生産研究 1998年12月号

第50巻第12号
(生産研究は、生産技術研究所の研究紹介誌として、毎月1回発行する)

目次

小特集:サステナブルエンジニアリング

巻頭言

サステナブル・エンジニアリング
村上周三


論説

サステナブルな生活環境整備のための地下環境における課題
小長井一男

サステナビリティに関する問題提起
西尾茂文

持続可能性の虚と実
渡辺正

建築におけるサステナビリティ
村上周三


解説

人間−水循環系におけるバランスとサステナビリティ
虫明功臣


論説

建築物のライフサイクルとサステナブルデザイン
伊香賀俊治

一般投稿

研究速報

ブレストレストコンクリート用FRP緊張材の特性(18)
−高温環境下におけるガラス繊維およびカーボン繊維の引張強度特性−

魚本健人・西村次男・加藤佳孝


サステナブルな生活環境整備のための地下環境における課題
小長井一男

 地盤は土粒子のみならずその中で比較的大きな体積を占める間隙に貯えられた水からなっている。この水のくみ上げで生じた地盤沈下は地震を含めた防災上の観点から高い代価として財政を圧迫している。地盤沈下は不可逆的に進行する現象で、負の遺産として子々孫々に受け継がれていくものであり、サステナブルな生活環境実現のため避けて通れない課題である。


サステナビリティに関する問題提起
西尾茂文

 本稿では、持続可能性に関するいくつかの問題提起を行った。即ち、持続可能性については資源、環境、食糧などの物理的制約要因に基づく議論が多いが、まず没個性的な科学技術の側面など文化的要因が持続可能性に関する制約要因として重大であることを指摘し、文化的要因に基づく問題を物理的制約要因に基づく地球資源・環境問題と対置して人工環境問題として指摘した。次いで、こうした問題をもたらした科学技術の底流思想が要素間などの関係性を無視した物的科学技術であること指摘し、関係性を重視した事的科学技術の樹立の重要性を主張した。最後に、事的科学技術の具体例を2つ挙げている。


持続可能性の虚と実
渡辺正

 「持続可能性」につき,以下についてできるかぎり定量的に論じた。タイムスパンとして少なくとも数百年は考えるべきである。二酸化炭素放出抑制に実効はありえない。差し迫った問題として,ほぼ50年後に予想される「世界人口100億人」「食糧不足」が大きい。食糧生産はいま石油なしにはありえない。産業エネルギー源の大半は太陽の恵みであり,ポスト化石資源時代に考えられるエネルギー源としては「今の太陽」しかない。しかし太陽光発電の推進には疑問がある。


建築におけるサステナビリティ
村上周三

 サステナブルな建築環境を実現するためには、当然ライフスタイルにも何らかの制約が加えられる。このような制約を前提にして、将来どのような建築環境、どのようなライフスタイルの下で生活するかについて、許容しうる共通の合意を持つことが求められている。特にその実現のプロセスにおいては、時間スケール、空間スケールを考慮しながら、工学的に実現可能な計画を策定する必要がある。その場合、現在既に使用されている環境評価、環境管理の手法は有効に利用しうる。エネルギー・資源消費の多い日本や今後その急激な増加が予想されるアジア諸国において、サステナブルな建築を普及させることは特に重要である。


人間−水循環系におけるバランスとサステナビリティ
虫明功臣

 人と水との係わりには、価値観や利害の異なる3つの側面、すなわち水利用、水害軽減および水環境の保全・回復の側面がある。持続可能な水資源管理に際しては、行政諸機関、地域団体、住民等の合意の下にこれらの異なる要請を如何にバランスさせるかが出発点となる。水文ヌ:ぢ水資源工学の役割は、政策の形成や施策の選択の合意形成へ向けて科学技術的に根拠のある情報を提供することである。本論では、我が国で現在進められている都市の水循環系再生プロジェクトの事例を中心として、意思決定支援ツールの意義と効果について議論する。


建築物のライフサイクルとサステナブルデザイン
伊香賀俊治

 モデル事務所ビルの室内環境改善と環境負荷削減の関係を検討し、両者が矛盾しない建築デザインは可能であり、汎用技術の範囲内でLCCO2を30%削減し得ることを示した。
また、筆者がこれまでに手がけた建築を題材として、一品生産品である建築物の設計・建設プロセスの中に、サステナブルエンジニアリングをどのように定着させるか、建築物のサステナビリティをどこまで高められるか、について考察した。


ブレストレストコンクリート用FRP緊張材の特性(18)
−高温環境下におけるガラス繊維およびカーボン繊維の引張強度特性−

魚本健人・西村次男・加藤佳孝

 本研究では,一方向繊維強化プラスチックロッドを構成するガラス繊維およびカーボン繊維の2種類を用い,常温20℃と,高温環境下(温度40℃,80℃,湿度60±2%)における耐化学薬品性劣化促進試験(アルカリ溶液,塩酸水溶液および純水)を行い,浸漬試験後の引張強度ならびにSEM観察により劣化性状を明らかにした。その結果、ガラス繊維は浸漬温度80℃ではいずれの溶液においても浸漬材齢30日以降になると、環境温度の影響を受け引張強度が急激に低下することが明らかとなった。一方、カーボン繊維は浸漬材齢の進行ならびに環境温度が高くなるに従ってもガラス繊維のような大幅な強度低下が見らない。また、強度低下幅は約2%〜約18%となることが明らかとなった。また、SEM観察よりガラス繊維は、水酸化(IEDX3Q溶液と塩酸水溶液に浸漬したものは繊維表面に損傷を受けことが確認できた。


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