本研究室は、伝熱・熱輸送に関連した熱現象のより深い理解を目指して、また冷却や素材製造システムにおける熱制御技術の開発を目指して研究を行っている。伝熱・熱輸送現象に関しては、液相の相変化現象と振動励起熱輸送現象(熱音響現象)とに力点を置いて研究している。熱制御技術に関しては、伝熱促進、超電導導体の冷却安定化、電子素子の液体浸漬冷却、鋼材の加工熱処理プロセスにおける冷却、および急速凝固における超急冷技術などに注目して研究を行っている。
本研究室では、現在、以下の4課題を中心に研究を進めている。(1)液相の相変化現象における素過程と伝熱
沸騰や凝固など液相からの相変化現象においては、核生成、異相成長、安定/不安定界面形成などの素過程により、複雑な構造が生成される。したがって、相変化現象を伴う伝熱過程に関してモデルを構築するためには、こうした素過程に関する知見とそれらのモデルへの取り込みとが重要となる。こうした認識に基づき、沸騰現象については、沸騰核密度を評価するために重要な(固体表面キャビティに捕獲された)既存気泡核の熱力学的安定性基準、遷移沸騰モデルを構築するために必要な固液接触に対する熱流体的限定機構、膜沸騰に関する全体像を記述するための気液界面の安定性や動的挙動について研究を行っている。一方、凝固現象に関しては、急速凝固における接触熱抵抗の形成機構を同定しこれを抑制するために、移動冷却面と融液との接触界線の安定化を追求している。
(2)振動励起熱輸送現象とその応用
流体を往復流動させることにより、異常熱・物質拡散やヒートポンプ効果を誘起できることが知られている。我々は、これを振動励起熱輸送と称している。往復流動流体が液体である場合には、ヒートポンプ効果より顕著に大きい異常拡散効果が現れ、この現象を利用すると通称”ドリームパイプ”と呼ばれる非相変化型の熱輸送管が構成できる。これについて本研究室では、原型ドリームパイプの熱輸送能力を遥かに凌駕する”逆位相振動制御型熱輸送管”を提案・開発した。往復流動流体が気体である場合には、異常拡散効果より顕著に大きなヒートポンプ効果が期待できる。この場合には、この現象を利用することによりパルス管冷凍機など低温部に可動部を持たない新しい冷凍機が構成でき、現在新しいパルス管冷凍機について検討を行っている。
(3)伝熱促進技術
伝熱促進技術の開発は、多くの工学領域において期待されている。例えば、乱れ促進体を用いると乱流熱伝達は促進されるが、ポンプ動力が増大する。そこで、伝熱促進率を維持しながらポンプ動力の増大を抑制する多孔板型乱れ促進体を開発した。沸騰熱伝達による冷却に関しては、沸騰面表面に薄い熱抵抗層を付加することにより逆に冷却時間を大幅に短縮する冷却促進法を開発した。これを、断熱層のパラドクスと称している。また、沸騰熱伝達の促進あるいは沸騰熱伝達の姿勢依存性を抑制するために、電場による沸騰熱伝達促進について検討した。
(4)極低温、電子および素材製造システムにおける熱制御
現在現出しつつある技術領域の一つは、超電導導体、電子・光素子、マイクロマシン、宇宙機器あるいは素材製造過程などにおける熱制御技術であるとの理解から、本研究室ではこれらに関して以下の研究を行ってきた。まず、上述の断熱層のパラドクスについては、これが液体ヘリウム浸漬冷却型超電導導体の安定化に有効であることを提案し、この効果を実証した。鋼材の加工熱処理プロセスにおける噴霧冷却については、その安定化を図るために冷却面表面因子や流体側因子の影響を広範囲に把握した。さらに、小規模蒸気爆発を制御下に置くことにより、その急速熱移動および微粒化能力を積極的に利用した急速凝固金属粉末製造法を提案し実証した。
カラー高速度ビデオ撮影装置(1000fps)
高速度ビデオ撮影装置(2048fps)
画像処理装置
高速度ディジタル記録装置
直流安定化電源(16V−500Amax)
直流安定化電源(30V−300Amax)
赤外線加熱装置
循環式恒温槽
西尾茂文教授
永田真一助手
上村光宏技術官
現在なし