質問1:
シクロペンタジエン(pKa = 16)とトルエン(pKa = 41)は双方とも共役塩基に多くの共鳴構造がかける。にもかかわらずなぜこうもpKa値が異なるのか。
回答1:
シクロペンタジエンは芳香族化合物ではありませんが,プロトンを放出して生成するアニオンは芳香族性を帯びています。つまり,この化合物はアニオンになることにより芳香族安定化エネルギー分だけ大きく安定化されるのです。これに対し,トルエンはもともと芳香族性をもっています。メチルからプロトンが抜けてアニオンになろうがなるまいが芳香族性を持つという性質には変化はありません。これがシクロペンタジエンとの大きな相違です。pKaの違いはこの理由によるものです。
質問2:
ビニル基は-R効果(電子求引性のR効果)といったようだが,+R効果(電子供与性のR効果)の間違いではないか?例えば,スチレン(ビニルベンゼン)とベンゼンのブロモ化(FeとBr2による)はどちらが反応性高いのか?
回答2:
最初の質問について。ちょっと真意がわからないのですが,おそらくは,sp2炭素をもつ官能基が電子求引基としてふるまうといったことに対して,いや,ビニル基は電子供与性基としてふるまうはずだ,と反論したいのではないかと思い,それに対して回答します。
安息香酸とp-ビニル安息香酸のpKaはそれぞれ4.20と4.24です。また,フェノールとp-ビニルフェノールのpKaはそれぞれ9.86と9.94です。すでに講義でビニル基のI効果は電子求引性であるとお話しましたので,pKaの値がp-ビニル基を持つものの方がわずかに大きいことからビニル基のR効果はご指摘のとおり電子供与性であることがわかります。私が講義中に話したのはビニル基は”I効果が”電子求引性だ,ということであって,R効果がどうなのかについては触れなかったつもりですが・・・
次の質問です。この質問は芳香族化合物の反応性(つまり,ブロモ化には触媒が必要ということ)を知っていないとできないので,すでにかなり有機をご存知の方だと思います。さて,実際にそのような実験を行おうとした場合のことを考えてみましょう。アルケンの反応性はベンゼンよりも圧倒的に高く,このためスチレンは触媒の有無に関わらず二重結合部分に極めて早く臭素付加が起こり,(1,2-ジブロモエチル)ベンゼンになると思われます。結果として,お尋ねのようなベンゼンとスチレンの反応速度の差を見ようとしてもそれは実験的に不可能ということになります。このように,『いつも紙の上で考えたようにはいかない』というところが,有機化学の難しいところでもありまた面白いところでもあります。
以上