生研リーフレット No.278
1996年12月2日  東京大学生産技術研究所発行

小型航行型海中ロボット「マンタ・チェルシア」
Small Cruising-Type Underwater Robot "Manta-Ceresia"

浦 研究室

TIMETRAVEL 1. 海洋は表面積だけでも地球表面の70%を占め人類の生活に大きな影響を与えている。そこで海洋・海底の計測・探査等の要望が生じるが、広大な海洋を探査するには比較的速度が速く、自動的にデータの収集を行えることが要求される。このようなことを行うロボットとして無索無人の航行型の海中ロボットが考えられる。航行型海中ロボットにおいて重要な事は高い信頼性と自律性を持たせるためにどのようなソフトウェア構造でどのような制御方法を使用するのが望ましいかを決めることである。実際に海で稼働する航行型ロボットは大きく重いので、ロボットの働きを検証するための実験を行うためには非常に大きな水槽を使用するか実際に海で実験を行う必要があり、たいへん大がかりなものになる。そこで水泳用のプール程度の水槽で長時間航行できるようなテストベッド・ロボットを製作し、これを用いて実験を行い信頼性の高いソフトウェアを開発することが考えられ、1996年5月にマンタ・チェルシアが完成した。
2. 図1に水槽内を航行中の写真、図2にマンタ・チェルシアの一般配置図、表1に主要目及び搭載装置の一覧を示す。マンタ・チェルシアは鉛直面内に4つの超音波測距センサを備え、それぞれ、真下、30度前、60度前、正面方向の障害物までの距離を計測するとともに左右にもこの測距センサを備え左右の壁までの距離を計測できる。これらのセンサによって、起伏のある水底面に沿って航行したり、壁から一定の距離を保って水槽の中を周回航行することができる。 CPUにはINMOS社のTransputer T805×2とNEC社のV50を使用している。Transputerは全体のミッションの統括とコントロールの計算を行い、V50はセンサ・アクチュエータとのI/Oに使用する。電源は94Whのニッケル水素電池を内蔵し最大2時間30分の航行が行える。最大速度は約1m/secで最大8km程度の航行が行える。運動のコントロールはスラスタとエレベータで行う。左右のスラスタの回転数を調整することで、前進、後進、回頭を行い、左右のエレベータを動かすことで深度のコントロールと左右の傾きのコントロールを行う。CPUによる航行の他に無線による遠隔操縦による航行を行うこともできる。遠隔操縦時のセンサの値、コントロールの指示値を記録しておける。 3. マンタ・チェルシアにはニューラルネットワークによるコントローラを実装し、水槽内を周回航行するうちに経験したことから学習を行い、だんだんと水底の起伏に沿って航行できるようになることが実現できている("自己訓練と学習に基づく海中ロボットの運動制御", 日本ロボット学会誌, Vol. 13, No.7, 1995)。このロボットを用いていろいろなソフトウェア構造や制御方法について比較・検討を行う予定である。

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参考 http://underwater.iis.u-tokyo.ac.jp/ (執筆責任者 須藤 拓)