電荷分離を利用した光電変換セルを開発しています。

光で溶液の中身を知る(化学/バイオセンシング)
 金属ナノ粒子のプラズモン共鳴波長は、周囲の屈折率に依存して変化します。この特性を利用した「LSPRセンサ」がよく知られています。私たちは、これにプラズモン誘起電荷分離を適用することで、「任意の波長で測定可能なLSPRセンサ」を開発しました。

光で物質を変える(光触媒)
 プラズモン誘起電荷分離によって分けた正と負の電荷により、それぞれ酸化反応と還元反応を引き起こす「プラズモン光触媒」を開発しました。アルコールやアルデヒドの酸化などに利用できます (JACS 2005)。国内外の多くのグループが、この光触媒で様々な反応を駆動しています。



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