研究目標・方法

半場研では次のような目標・方法で研究に取り組んでいます。

研究目標
研究の立場
乱流のモデル化
研究の手法と対象
生産研究 (日本語による最近の研究速報の論文)


研究目標

研究室のテーマは一言で言えば非一様乱流の物理とモデリングである。

乱流とは水や空気などの流体が時間的空間的に不規則に変化する流れを指す。平均速度勾配を伴う非一様乱流はさまざまな自然現象や工学装置に見られ、宇宙、気象、航空、機械、建築など多岐の分野にわたる。乱流では実効的な粘性率や拡散率が大きくなり輸送や混合が増大することが大きな特徴である。いかにしてこの乱流粘性率や拡散率を平均場を用いて記述するか、そして閉じた方程式系を得るかが重要な課題となる。

半場研ではある特定の流れ場だけに通用する精密なモデル式を経験論的に求めるのではなく、Navier-Stokes方程式などの基礎方程式から出発する理論的な方法に基づき、さまざまな流れ場に共通する乱流現象を記述できる普遍的なモデル方程式を導くことをめざす。またそのためには乱流そのものの物理的機構の理解も必要となる。


研究の立場

乱流研究には大きく分けて二つの立場がある。

一つは理想的に単純化した一様等方性乱流について、流れの構造や速度場の統計などを深く考察し、乱流そのものの理解をめざす研究である。周期境界条件を用いるため理論的に扱いやすく、これまでにも多くの知見が得られてきた。しかし実現象の非一様乱流の予測に役立てることは簡単ではない。

もう一つは自然界や工学分野に見られる非一様乱流について、平均速度分布などを正確に予測する研究である。自然現象の理解や工学装置の設計開発のためにしばしば乱流の予測が不可欠な要素となる。非一様な平均速度分布を持つため理論的な扱いはより難しくなり、現象論的なモデル方程式が多く用いられている。

われわれの研究は前者で得られた知見や手法を後者のモデル化に役立てるという立場で行っている。現象論的に式を立てるのではなく、一様等方性乱流の研究で培われた理論や知見を非一様乱流に拡張し、モデル方程式を理論的に導出・改良し、実現象に適用して検証したい。そのためには乱流そのものの物理的機構の理解を深める必要があり、また非一様乱流独自の理論的手法を新たに開発することも必要である。


乱流のモデル化

乱流のモデル化について概略を説明する。

乱流を含めて水や空気の流れは次のNavier-Stokes方程式で記述できる。

(uは速度、pは圧力、νは粘性率)

乱流の特徴の一つはエネルギーを持つ大きな渦から散逸を担う小さな渦まで、大小さまざまなスケールの運動を含むことである。レイノルズ数Re(=UL/ν)が高いほど乱れがよく発達し、最大渦と最小渦のスケールの比が増加する。レイノルズ数があまり高くない乱流場はNavier-Stokes方程式を数値的に解き、精度良く速度場を求めることができる。しかし実現象で見られるような高レイノルズ数の乱流では膨大な記憶容量や計算時間が必要となり、現在の計算機では解くことが困難である。そこで乱流の速度場を平均部分Uと乱れ部分u'に分け、平均速度場だけを計算することが行われてきた。


上記の平均速度の方程式にはレイノルズ応力<u'u'>という未知の項が含まれ、方程式を閉じるにはこの項のモデル化すなわち既知の量を使って表すことが必要となる。代表的なモデルに渦粘性近似がある。

ただしνTは渦粘性率である。レイノルズ応力は運動量のフラックスとして解釈でき、乱流による運動量の輸送を表す。渦粘性率という輸送係数をどのように乱流統計量を用いて表すかが課題となる。

最も素朴な方法は渦粘性率の空間分布をあらかじめ与えてしまう方法である。また工学でよく用いられるモデルでは乱流の運動エネルギーとその散逸率を用いて渦粘性率を表す。しかし既存のモデルでは必ずしも正確に表せない乱流場もある。そこで渦粘性率のモデルをさらに改良したり、非線形項を取り入れて渦粘性近似そのものを改良したりする研究が進められている。さらには平均操作そのものを再考して乱流の取り扱いを変える必要もあるかもしれない。


研究の手法と対象

半場研で行われている研究の手法として理論と数値計算の二本の柱がある。2スケール相互作用近似(TSDIA)と呼ばれる乱流の統計理論を主に用いて上述のモデル方程式の導出や改良を行うことと、モデルを検証したり乱流の機構を考察するためにRANSやLES、直接数値計算などの数値シミュレーションを行う。

また、研究の対象としての乱流はおおまかに次の3つに分類できる。

一つ目は非圧縮性流体の乱流場で、上述のNavier-Stokes方程式で正確に記述できる。音速に比べ十分遅い空気や水の流れは非圧縮性乱流として扱うことができる。この乱流は一様等方性乱流、非一様乱流ともに最も研究が進んできた流れ場であるが、壁面近傍のふるまい、非定常な流れ場の予測、散逸率方程式の物理的根拠など依然として解明されていないことがらも多い。

二つ目は上記の乱流場にさまざまな物理効果や外力が加わる場合であり、Navier-Stokes方程式に付加項が付け加わり、また他の物理量の発展方程式を解く必要がでてくる。例えば、浮力、回転、圧縮性、電磁流体の効果などである。具体的には熱対流や旋回流、高速流、また天体や核融合プラズマなどの乱流現象である。温度や密度、磁場などの平均場の方程式を解きそれらの輸送係数をモデル化する必要がある。このような乱流場では必ずしも一様等方性乱流の知見が十分得られておらず、また乱流モデルの構築もさらにむずかしくなる。

三つ目は基礎的な支配方程式そのものが確立していない流れ場である。たとえば気体、液体、微粒子などが混在する混相流や、発熱、膨張、化学変化などを含む燃焼流などである。このような流れ場はNavier-Stokes方程式に対応する支配方程式そのもののモデル化が必要であり、さらに平均操作を取り入れて乱流量のモデル化をすることはますます困難であるが、チャレンジングな課題である。

半場研では現在1,2番目が主な研究対象だが、3番目の対象にも取り組んでいきたいと考えている。


生産研究

半場研では年に1度、所報の「生産研究」に研究報告を掲載している。最近の論文は以下のとおりである。

2024年

  • 半場, スケール空間エネルギーを用いた非局所渦拡散率モデル, 生産研究 Vol. 76, p. 5 (2024) JSTAGE
  • 中村, 半場, 乱流レイリー流れにおける熱フラックスの逆勾配拡散, 生産研究 Vol. 76, p. 11 (2024) JSTAGE
  • 小山, 乱流ヘリシティがエクマン境界層に与える効果について, 生産研究 Vol. 76, p. 33 (2024) JSTAGE
  • 横井, ミゼルスキ, ブランデンブルグ, 非平衡乱流ダイナモ, 生産研究 Vol. 76, p. 39 (2024) JSTAGE

2023年

  • 半場, 乱流スカラーフラックスの非局所渦拡散率, 生産研究 Vol. 75, p. 5 (2023) JSTAGE
  • 横井, ミニーニ, ヘリシティ・サブグリッド・スケール・モデルの検証, 生産研究 Vol. 75, p. 11 (2023) JSTAGE
  • 堀江, 半場, 回転チャネル乱流における乱流ヘリシティのスペクトル分布と散逸, 生産研究 Vol. 75, p. 15 (2023) JSTAGE
  • 中村, 半場, 衝撃波/乱流相互作用に対するRANS モデル, 生産研究 Vol. 75, p. 19 (2023) JSTAGE
  • 小山, エクマン境界層における圧力渦度相関による拡散項のモデルの評価, 生産研究 Vol. 75, p. 25 (2023) JSTAGE

2022年

  • 半場, チャネル乱流におけるスケール空間エネルギー密度と非一様性, 生産研究 Vol. 74, p. 11 (2022) JSTAGE
  • 横井, 政田, 滝脇, 非平衡効果によるプリュームを伴う恒星対流のモデリング, 生産研究 Vol. 74, p. 17 (2022) JSTAGE
  • 堀江, 半場, 回転チャネル流における乱流ヘリシティの生成輸送と粘性散逸, 生産研究 Vol. 74, p. 5 (2022) JSTAGE

2021年

  • 半場, 非一様乱流におけるフィルター平均速度相関とエネルギー密度, 生産研究 Vol. 73, p. 5 (2021) JSTAGE
  • 横井, 二重平均手続きを用いた対流乱流のモデリング, 生産研究 Vol. 73, p. 29 (2021) JSTAGE
  • 小山, エクマン境界層における乱流ヘリシティの予測とレイノルズ応力の評価, 生産研究 Vol. 73, p. 23 (2021) JSTAGE
  • 稲垣, Lagrange応答関数における鏡映対称性の破れの効果, 生産研究 Vol. 73, p. 11 (2021) JSTAGE
  • 堀江, 半場, 壁垂直軸周りの回転を与えたチャネル乱流における乱流ヘリシティの生成と輸送, 生産研究 Vol. 73, p. 17 (2021) JSTAGE

2020年

  • 半場, チャネル乱流におけるエネルギー逆カスケードと衝突流, 生産研究 Vol. 72, p. 19 (2020) JSTAGE
  • 横井, 圧縮性電磁流体乱流での傾磁場効果, 生産研究 Vol. 72, p. 25 (2020) JSTAGE
  • 小山, 不安定成層流体における格子乱流の数値計算, 生産研究 Vol. 72, p. 31 (2020) JSTAGE
  • 稲垣, ヘリシティを注入した回転系非一様乱流におけるエネルギースペクトルの時間発展, 生産研究 Vol. 72, p. 37 (2020) JSTAGE

2019年

  • 半場, チャネル乱流におけるエネルギーカスケードと渦構造, 生産研究 Vol. 71, p. 5 (2019) JSTAGE
  • 横井, ティトフ, ステパノフ, ヴァーマ, サムタニィ, 電磁流体乱流の散逸スケールで生じるクロス・ヘリシティの符号反転, 生産研究 Vol. 71, p. 9 (2019) JSTAGE
  • 稲垣, 半場, 回転系非一様乱流における平均速度分布維持に対するCoriolis力およびヘリシティの役割, 生産研究 Vol. 71, p. 15 (2019) JSTAGE

2018年

  • 半場, フィルター関数を用いたスケール空間乱流エネルギー密度, 生産研究 Vol. 70, p. 7 (2018) JSTAGE
  • 横井, ソコロフ, 非線型ダイナモの平均場方程式の経路積分法による解析, 生産研究 Vol. 70, p. 11 (2018) JSTAGE
  • 小山, 温度成層を伴う格子乱流における温度ゆらぎとその散逸率の予測, 生産研究 Vol. 70, p. 15 (2018) JSTAGE
  • 稲垣, 半場, 回転系非一様乱流における回転軸方向エネルギーフラックスの評価, 生産研究 Vol. 70, p. 19 (2018) JSTAGE

2017年

  • 半場, 円管内旋回乱流における渦粘性率の履歴効果, 生産研究 Vol. 69, p. 5 (2017) JSTAGE
  • 横井, ブランデンブルグ, 非一様ヘリシティによる流れ生成と角運動量輸送, 生産研究 Vol. 69, p. 9 (2017) JSTAGE
  • 小山, 渦粘性係数と渦熱拡散率の輸送方程式を加えた乱流モデルの提案, 生産研究 Vol. 69, p. 15 (2017) JSTAGE
  • 稲垣, 半場, 圧力拡散による乱流エネルギー輸送に対するヘリシティの効果, 生産研究 Vol. 69, p. 21 (2017) JSTAGE
  • 金本, 半場, 乱流エネルギー散逸率輸送方程式の消散項のモデリング, 生産研究 Vol. 69, p. 25 (2017) JSTAGE

2016年

  • 半場, チャネル流におけるスケール空間の乱流エネルギー密度, 生産研究 Vol. 68, p. 5 (2016) JSTAGE
  • 横井, 乱流モデルによる天体物理現象へのアプローチ, 生産研究 Vol. 68, p. 11 (2016) JSTAGE
  • 小山, 自軸回転円管内乱流における3次乱流モデルの役割, 生産研究 Vol. 68, p. 21 (2016) JSTAGE
  • 稲垣, 横井, 半場, 乱流ヘリシティを含む回転系非一様乱流とモデリング, 生産研究 Vol. 68, p. 29 (2016) JSTAGE

2015年

  • 半場, 一様等方乱流におけるスケール空間の乱流エネルギー密度, 生産研究 Vol. 67, p. 3 (2015) JSTAGE
  • 横井, 太陽周期を説明する新しいモデル, 生産研究 Vol. 67, p. 17 (2015) JSTAGE
  • 小山, 鉛直チャネルにおける自然対流の乱流モデルによる数値解析, 生産研究 Vol. 67, p. 11 (2015) JSTAGE
  • 有木, 半場, 乱流における非一様性効果の理論的解析法, 生産研究 Vol. 67, p. 7 (2015) JSTAGE